第三章 ~『ゴブリン親衛隊のリーダー』~
ランスがゴブリンダンジョンで温泉を堪能してから数十日が経過した頃、彼の人望のおかげもあり、宿泊施設には大勢の冒険者たちが集まっていた。
「ランスさん、随分と集めたみたいだね」
レオナールが足湯を堪能しているランスに話しかける。彼は人懐っこい笑みを浮かべて、レオナールに隣に座るよう促した。
「ここは最高の場所だ。旨い酒と温泉がある。それに何より寝床もあるのが良い」
「初心者冒険者にとって寝床の確保は死活問題だからね」
冒険者は自宅を持たない者が多いため、宿屋を拠点とすることが多い。宿屋の代金は銀貨一枚から三枚が相場で、ゴブリンを倒した報酬がそのまま宿代に消えることになる。ゴブリンダンジョンに挑戦するような初級冒険者にとって宿代は大きな出費なのだ。
「それに最近、ロト王国の物価が上がっているからな。皆、生活が苦しいんだ」
「新しい税金のせいだよね」
「通称バカップル税だな」
ロト王国の姫であるマリアンヌの結婚式は盛大に行われる。そのための費用を国王は消費税という形で徴収したのだ。
「エイトの首都長であるモーリーは猛反対したらしいが、他の首都長たちが賛成して、可決されたそうだぜ。本当、権力者の連中は汚い奴ばかりだぜ」
「だね。信じられるのはモーリーくらいさ」
モーリーは都市長の座に着いてからも、その仕事ぶりから名声を高めていた。モーリーの仲間であるレオナールにとって、モーリーの活躍は自分のことのように嬉しかった。
「レオ、相談があるんだが」
「なんだい?」
「俺はここに住もうと思うんだが、どう思う?」
ランスの提案はレオナールが望んでいた展開であった。迷う素振りをワザと見せた後、「住むべきだと思う」と告げた。
「やっぱりそう思うか!?」
「うん。間違いなくね。ランスさんはゴブリンダンジョンでの活動が主体だし、街の宿屋から毎日通うのは大変でしょ」
「そうなんだよ。しかも俺の住んでいる宿屋は、従業員が俺のことを底辺冒険者だと見下してくる。けどここは違う。ゴブリンたちは俺のことを敬ってくれる。俺は金も払ってないし、ゴブリンたちに何も与えてないのにな」
「ならゴブリンたちに恩返しをしてはどうかな?」
「恩返し?」
「やっぱりここはダンジョンだから色々な冒険者がやってくるでしょ。その中には粗暴な冒険者も含まれているはずだよ。そういった人たちからランスさんがゴブリンを守ってあげるんだ」
「俺が魔物を守るか……考えたこともなかったが、そうだよな。ゴブリンたちはこんなに良い奴らなんだ。殺すのは可哀そうだもんな」
「その通りさ」
「よし! 俺がゴブリンたちを守ってやる。一人だと多少不安だが、きっと俺の仲間たちも手伝ってくれるはずだ」
「ならランスさんがゴブリン親衛隊のリーダーだね」
「し、親衛隊!? それに俺がリーダーだって!?」
「ランスさんは英雄になりたいんでしょ。なら人を率いることも経験した方が良いよ。それにね、僕はランスさんならリーダーにピッタリだと思う。君には才能があるよ」
「俺に才能が……よし、今日から俺がゴブリン親衛隊のリーダーだ。やってやるぜ!」
ランスは足湯から出ると、仲間たちの元へと駆けだしていく。その背中をレオナールは微笑まし気に見つめていた。