勇者の村1
これからしばらく毎日投稿する予定です。
俺の名前はビル。
モンスターも寄り付かない辺境の村に生まれた十歳児だ。
現在、村から少し離れた森付近を歩いている。
「ビルくん、待ってー」
そして俺の後を追いかけて来ている、とろそうな顔をした白髪少女はアイリ。生意気にも勇者の末裔だ。
俺はアイリのことが嫌いだ。俺を差し置いて、こんなとろくてすぐに死んでしまいそうな奴が将来勇者となることは納得がいかない。
だから、毎日嫌がらせをしてやることに決めた。
まずはびびらせて泣き面でも拝ませてもらおうか。
「俺はこれからすげえ怖いモンスターが出るところに行くんだ、とろいお前が来てもすぐに食われちまうよ。怖いか?」
「ビルくんと一緒なら大丈夫だよー」
けっ、鬱陶しい笑顔なんて浮かべやがって。さすがにモンスターがいる場所には行かねえが、不気味で怖いところばかり周ってやんよ。
幽霊が出るとされる森や、夜になるとうめき声が聞こえるらしい洞窟などを周ったが、アイリはびびることなく笑っていた。
――――
――
すっかり暗くなり、俺は敗北感を感じながらアイリと村に戻ったのだが――
「この馬鹿野郎が‼」
戻って早々親父にぶん殴られた。
鼻血が出て、口の中で鉄の味がする。
「アイリ様に何かあったらどうすんだ⁉ てめえの命とアイリ様では比べものにならねえんだよ! 糞餓鬼が‼」
「ビルくんをいじめないで! これは私が言い出したことなの!」
アイリが俺を庇うように間に入り込む。
すると親父は拳を下ろし、張り付けたような笑みを浮かべた。
「アイリ様……今後は連絡もなしに遠出はお控えください。貴方様に何かあったら困るのです」
そう言うと親父は一礼して部屋から出て行った。
畜生、殴られた箇所が痛んで口の中が鉄臭い。顎もがくがくだ。
「ごめんね、ビルくん。私のせいで……」
アイリが涙を浮かべながら俺のもとに駆け寄り、口元をハンカチで拭いて来る。
情けねえ泣き面しやがって、それが見れただけでも胸の内がスカッとしたぜ。
「こうなったのも全部お前のせいだ。だから明日はもっとひどい目にあわせてやるよ」
「――‼ うん!」
こっちがいじめてやると言っているのに、笑顔なんて浮かべやがってムカつく野郎だ。
――――本当に、こいつは嫌いだ。
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