第二章 ~『奴隷ビジネスの全貌』~
レオナールはゲイルの首を持ち上げながら、マネードレインを発動させる。彼を殺さないよう加減しながら、聖騎士の力を奪って抵抗力をなくすと、首から手を離した。
地面に落とされたゲイルは尻餅をついて、レオナールを見上げる。その瞳には恐怖の色が滲んでいた。
「レ、レオ、つまり君は男か?」
「そうだよ。ちなみにクリフさんから送られてきた犯罪奴隷だという話も嘘だよ」
「……いったい何者なんだ、君は?」
「ゲイルさんを地獄へ送る使者だと伝えたでしょ。この部屋は防音だし、君から情報を引き出すのは容易だろうね」
「な、なにをする気だ……」
「すでに何かはしているんだよ。さっきから身体が重いでしょ?」
ゲイルは先ほどから感じていた倦怠感を突かれて息を呑む。何かされたのだと確信した。
「僕は相手の課金した金を奪い取る力を持っているんだ。君からはかなりの金額を吸い取ったからね。今の君は子供より弱いんじゃないかな」
「ぐっ……」
「そんな君に、僕の尋問が耐えられるかな?」
「む、無理だ。俺は痛みが大の苦手なんだ。何でも話すから許してくれ」
ゲイルはすぐに降参し、両手を挙げる。秘密を暴露することより、拷問を受ける恐怖が勝っていた。
「僕の予想では君たちは指名した相手を犯罪奴隷に堕とすビジネスをしている。正しいかい?」
「……どこでそれを?」
「ただの推測だよ。正しいかな?」
「正しい。消したい邪魔者がいる場合や、犯罪者以外でどうしても奴隷に欲しい者がいる場合に依頼される」
「前者は分かるんだけど、後者はどんな依頼があったの?」
「例えばそうだな、村一番の人気者の娘や、店の看板娘のような罪に犯さない純朴な少女を奴隷に欲しいという依頼が多い」
「犠牲者の数は?」
「数えきれないな。なにせ今まで犯罪奴隷に堕とした人間の数は千を超えているからな」
「千人……百人長の業務範囲でそこまでの人間を捌ききれるのかい?」
「できるさ。俺と同じ百人長も何人かこのビジネスに手を貸しているからな」
「千人長も加担しているの?」
「関わっていない。あくまで俺がリーダーだ。千人長が加わると、上下関係が逆転するからな」
ゲイルは組織構成に関して話を続ける。ゲイルを頂点とし、同僚の百人長たち四人を含めた合計五名で構成されており、五名の中でも最も千人長に近いと云われているゲイルがリーダーを任されていた。
「お客さんはやっぱりクリフさんの紹介かい?」
「そうだ。貴族は金払いも良いし、秘密も守る。それに罪を着せる人間に応じて値段は変わるが、どれだけ安くとも白金貨一枚は貰っていたからな。平民相手に販路を拡大するメリットも小さい」
「ちなみに加担していた百人長四名の名前は?」
ゲイルは四名の名前を読み上げる。その中にはジルの名前も含まれていた。
「ジルも関与していたんだね」
「そうだ。そもそもこのビジネスを思いついたのも、あいつが邪魔な商人を消すアイデアを一緒に考えて欲しいと頼むから議論している内に浮かんできたものだ」
「へぇ~なるほどね。これはちょっとした復讐ができそうだ」
「復讐?」
「こちらの話さ。それともう一つ、僕は君たちの顧客名簿が欲しい。当然あるよね」
「…………」
「黙っても無駄だよ。客の貴族が裏切った場合の保険をかけていないはずがないからね。誰がどんな人を犯罪奴隷に仕立て上げる依頼をしたのか。記録は残してあるよね?」
「もしないといえば……」
「君が居場所を吐くまで拷問するだけだよ」
「……そこのベッドの下だ」
「随分と古典的だね」
レオナールはベッドの下を覗くと、一つにまとめられた紙の束を見つける。彼が顧客名簿の中身に目を通すと、目がキラキラと輝き始めた。
「すごいね。大物ばかりだ。これは色々と利用できそうだ」
「顧客名簿は渡したんだ。私を解放してくれ」
「いいよ。解放してあげよう。ただし僕からお願いがある」
「お願い?」
「一人、犯罪奴隷に堕としてほしい人間がいるんだ。もし断るなら……分かるよね?」
レオナールは顧客名簿をヒラヒラと振る。その脅しにゲイルは首を縦に振るしかなかった。





