第三章 ~『大聖堂での出会い』~
「せっかくだから僕たちも大聖堂を見てみよう」
レオナールのそんな一言で、二人は大聖堂へと移動する。石造りの大聖堂の中に入ると、祭壇の前に広がるように会衆席が並べられている。ステンドグラスの窓には、歴代の大聖女たちの肖像画が描かれていた。
「さすがは第二都市タバサの中でも目玉になっている観光地だ。圧倒される美しさだね」
「観光客だけでなく、信者の人たちも集まっているようですよ。あれを見てください」
ユキリスの視線の先には肖像画に祈りを捧げる信者たちの姿があった。彼らは皆、大切な人を失くし、蘇生できるという噂話に縋る人たちであった。
「都市長選挙が行われた場合、あの人たちが大聖女の票田になる訳だ。負け知らずなのも納得だね」
熱心な信者を抱えていることは票田の確保以外にも、選挙活動の手足となり働く応援員を手に入れることができる利点がある。彼らにビラを配らせるだけで、多くの票を集めることも可能だ。
「旦那様、見てください。大聖女様が現れましたよ」
「あれがマリアンヌの姉のルナさんだね」
祭壇の奥の部屋から翡翠色の瞳と、白い髪をした女性が現れる。ニッコリと温和な笑みを浮かべながら、信者たちに手を振る。すると信者たちは自分に反応を向けられたことが嬉しいのか、黄色い声で聖女の賛美を口にし、盛大な拍手を送った。
「まるで神のような崇められ方だね。信者たちも皆、彼女のことを盲信しているようだ」
「その信者の中にはリリスも含まれているようですよ……」
ユキリスが視線を向けた先には、地面に這いつくばり、祈りを捧げるリリスの姿があった。彼女は感動に涙を浮かべながら、誰よりも大きな拍手を送っている。
「リリスは昔から影響の受けやすい娘だからね……」
「それにしてもこんな短時間であそこまで盲信するようになるものなのですね……」
「何か秘密があるのか、それとも本当に奇跡を起こせるのか……どちらにしろ幸運の女神であることは間違いない。なにせリリス以外にも懐かしい顔を僕の前に連れてきてくれたんだからね」
レオナールの視線の先、会衆席にはルナを見つめるマリアンヌとジルの姿があった。マリアンヌはルナに対して、悔しげな視線を向けており、ジルはルナに舐めるような視線を送っている。
「マリアンヌは姉との間に確執でもあるのか……」
マリアンヌの視線はとても血の繋がった家族に向けるような優しいモノではない。仇敵への恨みを込めた鋭いモノだった。
「マリアンヌとルナの仲に不和があるなら何かに利用できるかもね……」
「利用ですか?」
「例えば権力者であるルナにマリアンヌを排除させるのも面白い。いずれにしろ、二人の関係をもっと探らないとね」
「私の方でも探っておきますね」
「頼むよ。それとジルだね。あいつは僕を理不尽な理由で追放したクズだ。何を考えているのかは容易に想像がつく」
レオナールはジルの女性の趣味を良く理解していた。彼は優秀で美しい女性が好みなのだ。大聖女という地位を持ち、美しい容貌を持つルナは、まさしくジルの理想だった。
「大聖堂に来たのは正解だった。おかげで色々な情報が手に入った」
「旦那様……」
「ユキリス、楽しみにしていてよ。僕が彼らに復讐するところをね」
レオナールは歪な笑みを浮かべる。その表情は復讐心に支配された冷酷な笑みだった。