第四章 ~『スラリンとの交渉』~
すべての策謀を看破したレオナールはスライムダンジョンのある湿地帯を一人で訪れていた。洞窟型ダンジョンの入り口前には、ダンジョンマスターである青髪の少女、スラリンが待ち構えていた。
「急な呼び出しに応えてくれてありがとう」
「今日は一人なの?」
「そうさ。何か不都合でも?」
「……特に問題はないの。用件は同盟の件なの?」
「うん。スラリンさんとの同盟提案、受けようと思ってね」
「本当なの!?」
いつもは無表情のスラリンが口元に笑みを浮かべる。彼女の喜びが態度に現れていた。
「ただ喜んでいるところ申し訳ないけど、同盟を組むには条件がある」
「条件?」
スラリンが警戒するように身を引くが、レオナールは安心させるために微笑んで見せる。
「といってもそんなに厳しい条件じゃない。僕はスライムの卵が欲しいんだ」
「……魔物の卵なんかでいいの?」
「うん。それが唯一の条件だ」
「分かったの。その条件を呑むの」
スラリンがレオナールの提案を受け入れるのも当然だった。レオナールのように魔王の力によって魔物の卵を強化できる例外もあるが、多くの場合、最弱の魔物しか生まれないため、多くのダンジョンマスターにとって価値ある物ではないからだ。
「これがスライムの卵なの」
レオナールはスラリンからスライムの卵を受け取る。神秘的な瑠璃色をした卵はゴブリンの卵と比べても一回り小さい。
「確かに受け取ったよ。これでダンジョンバトルの同盟は成立だね……」
「フォックスダンジョンのマスターであるタマモには私の方から開戦を通知しておくの」
「助かるよ。開始日は……」
「十日後にしたいの」
「十日かぁ……」
「私も色々と準備がしたいの。これは外せない条件なの」
「分かったよ。僕は十日後で構わない」
「では当日を楽しみにしているの」
「僕の方こそね」
レオナールとスラリンは握手すると、互いに背を向ける。彼はスラリンから顔が見えない位置までくると、先ほどまでの友好的な笑みを崩し、悪徳商人のような歪んだ表情を浮かべる。
「旦那様、事は上手く運びましたか?」
「重畳さ」
第二都市タバサに戻ったレオナールはユキリスと合流し、無事に同盟が成立したことを報告する。
「ユキリスの情報収集はどうかな?」
レオナールはユキリスにゴブリンダンジョンを襲撃する冒険者がどれくらいの手練れなのかを探るよう依頼していた。
「予想以上です。誰も彼もが有名冒険者ばかりで、これだけの戦力が集まればゴブリンダンジョンはひとたまりもないでしょう」
「それは恐ろしいね」
レオナールとユキリスは仲間の危機だというのに悲壮感はない。むしろ二人の表情は冒険者たちが強敵だと知り、どこか嬉しそうでさえあった。
「十日後のダンジョンバトルが楽しみですね」
「スラリンさんは僕を敵に回したことを後悔しながら、絶望することになるだろうね」





