第二章 ~『虫の死骸と冷酷な笑み』~
レオナールは馬乗りになった聖騎士の顔に拳を打ち込む。鼻血を漏らしながら、男は恐怖で顔を歪ませる。
「さて色々と聞きたいことがあるんだけど、まずは簡単な質問からしようかな。どうして僕らを襲ったのかな?」
「か、金に困ったからだ」
「君のジョブレベル、かなり高いよね。金に困っていると思えないけど」
「うっ……」
「それにどうして聖騎士の人が山賊の恰好をしていたのかな。もしかして聖騎士だとバレると困るとか?」
「う、うるせぇ、どんな格好をしていようが俺たちの勝手だろ」
「……まだ立場が理解できていないようだね」
レオナールは聖騎士の男に拳を打ち付ける。その鋭い痛みに、男は次第に顔を歪めていく。
「わ、悪かった。もう止めてくれ」
「すべてを話す気になったかな」
「それは……」
「そうだな……もし本当のことを話してくれないなら、マネードレインで君が今まで課金してきた金をすべて頂こうかな」
「えっ……」
「ついでに両腕両足も捥いでおこう。五体を満足に動かせず、課金もゼロの無能になり下がるんだ。これから君は素敵な人生が待つことになるよ」
「た、頼む。それだけは許してくれ……」
「ならすべてを話してもらうよ」
「分かった……」
観念したのか、聖騎士の男は重たい口を開く。
「俺たちは貴族のクリフから雇われた聖騎士だ。正確にはクリフから俺たちのボス、ゲイル百人長に依頼があった」
「それは興味深いね」
貴族のクリフと聖騎士のゲイルは二大候補であり、互いにライバル関係のはず。その二人が協力関係にあるという情報は、レオナールでさえ知らないことだった。
「二人はあるビジネスで繋がっていて、今回の都市長選挙もそのビジネスを円滑に進めるための方策だと聞いている」
「ビジネスとはなにかな?」
「俺も知らない。ただ奴隷に関連するビジネスだと聞いている」
「知っている人は誰かな?」
「……詳細まで知っている人間はクリフとゲイルの二人。それ以外にもいるかもしれないが、俺は知らない」
「……ふぅ~ん、クリフさんを落とすのは大変そうだからね。まずはゲイルさんに聞いてみようかな」
貴族よりは聖騎士団の百人長の方が扱いやすいと判断し、レオナールは戦略を頭の中で展開する。
「ゲイルさんについて他に知っていることはあるかい?」
「……俺が知っているのは犯罪奴隷のコレクターだってことくらいだ」
「コレクター?」
「そう。美女の犯罪奴隷を何人も囲っているって話だ。その中には貴族の娘もいて、聖騎士団の中でも羨ましがられていたな」
「ありがとう。話が繋がった気がするよ」
「なら俺を解放してくれるんだな」
「うん。人生からね」
「ど、どうして、俺はすべてを話したはずだ。それに傷つけないと約束したはずだぞ」
「君は僕たちを殺そうとしただろ。僕は君のような悪党が嫌いなんだ。それに約束の内容は腕と足をもいだ後に無能にすることはしないと約束しただけで、命を奪わないとは一言も言っていないよ」
「な、なんだと!」
「じゃあね。仲間の聖騎士たちと仲良くね」
レオナールは聖騎士の男の首を捻ると、男は苦痛なく絶命した。息絶えた彼の顔を冷酷な笑みで、レオナールは見下ろす。その顔は虫の死骸でも見るような表情だった。





