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第三章 ~『ゴブリンのために戦う初心者冒険者』~


「山賊だと!」


 ランスは山賊という言葉に強く反応する。これはランスに限った話ではなく、善良な市民にとって山賊という存在は忌避すべきモノだからだ。


 山賊に堕ちる理由は様々だが、大きな要因は二つだ。一つ目は犯罪者が王国騎士団や聖騎士団から逃れるために山賊となるパターンで、二つ目は冒険者では食っていけなくなり、職業として山賊を選択するパターンだ。


 どちらのパターンでも言えることだが、山賊は拠り所となる生活を持たないため、手段を選ばない者が多い。悪辣な手段を平気で選択する彼らが、市民から忌み嫌われるのも当然であった。


「ここは良い場所だ。温泉と寝床もあるし、それに何よりダンジョンの中というのが素晴らしい。聖騎士団や王国騎士団の連中も、ダンジョンの中までは探さないからな」

「ここを占拠したとして、お前たちがゴブリンたちと上手くやっていけるはずがない!」

「ははは、ゴブリンと仲良くだぁ。するはずねぇだろ。魔物は駆除する。一匹残らず殺してやる」

「そんな酷いことを……」

「魔物を殺す冒険者が何を言ってやがる。魔物は人間の敵。だから殺す。自然な発想だろうがっ!」

「…………ッ」

「そもそもゴブリンの顔を見てみろよ。醜悪な顔つきはまるでブタだ。あんな醜い生き物は殺しとくべきなんだよ」


 山賊たちはランスの魔物と共存するという考えを嘲笑する。ランスは槍を強く握りしめて、瞳に怒りの炎を灯す。彼は自分の考えを馬鹿にされたことに怒りを感じた訳ではない。ただ純粋に友人であるゴブリンたちを馬鹿にされたことが許せなかったのだ。


「ランスさん、君はゴブリン親衛隊のリーダーとして、あの山賊に勝利し、力を示さねばならない」

「もちろんだ。俺が必ず倒してみせる……俺はあの禿頭の男と戦う。他の山賊たちはレオさん、あんたに頼んでいいか」

「構わないけど……僕の力は必要ないと思うよ。霧で見えづらいけど、人の気配を感じるでしょ」


 演習場にランスの仲間である冒険者たちが集まってくる。背後には武装したゴブリンたちの姿もある。山賊たちの声を聞き、ランスの元に駆け付けたのだ。


「皆、来てくれたんだな!」

「他の山賊たちは俺たちに任せろ。お前はあの禿頭の男に集中してくれ」

「任せろ!」


 山賊たちは冒険者の集団を前にして、わずかに後ずさる。そんな彼らを叱咤するように、禿頭の山賊は部下を睨みつけた。


「相手をよく見ろ。ほとんどが初心者冒険者ばかりだ。魔物もゴブリンしかいねぇのに、ビビってどうする!」

「そうだよな、首領の言う通りだ」

「雑魚とゴブリン相手に負けるはずがねぇ」


 山賊たちは自信を取り戻し、一歩前へ出る。相対するように、ランスの仲間の冒険者たちとゴブリンたちも一歩前へ出た。


 二つの集団が機を測ったように一斉に走り出す。衝突する二つの勢力を横目に、ランスは禿頭の山賊を倒すべく構える。


「槍使いか。構えから初心者冒険者の中ではマシな方だと分かるが、それでも俺の敵じゃねぇ」


 禿頭の山賊が一歩前へ出ると、合わせるように、ランスは槍を放つ。しかし槍の穂先は山賊へと届かない。彼の手に持つ剣で受け止められる。


「俺はな、罪を犯して犯罪者になるまでは中堅冒険者だったんだ。お前とは実力が違うんだよ」


 ランスは禿頭の山賊を近づけまいと何度も槍を振るう。しかしそのどれもが命中することはない。すべて剣で受け止められ、槍を戻すタイミングで、カウンターの蹴りを入れられる。


 ランスは蹴りを受けて吹き飛ばされ、地面を転がる。口元からは血が流れ、肌を傷だらけにするが、それでも彼は槍を手放さない。槍を杖代わりにして、彼は立ち上がる。


「まだ立つのか。元気な奴だな」

「当たり前だ。俺はゴブリンたちに鍛えられてきたんだ。その恩を返すためなら何度だって立ち上がってやる!」


 ランスの言葉が仲間の冒険者たちの心を打つ。恩人であるゴブリンたちを守ろうと、山賊たちに怒涛の猛攻をみせる。


「ゴブリンなんかのために馬鹿な奴らだ。もう少し利口なら命だけは助けてやったものを」

「五月蠅い。ゴブリンを馬鹿にするなら、お前は俺の敵だ。ゴブリン親衛隊のリーダーとして、お前を倒す」


 ランスはそう宣言するが、禿頭の山賊との実力差は明確だった。レオナールは頃合いだと、身体能力強化の魔法をランスとその仲間たちにかける。


 爆発的に向上する身体能力。その力を駆使して、ランスは槍を放つ。人の目で追うことすらできない神速の槍は、禿頭の山賊の反射速度を優に超え、防ぐことすらできないままに、槍が彼の心臓を貫いた。命を落とした山賊は硬貨になって散らばった。


「た、倒した! 俺が勝ったんだ!」


 ランスが勝鬨を上げる。それに合わせるように他の仲間たちも、また雄叫びをあげる。ランスだけではない。仲間の冒険者たちも強化された身体能力で山賊たちを駆逐したのだ。


 冒険者とゴブリンたちがランスに駆け寄る。仲間に囲まれた彼の姿は、ゴブリンたちの英雄だった。



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書籍第一巻が11月29に発売予定!!
本編に大幅な改稿を行い、WEB版よりもパワーアップしているだけでなく、
WEB版では未公開の特別編も収録しております。
今後の執筆活動を続けていくためにも、よろしくお願いいたします
i364010
画像をクリックして頂くなろうの書評サイトに移動できます。
― 新着の感想 ―
可愛い系ゴブリンじゃなくて醜い凶悪顔ゴブリンなのか じゃあ仲良くなるのは難しいね…
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