第二章 ~『捨て石の聖騎士』~
レオナール商会。そこでいつもの三人は新聞に目を通していた。
「クリフが捕まったそうだな」
「これ、坊やがやったんだろ?」
「そうだよ」
「新聞の一面になっているぜ。レオ坊は本当に恐ろしい男だ」
新聞にはこう記されている。クリフが国家転覆を謀った罪で逮捕。革命派から資金提供を受けていたとも記されている。
「ゲイルさんも上手いシナリオを考えたものだよ」
「シナリオ?」
「奴隷ビジネスで手に入れた金、その表に出せない金と、革命資金を紐づけたんだ。クリフさんはきっと困るよ。なんたって無罪を主張しようにも奴隷ビジネスの話はできないからね。金の出所を説明できない」
「逮捕を免れる方法はないってことか。けどよ、レオ坊。有力候補は一人潰せたが、もう一人はどうするんだ?」
「ゲイルさんか。彼には死んでもらおうかな」
「随分とあっさりだな」
「自業自得さ。無実の人間を罪人に仕立てるなんて悪魔の所業だよ。消えていなくなった方が世界のためさ」
「なら有力候補は二人いなくなるわけか。なら俺の都市長の座は確実か……」
「モーリーも坊やも油断するんじゃないよ。有力候補が消えてもまだ他の候補者が残っているんだから」
「メリッサ。その点は心配ないよ。モーリーには街のヒーローになってもらう予定だからね」
「街のヒーローか……どうやってなるんだ?」
「それを説明する前に、もう一人の有力候補さんの最後の瞬間を楽しもうよ」
レオナールは水晶を使い、遠隔地の映像を映し出す。そこにはゲイルの姿が映し出されていた。
「坊や、これは聖騎士の百人隊よね」
「そう。この映像はアンデッドダンジョン入口前のものさ。僕の配下に透明になれる魔物がいてね。映像水晶で投影してもらっているんだ」
アンデッドゴブリンのスキル透明化を使い、レオナールはダンジョンバトルの対戦相手の情報を収集していた。その情報網の一つからの映像配信であった。
「僕は今、アンデッドダンジョンと戦争中でね。敵の戦力を分析したいんだ」
「話が見えないね。それがなぜ聖騎士がダンジョンの前に集まる理由になるんだい?」
「簡単だよ。僕はゲイルに奴隷ビジネスの顧客名簿をアンデッドダンジョンに隠したと伝えたんだ。冒険者に拾われる前に回収したい彼は、自前の戦力でダンジョンに挑もうというわけさ。聖騎士百人、戦力分析にもってこいの捨て駒でしょ」
「とんでもなくゲスな手段だが、相手は善人を犯罪者にするような奴らだ。躊躇う必要ねぇか」
「だね。彼らの最後を楽しもうじゃないか」
映像水晶に映し出された百人の聖騎士たちがダンジョンへの侵入を開始する。一糸乱れない隊列を組んで進行する姿は聖騎士らしい動きであった。
「冒険者の経験がないのか、随分と密集しているね」
「剣士相手なら有効だが、魔物は魔法使いも多い。範囲魔法で全員死ぬんじゃねぇか」
「かもね」
百人の聖騎士がダンジョンの通路を進むと、広い空間へと出る。正方形の何もない空間。そこに反対側の通路から膨大な数の魔物が姿を現す。
骸骨の兵士は剣と盾を持ち、聖騎士に対するように隊列を組む。さらに骸骨兵士の背後に骸骨の騎兵と、骸骨の魔法使いも姿を現した。
「数だけならアンデッドダンジョン側が優勢だね。けど腐っても聖騎士だ。職業としては上位に入る戦闘職だし、質を考慮するなら聖騎士に軍配が上がりそうだね」
ゲイルは聖騎士たちに突撃を命じる。それに応えるように骸骨の兵士たちも突撃を開始した。聖騎士たちは骸骨の兵士を木の枝でも斬るように細切れに変えていく。
「レオ坊。このままいけば聖騎士が勝ちそうだぜ」
「いいや。そんなに甘くないさ」
骸骨兵士たちは勝てないと見るや武器を捨てて、聖騎士に抱き着き始めた。そこに魔法使いたちが炎の魔法を飛ばす。聖騎士の何人かは全身を黒焦げにして命を落とし、硬貨となって散らばった。
同じように骸骨兵士によって足を止められた聖騎士へと、骸骨騎兵が突撃をかける。馬上からの攻撃に対応できず、何人かの聖騎士は首を跳ねられて、硬貨となって散らばった。
「骸骨の兵士は足止めが役割のようだね。本命は背後に控える骸骨騎兵と骸骨魔法使いのようだ。この情報は役に立つ。僕と戦争する時も必ず同じ手を使ってくるだろうからね」
ゴブリンダンジョンの主戦力であるゴブリンチャンピオンを足止めし、そこに魔法や騎兵をぶつける。聖騎士と同じ戦い方をすれば敵が同じことをしてくる可能性が高い。
「レオ坊。どうやら聖騎士の連中も学んだようだぜ」
骸骨兵士が動きを邪魔する捨て石だと学んだゲイルは、聖騎士たちに槍の陣形を作るよう命じ、突撃を開始する。骸骨兵士では足止めできず、その槍は骸骨の魔法使いを貫いた。
「ゲイルさんもなかなかやるね。このまま進めば、アンデッドダンジョンは魔法使いを失うことになる」
魔法使いがいなければ遠距離からの攻撃を恐れる必要がなくなる。もしかすると聖騎士が勝利するかもしれないと期待してみていると、部屋へと続く通路から一人の魔人が現れた。
「坊や、あれは魔人だよね」
「うん。顔を見るのは僕も初めてだけど、あれがアンデッドダンジョンのダンジョンマスター、ガイアさんだ」
レオナールは映像に映し出されたガイアをマジマジと見つめる。紫色の肌をした男が奇術師のような恰好をしている。右手には骨を持ち、ブツブツと何かを呟いている。
「坊や、どうしてあいつがダンジョンマスターだと分かるんだい?」
「簡単さ。アンデッドダンジョンに魔人は一人しかいないからね」
魔人。それはエルフ族のように複数人がダンジョンで暮らしている場合もあるが、中にはアンデッドダンジョンのように一人しかいない場合もあった。
「坊やはあの魔人についてどれくらい知っているんだい?」
「調べてみたけどさほど分かることはなかった。職業も種族も得意な魔法も何もかも謎に包まれている。幸いにも掴めた情報が、魔人は彼一人しかいないというものさ」
「ならこの戦いで、あの魔人の新しい情報が掴めるかもしれないねぇ」
「そうなると嬉しいよね」
ガイアは聖騎士たちに近づくと、その内の一人の顔をガッシリと掴む。すると彼の身体が風船のように内側から膨れ上がって破裂する。しかし男は硬貨になって散らばることはなく、骸骨となって新たな命が吹き込まれた。
「レオ坊、いまのはなんだ?」
「どうやらガイアさんは触れた相手を骸骨の魔物に変える力を有しているようだね」
「そんなの無敵の能力じゃねぇか!」
「いいや。そうとも限らないさ。見てみなよ」
映像の中でガイアは聖騎士たちと白兵戦を開始する。しかし最初に見せた魔物に変える力は使用しなかった。
「回数制限があるのか、使用魔力が大きいのか、はたまた別の制約があるのかもしれない。少なくとも無条件に連発して使える能力ではないようだね」
「坊やの推測は正しそうだね。ほら、見てみなよ」
ガイアは身体能力で聖騎士を圧倒しているが、その圧力にジワジワと押され始める。骸骨騎兵も加勢するが、騎兵は人の護衛には向かない。聖騎士たちはダンジョンマスターであるガイアに狙いを絞っており、騎兵の手助けは効果的と言えなかった。
「ガイアはこの状況になっても援軍を呼ばない。つまり他に魔物はいないと考えてよさそうだね」
ガイアの表情にも焦りの汗が浮かんでいた。これは聖騎士の勝ちで終わるかと、レオナールが期待した時、ガイアはニヤリと笑みを浮かべた。
「ガイアさんの奥の手が見れそうだね」
ガイアが魔法を唱えると、命の結晶として散っている硬貨が地面に吸い込まれ始めた。そして硬貨が姿を消すと、代わるように地面を掘り起こして、骸骨が姿を現した。
「面白い能力だね。一定範囲に転がる硬貨を消費して、魔物を復活させる力かな」
「だがレオ坊、雑魚の骸骨兵士を復活させても意味がねぇだろ」
「そうとは限らないよ。見てみなよ」
骸骨兵士たちは先ほどよりも身体能力が向上していた。聖騎士と一対一で戦えるだけの実力へと変わっている。
「坊やなら何が起きたのか理解できるんじゃないかい?」
「そんなに難しい話じゃないからね。死んだ骸骨たちより生き返った骸骨の方が数は少ない。それに地面に散らばった硬貨には、命を落とした聖騎士の分も含まれていたはずだから、本来ならもっと多くの骸骨兵士が生まれないとオカシイはずなんだ。でも現実はそうなっていない。つまり一体一体の質を上げるために、復活した骸骨兵士に課金したんだよ」
復活した骸骨兵士が聖騎士たちの首を撥ねていく。しかしゲイルはそれに対して何もできないでいた。
ボスであるダンジョンマスターを倒そうにも、ガイアの前には聖騎士と同等の力を有する骸骨兵士が百体以上並んでいる。さらに騎兵と魔法使いがじわりじわりと、聖騎士の数を減らしていた。
勝てない、そう確信したゲイルは撤退を宣言する。しかし逃げるための道は、骸骨兵士たちによって塞がれていた。ゲイルは助けを叫ぶが、ガイアは彼に容赦しない。百人いた聖騎士はすべてが硬貨となって、ダンジョンに散った。
「これで有力候補が二人とも消えたね。それにしてもゲイルさんは頑張ってくれた。僕に色んな情報をくれた」
「情報?」
「まずガイアさんの能力が二つあると分かったことが大きい。触れた相手を魔物に変える力と、硬貨を消費して魔物を復活させる力。前者は連発できないから対策を打つのは簡単だし、後者は硬貨をすぐに回収するか、一対一の戦いに持ち込めばいい」
「でもレオ坊。油断は禁物だぜ。他に魔法を隠し持っている可能性もあるんじゃねぇか」
「可能性はあるかもね。けど攻撃系の魔法はないよ。使えば効果的な場面で使わなかったからね」
聖騎士たちは密集陣形を取っていた。範囲攻撃があるのなら、躊躇わずに使っていたはずである。
「身体能力は聖騎士の三倍程度。ゴブリンチャンピオンを複数体ぶつければ、いくらでも対処できる。本当、戦争において情報は命だね」
レオナールは映像を消すと、モーリーとメリッサに向き直る。
「さて邪魔者は消えた。後はモーリーがヒーローになるだけだ。そのために演技指導をしないとね」
「演技指導?」
「そう。立派なヒーローを演じてもらうよ。すべて僕に任せておいてよ」
レオナールはモーリーを街の英雄にするための方法を語り始めた。





