竜の里2
「今回の戦いで我々は勝利できたが、それはここにいる勇者たちのおかげだ。彼女たちに力を貸そうと思うが異論のあるやつはおるかの?」
竜たちは満場一致で賛成した。
これでようやく海を渡ることができる。
「ところでミツキや」
「っ! な、なんだ長老?」
「お前も付いていくといい」
突然長老がそんなことを言い出した。ミツキは顔を赤らめ全力で首を横に振っている。
「隠さなくてもいい。お前が言っていたではないか『竜は感情の変化に聡い』と。お前の心などまるわかりじゃ……」
ミツキは恥ずかしそうに俯いていた。
初対面時は無表情で不愛想な奴だと思ったが、こう見てみるとめちゃくちゃわかりやすいな。
そのミツキのもとへアイリがしゃがんで視線を合わせる。
「貴方はどうしたいの?」
「……行く。私がお前たちに手を貸してやる!」
ミツキはそう宣言して、腕を組みながらそっぽを向いた。
アイリは嬉しそうにミツキを抱きしめる。
「ありがとうミツキちゃん。私たち今日から友達だね」
「と――――――!」
ミツキは魚のように口をパクパクしながら固まってしまった。今日一番赤くなってやがる。茹蛸みたいだ。
「アイリ様の前では竜さえたじたじだなあ」
「母性溢れるアイリ様も素敵―!」
ベックもメリーも戦いで大したケガを負うことはなかった。むしろ負傷した竜たちの手当に回るぐらい余裕があるようだ。
「よっしゃ今日は無礼講じゃ! ミツキの旅立ちを祝おうぞ! ひゃっはー!」
「おおおおおおおお!」
急に長老が叫び、奇抜な踊りを始めた。それに合わせて他の竜たちも踊り始める。酒を飲み、肉を食べたり好き勝手にやり始めた。
負傷者さえそれに混ざり始めたので、手当を諦めたベックが俺の横に腰かける。
「こいつが竜の伝統ってやつなのかい? 個性的だねえ」
「知るか」
「折角だ、アイリ様を連れて混ざってきたらどうだい?」
「何で俺がそんなことしなきゃいけねえんだよ?」
「疲れた体で一緒に踊るとなると、アイリ様も嫌がると思うけど?」
よっしゃ、なら精一杯踊ってやるよ。
俺は固まったミツキを心配して狼狽えるアイリの手を取った。
アイリは困惑した様子で頬を赤らめている。
「ど、どうしたのビルくん⁉」
「一緒に踊ってくれよ」
「な―!」
その後、俺とアイリは精一杯踊った。あいつがずっと笑顔だったのは気に入らないが、やせ我慢だろうと内心笑ってやったぜ。
「……ビルちゃんってちょろ過ぎるわよね?」
「わかる」
疲れ果てて倒れていたら、そんな声を聞いた気がしたが気のせいだろう。
アイリは俺の横で寝息を立てていたので毛布を掛けてやった。暑くなって寝苦しいだろう。いい気味だ。
「……あれで本当に嫌がらせしているつもりなのかしら?」
「あいつは本気さ。目をみればわかるよ」
「ほんとね、すごく満足そう」
二人の言う通り、俺は今日も満足していた。だが――
「ミツキよ、お前の探し物が見つかるといいのだが……」
ふと耳に入った長老の言葉だけが残り続けた。




