第五章 ~『山賊ルソンとレオナールの戦い』~
「ま、待て。交渉しよう」
「交渉?」
レオナールとの実力差を理解している山賊は正面から衝突する愚を避けるべく、懐から皮袋を取り出す。
「ここに金貨百枚がある。これで俺たちの仲間にならないか?」
「ふふふ、僕も随分と安く見られたものだね」
「な、なら、都市長に頼んで報酬を弾んでもらう。あんたの実力なら大金を得ることも夢じゃない」
「……残念だけど、金で転ぶことはないよ。なにせ君を倒すだけでも僕は十分に金を得ることができるからね」
商人はジョブスキルで触れた相手から生命力の源である金貨を奪うことができる。わざわざ交渉して金を引き出すような手間は必要ないのだ。
「交渉は決裂だね」
「どうやらそのようだな……だが俺も簡単に敗れはしない。勝算は低いがゼロではないからな」
山賊は手を前にして構えると、何やら呪文を唱え始める。唱え終わる前に潰すことは簡単だが、レオナールはあえて動かない。
戦術的には何もさせずに勝つ方がよいのだろうが、圧倒的実力で正面から打ち破った方がカイトからの信頼が厚くなるだろうとの打算に基づいての行動だった。
「俺の職業は山賊だ。だからか、この仕事で習得できる魔法やジョブスキルは逃走に特化したモノが多い」
「つまり唱えていた呪文は僕から逃げるためのものだと?」
「いいや、何事も使いようさ。危機から脱するための魔法も攻撃に転用すれば、それは鋭い牙となる。お前に使った遅延の魔法なんかはまさにそうだ」
「なるほどね。感じていた倦怠感は君の魔法の力か」
徹夜明けのダルさを何百倍にもしたような倦怠感は、指一つ動かすだけでも感じられるほどだ。体の重さを実感しながらも、レオナールは余裕の笑みを崩さない。
「これが君の切り札かい?」
「その通り。体の動きを十分の一にする力だ。効果時間は短いくせに、呪文を唱えるのに時間がかかる欠点だらけの魔法だが、決まりさえすれば一撃必殺だ。低下した身体能力を抱えたまま、なぶり殺しにされるんだな」
遅延の魔法で勝利を確信した山賊は、レオナールへと襲い掛かる。大きく手を振り上げた一撃はサンドバックでも殴ろうとしているかのようだ。
しかし山賊の牙がレオナールへと届くことはなかった。彼は遅延の魔法の効果を感じさせない動きで山賊へ近づくと、頭を鷲掴みにしたのだ。
「ば、馬鹿な。なぜ遅延の魔法が効かない!?」
「効いているよ。だから動きが遅いでしょ」
「あ、ありえない。お前の動きを俺は目で追うことさえできなかった!」
「身体能力が十分の一になっても、見ることさえできない。それが君と僕との絶望的な力の差なんだよ」
「…………ッ」
勝算は低いと思っていたが、まさかここまで実力差があると思っていなかったために、山賊は驚愕でゴクリと息を呑む。
「これほどの力……もしかすると俺は味方する相手を間違えたのか……」
ゴルンの味方をすると決めたのは、その圧倒的な実力が理由だ。都市長の椅子に座ることで得られる権力と金、さらに味方にはあの有名な武闘家のリザまでいるのだ。
圧倒的な強者が弱者をいたぶるだけのビジネス。それがたった一人、レオナールという異物が紛れ込んだことで状況が一変しようとしていた。
「お、俺を見逃してくれないか?」
「いまさら命乞いかい?」
「いいや、交渉だ。見逃してくれるなら俺はあんたの内通者になってもいい」
「内通者か……悪くない提案だね」
ここで山賊を殺したことで得られる利益はほんの僅かなものだ。それよりは内通者として情報を得るための駒として利用した方がよい。
「君の名前は?」
「ルソンだ」
「ルソンさんね。もし君が裏切れば、僕はすべての力を総動員して君の一生を終わらせる。その覚悟があるかな?」
「も、もちろんだ」
「なら助けてあげよう」
レオナールはルソンの頭から手を離す。彼は痛みで顔を歪めていたが、命を救われた安堵の方が大きいのか、どこか嬉しそうな空気さえ漂わせていた。
「さてまずは最初の踏み絵だ。必ずやり遂げてもらう。いいよね?」
「ああ。なんでも命じてくれ」
「理由は何でもいいから、リザをこの場に呼びだして欲しい。できるかな?」
「もちろんだ。だが何のために?」
「最強の武闘家との決着を付けるためさ。どちらが勝つか楽しみだね」
レオナールを裏切った仲間との因縁の対決がとうとう始まろうとしていた。
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