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商業都市エルシュガ7

ボスは短剣を片手に切りかかってくる。ベックが斧でそれを受け止めたが、つばぜり合いのまま、その巨体が宙に浮かび床に叩き付けられた。なんて馬鹿力だ。 

魔法を使っている可能性もある、しっかり観察しなくては。


「じろじろ見るなよ。鬱陶しい」

「⁉」


ボスの短剣が眼前に迫る。寸でのところで首を横に逸らし回避するが、腹に衝撃が走り吹き飛ばされる。

腹の空気が全て押し出され、激痛で意識が飛びそうになった。だがここで倒れれば確実に死ぬ。

受け身を取り、床を滑りながら体制を立て直した。俺への追撃は茨によって阻まれるが、今度はロクドウが蹴り飛ばされ、鉄格子に叩き付けられた。


「ぐ……」

「必死にあがくその姿、ダサい、ダサすぎる」


ボスは何度もロクドウの体を踏みつける。その度にロクドウのうめき声が走るが、身体が動かない。情けねえ、俺はたった一撃でぶるっちまっているのか?


「ダサくても……構わない……」

「あ?」

 

 ロクドウがボスの足を捕まえ転倒させようとするが、逆に蹴り飛ばされ血を吐きながら床を転がる。それでもあいつは身体を揺らしながら立ち上がった。


「母ちゃんと約束したんだ、もう人様に迷惑かけないって。だから人を物としか思わず、奴隷として苦しめるお前は俺が倒す!」

「よく言うよ。ここの用心棒としてその片棒担いでいた奴がさ」

「今は違う!」


 ロクドウは地面から一本の茨を生やし、再びボスを攻撃した。だがボスもやはり同じように短剣でそれを切りさばいていく。


「結局同じ手じゃないか、学習しない奴だな」

「それはどうかな?」


 ロクドウはボスの背後からも茨が生やし、前後からの攻撃を仕掛けた。さすがのもボスも反応が遅れ、迎撃のためその場から動けなくなった。


「今だ!」

「助かるよお」


 ボスを封じている隙にベックが檻を破壊した。中からエルフが飛び出してくる。ベックが逃げるエルフを庇う様入り口前に立った。

 ロクドウは力を使い果たしたのか、血を吐きながら膝を着く。茨も枯れるように灰に変わった。


「逃げちゃったか。ならお前たちを殺してすぐ追いかけよう」


 ボスはロクドウに止めを刺すべく短剣を構える。そこに俺が体当たりをかますが、ボスは身体を捻りそれを躱す。そして着地するとすぐさま距離を開けるため飛びのいた。


「勇者の付属物が邪魔をしないでくれないか?」

「なんだと?」

「お前たちは勇者には及ばない。努力しても、何をしても絶対にな。勇者からは都合のいい道具としか見られていないだろ」

「ふざけるな!」


 こいつの勘違いを正してやらねえといけないようだ。


「あいつは人を道具としては決して見れない底抜けのお人よしだ。人の為に生き、自分を顧みない馬鹿だ。あいつのような馬鹿が勇者なんて認めたくねえ。だから俺はあいつに負けないよう鍛え続けた!」

「ははは、何マジになってるの? 馬鹿みたい」

「馬鹿はあいつだ‼」


 俺とボスはお互い短剣で切り合い、部屋に金属音が響き渡る。こいつは俺と同じように速さを活かした近接戦闘スタイルだ。それに加え、ベックを軽々持ち上げる筋力まで備えている。このまま戦い続ければ勝ち目はない。

 

「どうした? 威勢よく吠えた割に押されているじゃないの?」

「く……」

「所詮お前も道具だ。俺様に勝てはしない」


 つばぜり合いの末、俺はついに弾き飛ばされてしまった。ボスは短剣を逆手に構え、倒れて動けない俺の心臓を一突きしようとする。


「終わりだ――ッ‼」


 短剣が振り下ろされることはなかった。それを握った手が茨にからめとられていたのだ。


「お前!」

「そこのカスに気を取られすぎたな。まだ俺は倒れていない!」


 息もたえだえのロクドウが「ざまあみろ」と雄たけびを上げる。ボスは力づくで茨を引きちぎるが、その隙は致命的だ。俺の膝が顔面に突き刺さる。


「この、俺様がぁ……!」

 

ボスは盛大に鼻血をまき散らしながら、無残に崩れ落ちた。


「終わったな……」


 倒れるロクドウの体をベックが支えた。気に入らないがたいした奴だ、死なすには惜しい。

白目を剝き、痙攣しているボスを縛り上げ、ベックに死にかけのロクドウを運ばせながら、すぐさまこの場を離れた。


――――

――


「お疲れ様でした。貴方たちのおかげで彼らも自由を取り戻しました」

「カスにしては良くやった方だ――痛い‼ 母ちゃんごめん! だからグーで殴らないで!」


 あの後、ボスが捕まったことで奴隷商会は壊滅し、残党は全て御用になった。奴隷たちも首輪を外され、それぞれの故郷へ帰っていた。

故郷が魔王領域にあるエルフたちは、この町で暮らすことになった。婆さんとロクドウが責任を持って面倒を見ていくらしい。

 思った以上の長居だったが、この町とも別れの時が来た。婆さんたちとエルフたちが見送りに来てくれた、

 ヒナがてちてちと歩いてこちらに近づいて来る。


「どうしたちび餓鬼?」

「……ちょっと……しゃがんで」


 言わるがまましゃがんでヒナと視線を合わせる。


 ちゅ……


「にゃああああああああああああああああああああああああああああ⁉」


 町に馬鹿の悲鳴が響いた。


エルシュガ編完結

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