エルフの里1
ミツキの力を借り、俺たちは海を渡った。
竜たちは普段は人間の姿を取り、その力を抑えている。本来の力を出し、疲労したミツキのため、俺たちは休息をとることにした。
「休むと言ってもどこで休むんだい?」
「ここにキャンプを作るしかねえだろ。俺たちが交代で見張りをして――」
「付いてきて、私に当てがあるわ」
メリーはそう言うと獣道をかき分けていく。俺たちはその後に続いた。
慣れたように先頭を行くメリーの後ろにミツキが引っ付くように歩いていた。興味深そうにきょろきょろと辺りを見渡している。
「メリーはここに来たことがあるのか?」
「何回もね。ミツキちゃんは?」
「私はない、海を渡ってきたのも初めてだ。ずっと里にいたからな」
「そう……ここから先はつらいものを見るかもしれないけど大丈夫?」
「ああ、ここに来た時点で覚悟はしているさ」
獣道を抜けた先には小さな村があった。木造の家が並び、住民たちが生活を送っているのが見えた。
だが、住民は人間ではない。人間と同じような姿をした、長い耳が特徴のモンスター、エルフだ。
「こんなところにエルフの里があるとは……奴隷商人でもいたら大喜びするだろうね」
以前捕まっていたエルフたちを助けたことを思い出す。
エルフは奴隷市場において高額で取引されることが多い。見た目が美しいエルフはそれだけで価値がある存在になっているのだ。
「ふざけないで」
メリーが殺意も隠さず、ベックを睨み付けていた。ベックは降参するように両手を上げながら頭を下げる。
「……ごめん、失言だったよ」。
「次はないわよ?」
メリーは踵を返し、ベックはぽりぽりと頭を掻いていた。
やれやれ、どうやら落ち着いたみたいだな。アイリが不安そうに、服の裾を掴んでくるのが鬱陶しかったところだ。
メリーは「ちょっと待ってて」と言うと、一人で里に向かって行った。
先ほどの反応からすると、エルフたちと何か関わりがあるようだが、さっぱりわからない。
歓声が上がり、ほどなくしてメリーが戻って来た。横には緑髪を肩でそろえた女性のエルフを連れている。
「みんなおまたせ。休む場所を貸してくれるそうよ」
「初めまして、私の名前はオーロラ、ここの村長をしています。メリーから話は聞き来ました。どうぞこちらへ」
エルフたちは俺達の為に一軒家を用意してくれたばかりか、食事まで提供してくれた。一応、すぐに食いつこうとしたアイリの前に毒見はしたが、杞憂だった。
ここまでしてくれる理由を問えば、メリーに世話になったとだけではぐらかされるばかり。謎は残ったままだが、素直に好意を受け取ることにした。
「このお肉美味しい! サラダもとても美味しい!」
「うるさい! 黙って食いやがれ!」
アイリのアホが口元を汚しながら、がつがつ食べている。確かに美味いが、そこまでおおげさに喜ぶんじゃねえ!
「もしかして、アイリ様が自分の料理より美味しそうに食べるから嫉妬しているのかい?」
「んなわけねえだろ!」
「ごめん……ビルくんの気持ち考えていなかった……」
「だから違うと言っているだろうが!」
アイリの餅のような両頬をつねりながら伸ばす。涙を浮かべながら謝ってくるが、しばらくこうしていないと気が済まない。あいつらが微笑ましそうにこちらを見てくるが、今はアイリをいじめるのが先決だ。
「いやはや、相変わらず可愛らしい二人だ。見ていて飽きないねえ」
「あの二人はずっとこの調子なのか?」
「ビルはアイリ様を嫌っているらしいからね」
「嫌いと言っている割にその感情はむしろ――」
「おっとそれ以上は野暮ってもんだよ?」
あいつら何話してやがるんだ? 俺がこいつを嫌っているのは見ればわかるだろうに。
ひとまず満足したから両手を話し、アイリを解放する。痛そうに頬を撫でている姿は、見ていて痛快だぜ。




