勇者の村2
それからも毎日アイリに嫌がらせを続けた。
しかし満足のいく成果を得られぬまま五年の時が流れた。
「ビルくん、準備はできた?」
「ああ、お前の数百倍早くな」
「そんなに⁉ さすがビルくん!」
アイリは肩ほどまでだった白髪を腰まで伸ばし、勇者としての正装に着替えていた。腰には魔王を討つための聖剣を携えている。
対して俺は、お世辞にも旅に出るとは思えないボロボロの軽装で、旅用の荷物が入ったリュックを背負わされていた。
この日、十五歳になったアイリは勇者として旅立つことになった。
勇者が旅立つ際には、村から一人荷物持ち兼護衛を付ける決まりになっており、アイリが俺を指名したのだ。
村には他にも屈強な奴らがいるのに、俺なんかを選ぶなんて馬鹿な女だぜ。
掟は絶対で拒否権はない。こいつのことは嫌いだが、仕方ないので付き合ってやることにした。
「アイリ様バンザーイ!」
「頑張ってくださいアイリ様―!」
アイリは村のみんなからの声援に手を振って答えていた。
当然だが俺に声を掛ける奴はいない。村の奴らからすれば、アイリを危険な目に合わせる愚か者と言うのが共通認識で、あいつがいなければ殺されていたかもしれない。
まあ、あいつさえいなければ普通の生活を送っていたんだろうがな。
「それじゃ、行こうか」
「へいへい」
俺たちは足早に村を後にした。
しかし一番近くの町でさえここから歩いて三日はかかるので、今日は野宿をする場所を早めに確保することにした。
リュックから簡易テントを取り出し、二人で協力しながら張る。
わざと負担のかかる作業を押し付けたが、勇者の力のためか余裕そうにこなしていた。
火を起こし、準備していた材料を鍋に入れていく。
料理は俺の担当であいつには絶対手伝わせない。
一度料理を作らせたことがあるが、消し炭が出来上がっただけでなく、家が火事になりかけた。
「俺特製の熱々シチューだ。火傷にもがき苦しむがいい」
「あったかくておいしい! 寒い夜にはぴったりだね!」
シチューをおいしそうに頬張るアイリを見て内心舌打ちする。
やはり、こんな奴が勇者など信じられない。どれだけ成長してもやはりとろそうだ。大きくなったものと言えば胸ぐらいか? 頭脳がそこに吸われちまったんだろう、哀れな奴だ。
「ご馳走様でした。じゃあテントで一緒に寝ようよ」
「はあ? お前なんかと一緒に寝られるかよ。俺は外で寝る」
「…………駄目?」
こいつの泣き顔を見て気分が良くなった俺は、今日だけ一緒に寝てやることにした。もちろん寝袋は別々だ。