第一章 ~『平穏な日常』~
ダンジョンマスターを倒し、ダンジョンから帰還したレオナールは、ロト王国の首都エイトの郊外に建てられた家へと帰ってきていた。煉瓦造りの風情ある佇まいの住宅は、通り過ぎる者の視線を釘付けにした。
「今回の冒険も無事に戻れて良かったね」
「そうだね。それにリリスの顔を元に戻せたのは大きな収穫だよ」
レオナールとリリスは二人で一緒に暮らしていた。幼い頃から二人でいるのが当たり前だった。
「お腹空いたよね。料理でも作るよ」
レオナールは食事の準備を進める。慣れた手つきで焼いた魚を皿に乗せ、野菜を盛りつけサラダを作る。リリスは食卓に座り、彼の準備が終わるのを待っていた。
「お待たせ。食事ができたよ」
「レオナール、いつもありがとう。私に料理の腕があれば手伝えるんだけど……」
「気にしないでよ。僕がリリスに美味しいご飯を食べてもらいたくて、好きでやっていることだから」
「でもレオナールは食事だけでなく、家の掃除や洗濯まで何もかもしてくれて……商人の仕事も忙しいのに……」
「家事はリリスの綺麗な手が荒れて欲しくない僕の我儘なんだ。それに商人の仕事は部下に任せているからね。順調なものさ」
レオナールは冒険者としての顔とは別にジョブクラスである商人としての顔も持っていた。レオナール商店。首都エイトにおいて中堅クラスの商店であり、扱うものは多種多様。武具や食糧、他には薬や衣服も扱っている。その商店の長こそがレオナールであった。
「私、いつもレオナールにお世話になりっぱなしで、何か恩返しができると良いのだけど……」
「恩返しなら十分して貰っているさ。唯一の家族だった姉さんを失って途方に暮れていた僕に生きる理由を与えてくれたんだから」
姉を火災で失い、一人孤独に生きてきたレオナールの傍を幼馴染のリリスは離れようとしなかった。彼女はいつだって彼の味方であり続けた。
「でも、レオナールのお姉さんは私を助けるために……」
「いいや。姉さんは僕を助けるために死んだんだよ。リリスのせいじゃない。僕のせいなんだ」
「でも……」
「そんなことより早くご飯を食べよう。冷めてしまうからね」
「う、うん」
二人は食事に手を伸ばす。焼き魚は脂がのっており舌を喜ばせ、サラダは瑞々しく、シャキシャキとした触感が楽しかった。美味しい食事は人を笑顔にする。二人は楽しそうに談笑しながら、食事を楽しんだ。
「そうだ。レオナール。以前話をしていた腕の痣の正体は分かりましたか?」
「図書館で調べてみたんだけどね。収穫なしだ」
レオナールの腕には龍の痣模様が浮かんでいた。変な病気の兆候なのではと心配した彼は、痣に関する情報を集めていたのだ。
「マリアンヌは聖女のジョブクラスだし、もしかしたら何か知っているかも。今度聞いておくね」
「ありがとう。僕はマリアンヌに嫌われているから、正直助かるよ」
二人はその後も楽しい食事を続ける。平穏な日常はまだレオナールの傍にいた。