第一章 ~『ダンジョンと革命の始まり』~
憲兵たちは人通りの多い首都エイトの街道を、見世物のようにして、レオナールを引き連れて歩く。
「魔人の大罪人め!」
「死ね! 二度と王国に顔を見せるな!」
「俺は昔からあいつは何かやると思っていたんだ!」
街の人々から石を投げられる。レオナールの実力であれば、石礫に痛みなど感じることもないが、屈辱だけははっきりと胸に刻まれた。
(この屈辱、いつか必ず返してやる!)
レオナールは心に復讐心を募らせる。怒りで噛みしめた唇から血が滲んでいた。
「おい、こっちだ」
首都エイトを抜けた先にあるソロの森。深い霧で覆われた森の中にはダンジョンがいくつも存在し、ダンジョンから抜け出た魔物が森を徘徊しているとも云われていた。
憲兵は森の中央部にあるダンジョンへと通じる穴の前へとレオナールを連れてくる。ダンジョンは正規の入り口とは別に、こういった獲物を取り込むための落とし穴のような入り口も存在していた。レオナールはこの場に連れてこられた真意を測りかねていた。
「僕は国外追放のはずだろ。なぜこんなところに」
「国外追放ねぇ~、そんなものはリリスとかいう魔法使いを納得させるための方便さ」
「僕をどうするつもりだ……」
「魔族は魔族の住む場所へ。ダンジョンに返してやるよ」
「僕が生きて帰ってくるとは思わないのか?」
「帰れるかよ。両腕は拘束しているし、何よりお前は最弱の商人だ。万に一つも助からない。ダンジョンでゴブリンどもに食われるんだな」
憲兵たちは笑う。人を地獄へ突き落そうとする悪魔の笑みだった。
「君たちの顔は覚えたよ」
「はぁ? だからどうした?」
「覚えたよ。僕は絶対に君たちを許さない。僕が王になれば真っ先に処刑してやるから震えて待っていろ」
レオナールの迫力ある言葉に、憲兵たちはゴクリと息を呑む。彼が本当に王になったら。妄想のような馬鹿げた話だが、彼らはありえないと首を振ることをできなかった。
「さてサヨナラだ。君たちに突き落とされるくらいなら僕は自分で落ちるよ」
レオナールはダンジョンの穴の中へと飛び込み、浮遊感を感じた後、地面に着地する。周囲を土の壁で覆われた空間は、彼にとって馴染み深いダンジョンの風景だった。
「これで僕は王国で死人扱いされるはずだ。生きていると知られると面倒だからね」
憲兵たちの言う通り、戦闘に不向きな商人のジョブクラスしか持たない冒険者が両腕を拘束されてダンジョンから生きて帰るのは不可能だ。しかしレオナールは実力を隠していた。彼からすれば、現在の状況は危機とほど遠い状況だった。
「それにしても弱い振りをしていて本当に良かった。おかげで両腕の拘束もただの手錠だ」
魔法による特殊加工もされていない金属など、レオナールにとって壊すことなど造作もない。彼は両腕を開いて、手錠を壊した。
「死人に影から追い詰められる恐怖、存分に味わうがいい」
レオナールはダンジョンを進む。彼は革命を遂行するため、動き始めたのだ。