エピローグ ~『リリスと真実』~
レオナールたちはマリアンヌを見送ると、再び街道を歩き出した。大聖堂へ近づけば近づくほどに、大聖女であるルナを称える肖像画や彫刻の数が増えてくる。
「大聖女の権力は増え続けているようだね」
「旦那様の思惑通りですね」
ルナの権力は既にレオナールの手の中にある。故に彼女が権力を増すことは、そのまま彼の利益に繋がる。
そのためレオナールは、今回の魔人討伐の功績は自分の力だけでなく、大聖女の力によるところが大きいと公表した。人類の敵である魔人が討伐されたことで、大聖女の権威はさらなる力を増し、第二都市タバサに集まる信者の数もうなぎ登りであった。
「そろそろ大聖堂が見えてくるね」
石造りの大聖堂前には多くの信者たちが集まっていた。噂の大聖女を一目見ようと観光客が遠巻きに眺めている。しかし中にはルナに大切な人を蘇らせてほしいと願う信者もおり、大聖堂の入口前で、膝を付いて首を垂れていた。
「あれは……まさか……」
膝を付く信者たちの中にレオナールは見知った顔を見つける。その顔を彼が見間違うはずもない。彼の幼馴染であるリリスが教会前で首を垂れて、必死に祈りを捧げていた。
「リリスさん、こんなところで何を……」
「パン屋さん……恥ずかしいところを見られちゃったね」
リリスは頬がやせ細り、目の下には大きな隈ができていた。
「まさか何日もそうしているの?」
「そんなことないよ……たった三日だけだよ」
三日間、リリスは食事や睡眠をとらず、ただひたすらに大聖女への祈りを捧げていた。レオナールはその願いの内容を察し、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
「レオナールさんのことは諦めた方が良いよ」
「諦めないよ……レオナールが同じ立場になったなら、きっと私のために同じことをしてくれるもの」
見ていられないとレオナールが目を背けると、大聖堂の扉を開き、ルナが姿を現す。彼女の姿に興奮した信者たちは歓声をあげる。
ルナは信者たちに手を振りながら、レオナールたちの元へと近づいてくる。ルナに化けたスライムキングは自らの主人に目線で首を垂れた。
(このまま大聖女の蘇生の力に縋り続けるのはあまりにも残酷だ)
レオナールはルナに化けたスライムキングに蘇生能力の真実を語るよう命じると、彼女はそれを理解し、リリスの耳元でそっと囁く。
「ごめんなさい。実は私、蘇生なんてできないのです」
「え?」
「だからレオナールさんのことは諦めてください」
ルナはそう言い残し、レオナールたちの元を離れる。リリスは唯一の希望を砕かれ、目尻から涙を零す。
「うっ……ぐっ……ど、どうすれば……何をすれば、レオナールは生き返るの……」
リリスはポロポロと涙を流す。自分のために必死に祈り、自分のために泣いてくれるリリスに、レオナールは心を揺さぶられる。そんな彼を支えるように、ユキリスが彼の手にそっと手を添える。
「旦那様、あなたは間違っていません。リリスはあなたを裏切ったのですから、これも一つの罰です」
「そうだね……」
ユキリスの言い分はもっともだった。リリスは長年尽くしてきたレオナールを見捨てて、ジルを選んだのだから、今更後悔しても遅いし、手遅れだ。
「でも……僕はやっぱりリリスが……」
レオナールはリリスに対する復讐心を息と一緒に呑み込む。覚悟を決めた表情で彼女を見据える。
「リリスさん……いや、リリス。君に伝えたいことがある」
「伝えたいこと?」
「レオナールは生き返らない……なぜなら彼は生きているからね」
「パン屋さん……いったい何を……」
「僕はパン屋さんでもなければ、英雄レオでもない。君の幼馴染の――レオナールだ」
レオナールの宣言がリリスの瞳に強い光を灯す。二人の関係が大きく動き出そうとしているのだった。
これにてマリアンヌ編が完結です。ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!!
また特別篇を数万文字以上追加している書籍版が発売中です(*^_^*)
販売開始から数日の売り上げで続刊が決まるので、もし財布に余裕がある方は応援していただけると助かります
※小説家になろうの書評サイトから購入できます。下の画像をクリックすると移動できます
最後に、書籍化まで辿り着くことができたのは読者の皆様のおかげです。心からの感謝を贈ります。本当にありがとうございました!!





