竜の里1
俺たちは竜の里に来ていた。
海の先にある魔王城には魔法の力、もしくは長距離を飛行できる竜の力を借りなければ渡れない。
まな板魔女は一人で渡れるが、俺たち全員を連れての移動は無理だ。
というわけで竜の力を借りに来たのだが――
「すまぬが今は其方たちに手を貸す余裕がないのじゃ」
角を生やした老人の姿をした長老が申し訳なさそうに頭を下げてきた。
長老曰く、魔王の配下であるダークドラゴンたちが襲ってくるようになり、そちらに手を回さなければならないのだという。
そんな話を聞いたからには、あの馬鹿が黙っていないだろう。
「そのダークドラゴン退治、私たちにも手伝わせてください!」
アイリの力強い宣言に胸を打たれたのか、長老は泣きながら俺達一人一人に握手を求めて来た。鬱陶しいから俺は無視したけどな。
「そうじゃ! おーいミツキやーい!」
「呼んだか? 長老」
長老の声に合わせて、銀髪をツインテールにした少女が姿を見せる。頭から角を生やしているってことは、こいつも竜ってことか。
「ミツキよ、この者たちが今回の勇者と仲間達じゃ。ダークドラゴン討伐を手伝ってくれるらしいのでな、一緒に持ち場についてくれ」
「わかった」
ミツキと言うらしい少女は無表情に頷く。
しかし、見れば見るほど小さい餓鬼だ。ちんちくりんだな。
「何か言ったか?」
「いーや、別に」
「……覚えておけ、竜は感情の変化に聡い。お前が変なことを考えていることがわかったら即噛み捨ててやる」
ちんちくりんはそう言うと不機嫌そうに歩き始めた。付いてこいというわけか。
「ビルちゃん、あんまり女の子をじろじろ見ちゃダメよ。勘違いしちゃうじゃない?」
「はあ!?」
「び……ビルくんって、年下好みなの?」
「ちげーよ!」
どいつもこいつも馬鹿ばっかだ。何も言ってこないベックの野郎がまだましだぜ。
「ぐーぐー……」
違う、話が長すぎて寝ていたこいつが一番馬鹿だ。
騒ぎ始めた俺たちに、ちんちくりんが怒鳴り散らしたのは言うまでもあるまい。
――――
――
俺たちはミツキに里近くの塔まで案内された。見晴らしのいいこの場所でダークドラゴンの動向を探っているらしい。
「いいか、ダークドラゴンたちは海を飛んで渡ってくる強大な存在だ。警戒を怠ればすぐ死ぬことになるぞ」
ミツキは望遠鏡を見ながら警戒を促してくる。周りにいる里の者たちも、臨戦態勢を取っていた。
俺たちも武器を取り出し、いつ敵が来てもいいように備える。さすがにアイリをいじめる雰囲気でもなさそうだ。
「来たぞ! 奴らだ!」
声がした方に全員顔を向ける。
確かに黒い巨体を持つ、ダークドラゴンが群れを成してこちらに向かってきていた。
「ガハハハ! 雑魚共が! 今日こそひねりつぶしてやるわ!」
我先にと一匹のダークドラゴンが突っ込んでくる。
「一匹だけで来るとは、侮られたものだな!」
ミツキが魔法陣を展開し、ダークドラゴンの巨体を受け止めた。だが、すぐ魔法陣にひびが入り始める。力の差は歴然だ。
「く……!」
「ガハハハ! 無駄だ! そんな物では時間稼ぎにもならんぞ!」
「十分だよ!」
アイリが自身の武器である聖剣を構え、飛び上がる。ダークドラゴンは目を見開くが、魔法陣に捉えられており動きが遅れた。
「てりゃああああ!」
「ガアアアアアアアアッ!」
アイリはダークドラゴンの首を一撃で切り落とした。他のダークドラゴンたちは仇を打つと言わんばかりに次々と襲い掛かってくる。
「さすがにこの数はきついわね!」
「弱音吐く暇があったら一匹でも多く倒していこうか!」
メリーが魔法を唱え、ダークドラゴンの動きを拘束する間に、ベックが斧で両断していく。
俺もダークドラゴンたちの急所である喉を切り裂き、身体を血で染めながら数を減らしていった。
近くで竜たちの悲鳴が上がる。だがそれを気にしている余裕もない、いつだれが死んでもおかしくない状況だ。
「まとめて倒すよ! みんな協力して!」
「お任せあれ」
「行くわよ」
ベックがダークドラゴンの猛攻を防ぐ間にメリーがアイリの聖剣に魔法をかけていく。
「やああああああああああ‼」
魔法はアイリが聖剣を振るうと、光になって炸裂した。
光弾が次々とダークドラゴンだけを的確に滅ぼしていく。
「今のでほとんど消えたか――ん?」
ふと近くにいたミツキの背後からダークドラゴンが迫ってきているのが見えた。
「あぶねえ!」
「うわっ!」
俺はミツキを抱きかかえ、突進を躱すと同時に喉を切り裂く。
どうやらこいつが最後だったらしく、周囲から勝利の歓声が上がった。
「い、何時までこうしている気だ⁉」
そう言えばミツキを抱えていたことを忘れていた。顔を赤く染め、ぷるぷる震えている。
俺はミツキを下ろすと、馬鹿のアイリが飛び込んできた。
「やったー! 勝ったよビルくん!」
アイリの胸で顔が押しつぶされ。窒息してしまいそうだ。
俺は遠心力を利用し、アイリを吹き飛ばすとメリーが興奮して涎をたらしながらキャッチした。




