第二章 ~『山賊と口封じ』~
屋敷からの帰り道の荷馬車の中、レオナールは満足げな笑みを浮かべ、メリッサとモーリーは表情に疑問を浮かべていた。
「坊や、そろそろ教えて頂戴な。あの件とは何のことだい?」
「それは俺も気になっていたぜ。いったいどこでクリフの情報を掴んだんだ?」
「知らないよ。ただのカマかけだからね」
「は?」
「でも効果は大だよ。なにせあの反応だ。裏で何かしていると白状したようなものさ。僕らが勝算もないのに選挙に立候補してきたこともハッタリの信憑性を上げる要因になっていたのかもね」
「だとしても、これからどうするんだ? 俺たちの打てる手はないぜ」
「僕たちは何もする必要ないよ。アクションは向こうが起こしてくれるだろうからね」
「どういうことだ?」
「クリフさんは僕たちが秘密を握っていると信じている。それが暴露されると困るわけだ。なら暴露される前に何とか対処しようとするだろ。例えばそうだね。僕がクリフさんの立場なら、道中で事故に見せかけて口封じするよ。おっと、どうやら動きがあったようだね」
何かのトラブルに巻き込まれたのか、荷馬車が急停止する。レオナールたちが荷馬車の外に出ると、人相の悪い男たちが行く手を阻んでいた。
「メリッサさん。こいつら」
馬を引いていたレオナール商会の従業員が困ったような表情を浮かべる。恐怖を顔に出さないだけたいしたものだと、レオナールは感心した。
「あんたは荷馬車の中に隠れていな」
「は、はい」
従業員の男が荷馬車の中に隠れたのを確認すると、レオナールは一歩前に出る。
「メリッサとモーリーは手を出さなくていいよ。僕がやる」
「こいつ、僕がやるだってよ、かっわい~」
「随分と舐められたものだね。君たちは山賊かな」
「見れば分かるだろ」
「そうだね。見れば分かる」
レオナールは商人のジョブスキルである鑑定を発動させ、山賊たちの職業を確認する。そこに記されていたのは山賊ではなく、聖騎士の三文字であった。
「君たち、聖騎士なんだね」
「……なぜ分かった?」
「僕は商人だからね。鑑定スキルを使ったのさ」
「お前商人かよっ! 雑魚じゃねぇか! 職業がバレて焦ったが、よくよく考えれば全員殺せば関係ねぇな!」
山賊の恰好をした聖騎士たちが剣を抜いて、じわりじわりと近づいてくる。
「おい、レオ坊。一人で本当に大丈夫なのか? 俺たちも……」
「いいよ、いいよ。こいつら弱いし」
レオナールが余裕の表情を浮かべていると、聖騎士の一人が斬りかかる。しかし刃が彼に届くことはなく、男は顔を吹き飛ばされていた。
「嘘だろ……」
「次の犠牲者は誰かな?」
「ぜ、全員だ。全員で一気に行くぞ」
聖騎士の一人がそう叫ぶ。しかし全員で襲うことは不可能になった。なぜなら呼びかけた男の仲間はすべて顔を吹き飛ばされてしまったからだ。
「お、俺たちの仲間が……商人に敗れるはずが……」
「聖騎士の職業が自慢なようだけど、自分の未熟さが理解できたかな」
「…………」
「さて、残るは君一人だ。なぜ君だけを生かしたか分かるかい?」
「俺がこいつらのリーダーだからか?」
「鑑定スキルで君たちのジョブレベルは把握していたからね。君が最も強い。だからリーダーは君だとすぐに分かったよ。でもそれだけじゃない」
「どういうことだ?」
「君は珍しいスキルを持っているね。聖騎士の祝福。スキルを保有しているだけで、自動で戦闘能力を底上げしてくれるんだろ」
「俺がスキルを保有していることがお前に何の関係がある」
「それはね……」
レオナールは聖騎士の男の顔を掴むと、地面に叩きつける。そして彼に馬乗りになると、マネードレインを発動し、聖騎士の祝福のスキルを奪い取る。
「お、身体が軽くなった。良いスキルだね」
「ま、まさか、俺のスキルを……」
「奪った。そしてスキルの次は情報だ」
「情報?」
「君の知っていることはすべて話してもらうよ。な~に、君の意思は関係ない。君は自分からペラペラと話したくなるだろうからね」
レオナールは不気味な笑みを浮かべると、男は小さく悲鳴を漏らした。





