第二章 ~『リリスとレオナール』~
レオナールがアンデッドダンジョンのマスターであるガイアを倒してから数日後。首都エイトでは彼を英雄として称えていた。
その要因はいくつかある。最も大きな要因に都市長であるモーリーが声明によって、ダンジョンマスターが討伐されたことと、それを実行したのが冒険者レオであると発表したことが挙げられる。
さらに新聞で、アンデッドダンジョンが街の襲撃を計画していたことや、百人長のゲイルが正義のために戦って亡くなったこと、その思いを汲み、レオナールが義憤に駆られるまでのストーリーが記事になっていたのだ。
加えて記事にはレオナールの似顔絵も掲載され、そのあまりに美しい顔立ちは多くの女性を虜にし、ファンクラブまで創設されるに至っていた。
(やっぱり新聞の力は大きいな。今後も何かに利用できるかもしれない)
レオナールは首都エイトの街を行く当てもなく歩いていた。道行く人々が、レオナールの顔を見ると、深々と頭を下げる。皆が彼を英雄だと認めていた。
(アンデッドダンジョンの攻略は色々なモノを得られたけど、その中でも聖騎士団と繋がりを持てたことが大きい)
聖騎士団団長のマイクは、ガイアを討伐したことで魔物の姿から人間の姿へと戻った。彼は魔物にされた後のことを何も覚えておらず、レオナールが事情を説明すると、彼に恩義を感じ、感謝状まで進呈した。
(マイクさんは良い人だし、命が助かってよかった。それに聖騎士団の汚名も晴れた)
ゲイルが街のために戦ったことを記事にした効果だけでなく、聖騎士団団長のマイクが新聞に『冒険者レオこそ真の英雄である』という記事を乗せたことが大きく働いた。人は自分の好きなモノを応援する同志を同じく応援したくなるもの。レオナールの人気がそのまま聖騎士団の人気に繋がったのだ。
(クククッ、二つのダンジョンを支配し、聖騎士団にも顔が効き、都市長の権力も自由に行使できる。僕が復讐を遂げる日も近い)
レオナールはパーティメンバーだけでなく、ロト王にも復讐するつもりだった。復讐には権力が必要だ。彼は目的を果たすために、王家を凌ぐさらなる権力を望む。
(ダンジョンに帰ったら残りの都市長を支配下に置く計画を考えよう。これから楽しくなるぞ)
レオナールは自分が王になり、裏切ったパーティメンバーが謝る姿を想像する。それは清々しく気分が良かった。
(そうさ。僕が王になればリリスだって……)
レオナールは脳裏に浮かんだ考えを振り払う。リリスのことは忘れたのだと彼は自分に言い聞かせた。
しかし頭とは裏腹に、身体は正直だった。レオナールは無意識のままに、リリスと共に暮らした邸宅へと足を運んでいた。
辿りついた邸宅は以前と様相が変わっていた。レオナールが丁寧に手入れしていた庭は、雑草だらけになっているし、郵便ポストには手紙が詰まっていた。
(リリス、大丈夫かな……)
レオナールは窓から邸宅の中の様子を伺う。そこには床に伏せているリリスの姿があった。
「リリス!」
レオナールは花壇の下から隠していた鍵を取り出し、玄関の扉を開けると、リリスへと慌てて駆け寄った。彼女は意識が朦朧としており、突然家の中に入ってきた闖入者に対して反応を見せない。
レオナールはリリスの状態を確かめるために額に手を当てて、体温を確かめる。その熱さは平熱と思えないほどに高温だった。
「凄い熱だっ! 早く何とかしないと!」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
リリスは何かにうなされるように、謝罪の言葉を繰り返す。レオナールは彼女を寝室へと運ぶのだった。





