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俺の異世界転生にあたって提示された特典の件

作者: 赤木トーカ

葬式…だ。

そう。

あれは、俺の葬式だ。


間違いない。


死んだら、こうなるのだな。

興味はあったが、驚きもせず、俺は自分の死を受け入れた。


こう言ってはなんだが、異性にはモテるほうだった。結婚の話も「いくつか」持ち上がっていた。


俺は貧乏だった。

けれど、将来への希望は持っていた。

自分がやりたいことを

やるべきだと信じることがあったから、それに向かって進んできた。


死んでしまった今、思うと、

不思議に無念さはそれほどない。


疲れたなと、

眠りたいなと。

いう気持ちが強い。


だから俺は空から自分の葬式を見るのはやめて、重力のないような空間を漂った。


達観したような気持ち。

死ぬと、こうなのだろう。


そのうち、迎えがきた。

まあ、パティーンだな、と思った。



「この度は御愁傷様でございました」

そう男は天から舞い降りて言った。

俺が思ったのは、こういう案内人みたいな奴は、全世界の言語に精通していてどんな死者の元へも来るのかとか、0歳児が死んだらどう死を伝えるのだろうとか、そんなくだらないことだった。


「改めてお伝えいたします。あなたの死因は、端的に言うと、殺人です。これは余計なお世話かもしれませんが、いわゆる異性関係のもつれ、と言いましょうか。そういうことでございます」


事務的なんだかよくわからないが、刺されたんだなという感覚や夢のような記憶が、あるような気もする。


しかし、もうどうでもいいことだった。


「まだ落ち着いていらっしゃらないとは思いますが」

「いや、大丈夫です」


「そうですか。一つ申し上げることがございます」

「何ですか」


「殺人や不慮の事故の被害に遭われてお亡くなりになられた方には、これは当然の権利としてなのですが、輪廻の権利が与えられます」


「輪廻?転生?」


「はい。生前の記憶を残してやり直すことができます。ご希望されるのであれば……、特別な世界で再出発されることも可能です」


「特別な世界?」


「シミュレーション理論をご存知ですか?」


「あなたたち人類、生命体、宇宙全てが、コンピュータのシミュレーション上の世界という『事実』です」


「ああ、マトリックスとか。リング、らせんみたいな。読んだし、よく知っている」


「話が早くて助かります。貴方のようなケースの場合、貴方たちが生きてきた『現実』から上位世界……つまりシミュレーションを行なっている側の世界へ行くことはできないのですが、」


「つまり?」


「新たな異世界への転生にあたり、特典と言いますか、お見舞いといいますか、ひとつだけ設定を変更することができるのです。


何でもというわけにはいきませんが。それなりの知能を持って生まれ変わりたいとか、富豪としてやり直したいとか、そういう類のことです。

実は、歴史に名を残す天才や偉人には、こういう転生を繰り返して、時間を逆行したり、才能を身に付けたりして転生される方がほとんどだったりするのですよ」


「何度も殺されたり、事故で死ぬのも、不幸な話ですね」


「最近大変多いのが、自分がプレイしていたゲームの中の世界に転生したいという方です」


「異世界の中の異世界と?」


「はい。この場合、あなた方が生活していた、シミュレーション世界の中とは違い、シミュレーション世界のさらに内部の、ゲームの内部のことですから、一切シミュレーション世界に影響を及ぼさないので、どんな設定でも可能です。一生女子中学生に囲まれて過ごすも、妹を何人もはべらせて冒険に出るのも、世界の魔王になって、勇者を迎え撃つのも最強のスライムになるのも全くの自由です。趣味と割り切れば、天国かもしれませんね」


「……あんた、俺を連れにきたんだろう?」

「え?ええ、はい。ただ、お望みとあらば、というお話をさせていただかなければなりませんのでね」


「もういい。連れて行ってくれ。俺は、死んだんだ。そのことに間違いはない」


「…よろしいのですか?」


「俺は無様に生きたつもりはない。妄想に興味はない。妹の山に囲まれて過ごしたい奴は過ごせばいい。俺の知ったことじゃあない」


「……」


「転生というのは、死ぬのが前提なのだろう」


「左様でございます」


「死にたがり、ばかりなんだな。それも人それぞれだ。死にたい奴は、死ねばいい」


「では、よろしいのですね」


「行こう」


「貴方のような方ばかりだと、素敵なのですがね。それでは……」


俺は最後にもう一度、自分の葬式を見やった。


涙が出そうで、出なかった。


「当然だ、死んだんだから……」


身体が輝き始めて、意識が消えていく。


「ありがとう、さよなら」


案内人はそれを見届けると、再び天へと帰っていった。



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