第四章 ~『蘇生された店主』~
大聖堂でルナからゴブリンダンジョンを襲撃しないかと誘われたレオナールは、彼女と別れ、タバサの街をユキリスと共に歩いていた。すれ違う観光客たちの声を聞きながら、二人はゆっくりと石畳の道を進む。
「旦那様、これからどうしましょうか?」
「まずは状況を整理しよう。ゴブリンダンジョンはルナさん率いる冒険者グループ襲撃の危機に陥っている。しかも有力な冒険者を集めての大規模侵攻だ」
「もし攻められれば、かなりの犠牲者が出そうですね」
「だから何とか襲撃そのものをなくしたい。そのために真っ先に思いつくのは戦力アップだね」
「強さは抑止力になりますからね」
「だが強くなるのは簡単じゃない。ダンジョンバトルを利用する手もあるけど、何だか用意されたレールの上を進んでいるようで気持ち悪さを感じる」
「他に何かいい方法があればいいのですが……」
「もっと情報があれば何かいい手が思い浮かぶかもしれないけどね」
レオナールは情報があまりに不足している現状に危機感を覚えていた。例えばルナはゴブリンダンジョンを襲撃する理由を神のお告げだと答えたが、彼はそんな言葉を鵜呑みにするほど愚かではない。何か裏があるに違いないと疑っていた。
「う~ん、でも打てる手がない以上、ダンジョンバトルを真剣に考えてみるしかないかなぁ」
フォックス、スライムとの三者間で行われるダンジョンバトルに勝利すれば、ゴブリンダンジョンは大幅な戦力アップを果たすことができる。リスクがあっても、これ以上の妙手は思い浮かばなかった。
「僕たちはフォックス、スライム両者から同盟の要望を受けている。より有利な条件を引き出せる優位な立場にあるといっても過言ではない」
「ならさっそく動きますか?」
「ただ気になる点もあるんだ。これはルナさん率いる冒険者の侵略とも関係ある話なんだけど、スラリンさんは戦力アップの理由を、スライムダンジョンが冒険者たちによって襲撃されるからだと話していた。しかし現実に襲われるのはゴブリンダンジョンだ」
「嘘を吐いているのでしょうか」
「もしくは大聖女がゴブリンダンジョンを討伐するために冒険者を集めているのを見て、自分が襲われると勘違いしたかだね」
レオナールはもし今までの流れがすべて策謀であった場合、より危機的状況に陥るリスクがあることに気づく。やはり安易に同盟を組むのはマズイと、他の方法でルナの襲撃を脱する方法を考える。
「……ルナさん率いる冒険者グループの襲撃に対抗するなら戦力分析をしておくべきかもね。特に彼女が本当に蘇生能力を保有しているなら、これほど厄介な敵はいないからね」
どれだけ強敵を倒しても蘇生されてしまうのでは、すべてが無駄になる。無限の命を持つ敵と正面から戦うことになれば、勝算も薄くなる。
「ただ僕は蘇生能力を信じていない。人は一度死んだら生き返らないのが世の理だからね」
「ですが生き返った人は実際にいるとのことですよ」
「だからその人に会ってみようと思う。この近くにある菓子屋を営む店主が蘇生された経験があるらしいからね」
レオナールは街道を進み、商店通りに大きな看板を構える菓子屋へと辿りつく。第二都市タバサの観光土産の大部分を売り上げる人気商店だった。
「いらっしゃいませ」
愛想のいい笑顔で髭面の男が入店を歓迎する。店内のポスターには『私が蘇生された店主です』と宣伝されていた。
「あなたが蘇生された店主さん?」
「そうですとも。私は一度命を落としましたが、大聖女様の奇跡の力によって蘇生できました。あの人には感謝してもしきれませんよ」
「へぇ~」
レオナールは店主の顔をマジマジと見つめると、何かを確信したように口元に小さな笑みを浮かべた。
「私の顔に何かついていますか?」
「いいえ、あなたに会えたことが嬉しくて……おかげで大きな収穫が得られました」
「ん? そうですか、それは何よりです」
店主は何のことやらさっぱりだと、頭の上に疑問符を浮かべる。だが対照的にレオナールは満足げな笑みを浮かべる。彼は商人の鑑定スキルで、ダンジョンバトルの裏で蠢く策略のことや、死んだ人間を生き返らせる秘密のこと、そのすべてを悟ったのだった。





