武闘都市コロナ1
新章開始です
エルシュガを離れしばらく経ち、ようやく新たな町にたどり着いたのだが――。
「びえええええ! ごめんなさああああい‼」
「謝って済むと思うなよ、この馬鹿!」
馬鹿の泣き声が町中に響く。
周りからは同情の視線が向けられるが、そもそもの原因はこの馬鹿だ。
馬鹿ことアイリは我がパーティの要。その要が我がパーティの全財産を無くしやがった。
「ビル、その辺にしときなよ」
「そもそもの原因はてめえらだろうがベック‼ なんでこいつに財布を預けた?」
「アイリ様なら大丈夫だと思った」
「この馬鹿野郎がああああああああッ‼」
すました顔でいるベックの顔面に飛び膝蹴りをかます。鎧に阻まれこちらが痛いだけだったのが、イライラを悪化させた。わざとらしく舌打ちし、少し休んでから後のことを考えようと腰を落ち着かせそうな場所を探すことにした。
路銀がないので宿を探すどころか買い物すらできない。どこかに金で落ちていないものだろうか。
「ワハハ‼ どうやら私の出番のようだな」
低い笑い声の方に顔を向けると、黒いサングラスをかけた男が自分の肉体を見せつけるように迫って来た。
一目で鍛え上げられているとわかる逞しい肉体だが、それ以上に特大のアフロヘアが目立つ。間近で見るとアフロと筋肉が合わさり、威圧感がやばい。語彙力がなくなるほどやばい。
「話は聞かせてもらったぞ。どうやら金に困っているようだな」
「はい一文無しなんです」
ベックがわざとらしくハンカチを取り出し、涙をぬぐう仕草をする。鎧越しだから表情わからねえし、わざとらしすぎて見ていてうざい。
男は「よしわかった!」と頷くと、一枚の紙を突き出してきた。
「最強王者決定闘技大会?」
「そうだ! ここ武闘都市コロナで一年に一度行われる伝統行事でな、優勝者には莫大な賞金が出ることになっている」
「賞金‼」
賞金と聞いてアイリが目の色を変えた。どうやら参加する気らしい。ベックに視線を向けると、こっちもやる気満々だった。
「こんなところで油を売る暇なんてない」
「ワハハ‼ 世の中金がないと回れないぞ? それに魔王領域は遥か海の彼方だ。向こうから一斉に攻めてくることも難しいし、数日休んだくらいで世界が滅ぶことはないさ!」
このアフロが言うことも一理ある。だが俺はパスだ、ひとまず財布を探すことにする。
町に入る前にはあったはずなんだが、どこで落としやがったんだ?
「勇者様が参加するとなると、気合を入れねばならんな! ワハハ‼」
「ところであんただれだよ?」
ようやく聞いてくれたかと言わんばかりに顔を近づけられ、後ろに飛び下がってしまった。一瞬であれほど間合いを詰めるとは、このアフロただものじゃないな。
「私はこの大会の主催者ボンバイエだ! キミたちを歓迎しよう! ワハハ‼」
喋るたびに肉体を見せつけて来てうざいアフロだが、大会の説明は見た目に反して丁寧だった。
試合は一対一で武器は木製の支給品のみとなっており、片方の選手が気絶するか、リング外に落ちるか、降参するまで続けられる。
非道な行為が認められた場合や殺し合いになりそうなときは警備兵が介入し、厳罰が課せられる。
「選手には大会まで個室で過ごしてもらうことになっている。それまで他人との交流は一切禁止だ。なあに、大会中は最上級のもてなしを約束しよう」
「大会はいつからなんですか?」
「明日からだ! 今日は特別に私が最上級の宿を用意しよう!」
「やったあ! ありがとうございますボンバイエさん!」
そんな都合のいい話があるわけない。裏があるのは間違いないが、喜ぶ馬鹿には何を言っても無駄だろう。
金がなければ強く言うこともできないので、この場は大人しく従うフリをした。
ボンバイエ、お前の目的は何だ?




