第三章 ~『ダンジョンマスターたちの思惑』~
山賊たちを撃退したランスたちは、ゴブリンたちとの絆をより強くした。その絆のおかげで、ゴブリンダンジョンを襲う者はいなくなり、エルフたちの住むダンジョンエリアは平和を維持していた。
そんな平和なエルフの森の中央にあるユキリスの邸宅。その地下にあるダンジョンコアが設置された石造りの空間にレオナールとユキリスは訪れていた。
「旦那様、本日は久しぶりのダンジョンマスター同士の集会ですね」
「僕がアンデッドダンジョンを奪ってから初めての集会だからね。何か動きがあるかもしれない」
「動きですか?」
「例えば僕を危険視したダンジョンマスターがいれば、排除しようとするかもしれない。利用できると判断したダンジョンマスターがいれば、懐柔しようとするかもしれない。ただどちらにしても僕たちにできることは何もない。すべては相手次第だからね」
レオナールは相手が敵対してくるなら容赦しないが、友好的な関係を築けるならそちらの方が好ましいと考えていた。
それは戦争になれば、少なからずゴブリンやエルフたちを傷つけてしまうからだ。ダンジョンマスターとして上手く立ち回らねばと、レオナールは心の中で意気込んだ。
「そろそろ集会の時間ですね」
ユキリスが魔法水晶を操作し、遠隔地の映像を地下室全面に映し出す。映像には前回と異なり、顔を隠した一人のシルエットが投影されているだけであった。
レオナールはそのシルエットに見覚えがあった。フォックスダンジョンのダンジョンマスター、タマモである。
「集会の時間のはずなのに、君一人しかいないんだね」
「他のダンジョンマスターたちには欠席してもらったの。あなたと秘密の話がしたかったから」
「秘密の話?」
「互いが得をする儲け話よ。アンデッドダンジョンのガイアを倒したお祝いだと考えて貰っていいわ」
「お祝いね……」
レオナールは商人としての経験上、儲け話という言葉が本当にそうであった試しを知らない。そのためタマモに対する警戒心を強くしていた。
「お祝いの内容はスライムダンジョンの権利の半分でどうかしら?」
「……無料でくれたりはしないよね?」
「それはもちろん……実はね、私はスライムダンジョンとダンジョンバトルをするつもりなの。その戦いであなたの手を貸りたいの」
「なるほど。僕が力を貸す代わりに、獲得した権利を半分くれると。でもこれだとただの同盟じゃないか。お祝いとはほど遠いよね」
同盟を組んでダンジョンバトルをした場合、負けた時のペナルティも半分背負うことになる。リスクとリターンが半分になるだけで、割の良い取引でも何でもない。
「早とちりしないで。私はあなたと同盟を組むことを望んでいない。もしそんなことをすれば、スライムダンジョンも他のダンジョンマスターと同盟を組むことになるもの」
「ならどうすればいいのかな?」
「表立って同盟を組まなければいいの」
「裏で手を結ぶというわけだね」
「そういうことよ。具体的には三つのダンジョンがそれぞれ対等の立場で同時にダンジョンバトルを行うバトルロイヤル形式のルールを提案する。けど私とレオが裏で手を結んでいれば、それは実質的に二対一の戦いになる。確実に勝利できる儲け話ということよ」
タマモはさらに詳しいルールを説明する。三者の中で最初に敗北者が出た時点でダンジョンバトルが終了することや、敗北した場合にダンジョンの経験値や権利をどのように分配するかについても捕捉する。
「どう? 素晴らしい提案でしょ?」
「だね。ただ二対一で戦っても負ける可能性はゼロではないよね」
「それはね……でも相手はスライムよ」
「それなら僕らはゴブリンだ。相手を見下して油断するのはマヌケだからね。その話を受けるかどうかは考えさせてほしい」
「いいわ。じっくり考えてみて」
そう言い残して、タマモは集会場から姿を消す。誰もいなくなったことで映像が消えて、石作りの殺風景な景色が戻ってくる。
「旦那様、あの話、どうされますか?」
「とりあえず保留かな。欲をかくと痛い目を見るかもしれないしね」
レオナールはタマモの提案を頭の中で整理する。すると彼の頭の中にメッセージが飛び込んできた。
「他のダンジョンマスターからメッセージだ」
「タマモさんですか?」
「いいや。スライムダンジョンのダンジョンマスターから直接会って話をしたいとのお誘いだ」
レオナールは面白くなってきたと口角を吊り上げる。ダンジョンマスターたちの思惑が交差し始めたのだった。





