第二章 ~『奴隷ビジネスの推測』~
レオナール商会へ戻った三人は円卓を囲みながら、今後の作戦について相談していた。
「レオ坊、メリッサ、クリフとゲイルの奴らが進めている奴隷ビジネスってなんだと思う?」
モーリーは自分でも考えてみたが、クリフとゲイルが協力して進めるビジネスの正体について見当すら付かなかった。
「私もさっぱり。坊やなら何か分かるんじゃないかい?」
「確証はないけど。それでもいいのなら……」
「教えてくれ」
「頼むよ、坊や」
「なら奴隷ビジネスについて分かっていることを整理しよう。クリフさんとゲイルさんが関わっているのは犯罪奴隷に関するビジネス。これは重要な情報だね」
奴隷には三種類存在する。一つは戦争奴隷。戦争で捕虜になった敵国の兵士などが奴隷となる。反抗心は高いが、腕の立つ奴隷が多く、人気も高い。
二つ目は魔族奴隷。ダンジョンで捕まえた魔人の奴隷である。エルフ族やサキュバス族などが特に人気が高く、人間より長生きすることから値も高い。
そして三つ目が罪を犯した者が堕ちる犯罪奴隷である。罪を犯したという点に、レオナールは秘密を暴く鍵があると睨んでいた。
「犯罪奴隷と聖騎士と貴族。この三つを並べると見えてくることがあるよね」
「坊や、まだ何が言いたいのか分からないよ」
「もう少し詳しく説明するよ。罪を犯した者を逮捕するのは王国騎士か聖騎士のどちらかだ。そして富裕層の集まりであり、秘密のビジネスに打ってつけの客である貴族。ここに犯罪奴隷を加えてみる。すると一つのビジネスが浮かんでくるでしょ」
「おいおい、まさか……」
「罪のない人間の罪をでっちあげ、犯罪奴隷に堕とすビジネス。僕はそう睨んでいる」
レオナール自身、ジルに罪を捏造されたが故に浮かんできた発想であった。
「坊や、他に根拠となる情報はあるのかい?」
「うん。実はクリフさん自身ではなく、彼のライバルである政敵たちに関して調べてみたんだ。すると面白いことが分かった。彼の政敵たちが暴力事件や婦女暴行の罪で逮捕されているんだ」
「でもそれは偶然の可能性もあるんじゃないのかい?」
「偶然ではないよ。なぜならクリフさんの政敵が起こした暴力事件や婦女暴行の被害者はゲイルさんの弟と妹だからね。こうまで露骨だと笑いすら起きないよ」
犯罪奴隷を購入するために支払われた金は被害者に支払われるようになっている。すなわち、意図した人間を犯罪奴隷に堕とし、金は仲間内で回しているのである。
「僕もビジネスでは手段を選ばないけど、こいつら僕なんかよりよっぽどゲスな奴らだ。ここまでの悪党なら僕も躊躇なく戦えそうだ」
「……聖騎士団はどこまでこの情報を知っているんだろうな」
「ゲイルさんは百人長らしいね。一人でできるはずもないし、彼の部下たちは少なくとも把握しているだろうね」
「さすがに聖騎士団の団長は知らねぇよな?」
「どうだろうね。聖騎士団にはジルも所属しているし、僕の聖騎士団に対する信頼はさほど高くないよ」
「真実はゲイル本人を問い詰めないと分からねぇか」
「でも坊や、本人を問い詰めるとしてどうやって接触するのさ?」
「正面から攫うのはさすがに人の目があるからね」
聖騎士団の百人長ともなれば、周りに常に人がいる。そんな中で拉致でもすれば、大問題に発展する。
「ゲイルは奴隷を集めるのが趣味らしい。それを上手く利用できないかな」
「女、といえばメリッサだが……」
「私じゃ、聖騎士相手に尋問なんてできないよ」
「僕もメリッサが行くのは反対だ。他に何か上手い方法があれば……」
「坊や、私、良い方法を思いついたよ」
レオナールが頭を悩ませていると、メリッサが何かを思いついたのか、商会の倉庫室へと姿を消す。戻ってきた彼女の手には一着の服が握られていた。
「立派なドレスだね。その服がどうかしたの?」
「これを坊やが着るのさ」
「で、でも僕は男だよ」
「坊やが着るなら、下手な女なんかよりよっぽど似合うはずさね」
「うっ……」
レオナールにも男としてのプライドが存在した。他に何か妙案がないか考えるが、メリッサが提示した方法以外に何も思いつかなかった。
「分かったよ。諦めて着るよ。変でも笑わないでよ」
レオナールは渡されたドレスに着替える。細かい模様が描かれたレースのドレスに袖を通していく。
「どうかな?」
「坊や、どこから見ても貴族の令嬢にしか見えないよ」
「メリッサの言う通りだぜ。もし俺が酔っていたら、理性を失くして襲っていたかもしれねぇ」
「そんなことしたら殴るからね」
「分かっているよ。レオ坊を怒らせると怖いからな」
「とにかく女性で通じるなら問題は解決だ。この恰好でゲイルの屋敷に乗り込むとするよ」
レオナールは釈然としない表情で、作戦を決行する覚悟を決めた。





