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第二章 ~『集会での取引』~


「職業と卵一つを交換ね……十中八九、あなたの職業は商人だと睨んでいるわ。この状況で交換する価値が本当にあるのかしら?」

「あるよ。きっと君は聞いておいた方が良い」

「……魔物の卵一つで本当に良いの?」

「うん。情報の価値としては破格でしょ?」

「そうね……乗ったわ、その取引」


 予想通りの展開にレオナールは頬を緩める。


(タマモさんからすれば魔物の卵は惜しくない。この取引を呑むのは当然)


 フォックスの卵の値段にも依るが、どれほど高くとも大金貨を超える価格になることはないし、卵は孵化するとライバルの戦力を強化することに繋がるが、それも魔物の卵から孵化する魔物のほとんどが最弱の魔物だと考えればさほど痛手ではない。


 それに対してダンジョンマスターの職業に関する情報は価千金、本来なら魔物の卵一つで手に入る安い情報ではない。損得だけを考えるなら、交渉を呑むのは当然なのだ。


(タマモさんは僕が魔物の卵を強化できることを知らない。フォックスダンジョン最強の魔物を召喚してやる!)


 レオナールは笑顔を張り付けたまま、タマモに先に卵を渡すよう催促する。彼女が手を振ると、レオナールの脳裏に『贈り物を受け取るか?』というメッセージが浮かぶ。同意すると、彼のいる場所に突如、魔物の卵が出現した。


「どうやって僕に卵を渡したんだい?」

「ダンジョンマスターの権限よ。他のダンジョンマスターに対して通信や物資のやり取りができるの。知らなかったの?」

「そんなこともできるんだね。参考になったよ」

「……まぁいいわ。あなたの職業、教えなさいよ」

「焦らなくても教えるよ。ただあまり広められたくないからね。伝える相手は限定したい。僕の職業を知りたい人は他にいるかい? 代金は卵一つだ」

「俺にも教えろ」

「君は?」

「俺はアンデッドダンジョンのダンジョンマスター、ガイアだ」


 ガイアは顔こそ分からないが、地の底から響くような声が不気味さを感じさせた。


「ガイアさんね。これからよろしく。君も卵を送ってくれるかい」

「ほらよ。受け取りな」


 空中に魔物の卵が出現する。欲しいモノが得られたことにレオナールは満足する。


「他にはいないかい?」

「私はレオ様のダンジョンと同盟を結んでいます。その際にあなたの職業についてはユキリス嬢より聞いております」

「そうなの?」

「申し訳ございません、旦那様。リュート様と同盟を結ぶためには、旦那様の職業に関して開示する必要があったのです」

「気にしてないよ。同盟を結ぶために必要だったんでしょ?」

「はい。同盟により私たちはリュート様から情報提供や資金提供などを受けていました」

「ユキリス嬢からレオ様の存在は聞いておりました。いつかダンジョンマスターとして戻ってこられると。その瞬間を夢見て、少しばかりの手助けをさせていただきました」

「手助けは資金で提供してくれたんだよね?」

「はい。ドラゴンを貸し与えると、上級冒険者が討伐に来る可能性がありますから。そのために独力で解決できるよう資金をお渡ししていました」

「ありがとう。ユキリスの代わりに礼を言うよ」

「お気になさらず。レオ様がこうしてダンジョンマスターとして復活するところを見ることができましたし、それに何より手助けの対価としてユキリス嬢から魔物の卵をいくつか頂きましたから」

「ゴブリンの卵が役に立ったの?」

「はい。我々ドラゴンは一体ごとの力は強力なのですが、数を揃えることができません。安くて大量に生み出せるゴブリンは私が最も欲していた卵でした」

「喜んで貰えたなら良かったよ」

「私はゴブリンの卵に何度も助けられました。それにレオ様がダンジョンマスターになられたことで、上級冒険者とも互角に戦えるでしょう。故にレオ様のダンジョンマスター就任祝いも兼ねて、私もドラゴンの卵を送りましょう」

「本当に! それは嬉しいな!」


 リュートもまたレオナールに卵を送る。最も手に入れたいと願っていたドラゴンの卵に、レオナールは緩んだ頬を抑えることができなかった。


「三人以外はひとまず退室してもらってもいいかな。対価を受け取った人だけに情報を伝えたいから」


 レオナールの言葉を受けて、リュート、タマモ、ガイアを残し、ダンジョンマスターたちは姿を消す。


「待たせたね。僕の職業を君たちだけに教えるよ。僕の職業は魔王だ!」


 レオナールの宣言にタマモとガイアは黙り込む。突然魔王だと名乗りをあげられて信じることができるほど、二人は純粋ではなかった。そこにリュートが助け船を出す。


「私からも一言。二人は知らないでしょうが、私は魔王軍の幹部だったのでベルゼ様の顔を知っています。故にレオ様が魔王なのは間違ないと分かります。なにせベルゼ様にそっくりですから」


 リュートのお墨付きにより、二人は魔王であることを信じることに決めたのか、疑いの言葉を口にすることはしなかった。


「先代魔王ベルゼの息子ね。ダンジョンマスターの職業情報が得られたから戦いを有利に進められると思ったけど、魔王じゃ大して役にたたないわね」


 魔王の職業は剣士や魔法使いのような一般的な職業ではないため、対策方法も確立されていない。そのため職業を知られたことに対する痛手はほとんどなかった。


「あ~残念だわ。もしダンジョンマスターが商人なら、あわよくばゴブリンダンジョンを私の領地にしようと思っていたけれど、これは難しいかもしれないわね」

「え? ダンジョンは奪えるの?」

「双方の同意が必要だけど、ダンジョン同士の総力戦、ダンジョンバトルを行い、勝利すれば相手のダンジョンを自分の支配下に置くことができるのよ」

「それは面白いシステムだね」


 ダンジョンを奪うことができれば、毎日の収益に加え、魔物の軍勢やダンジョンという拠点が手に入る。可能であれば誰かから奪いたい。そう願っているとき、ガイアが声をあげた。


「俺はタマモとは違う意見だ。こいつ相手なら楽に勝てると、確信しているぜ」

「へぇ~、僕は魔王だよ。それでも勝てる自信があるんだね」

「先代の魔王は確かに凄かった。しかし息子のお前は人間の血が混じったカスだ。しかも魔物はゴブリンばかりときているし、魔人はエルフだ。俺はエルフ共に奉仕させるのが夢だったんだ。こんな美味しいダンジョン、見逃せるはずがねぇだろ」

「でもダンジョンバトルは互いの同意がいるんだろ?」

「逃げるのかよ? 魔王の職業を持つお前が?」

「逃げないさ。ただ僕はやりたくないことをやらされるんだ。いくつか条件を付けさせてもらうよ」

「おう。言ってみろ」

「まず互いに他のダンジョンマスターから力を借りるのはなしだ」

「いいのかよ? リュートはお前の味方だろ?」

「リュートさんと僕が同盟を結んでいることを知っていてダンジョンバトルを挑んできたんだ。きっと君も別の誰かと同盟を結んでいるんだろ。第三者に出てこられると面倒だからね」

「いいぜ。俺にとっても願ったりな条件だ。他には?」

「日時の指定だ。ダンジョンバトルの開始は三か月後とさせてもらうよ」

「三か月だぁ! 随分と長いな」

「戦力強化が必要なのでね」

「いいだろう。他にはあるか?」

「そうだね。最後の条件だけど、今回のダンジョンバトルは僕が喧嘩を売られた被害者だ。だから試合を受ける代わりに、お金が欲しい」

「いくら必要なんだ?」

「白金貨一枚で手を打つよ」


 レオナールの提示した白金貨一枚は決して高い金額ではない。ガイアにとっては十分に払える金額であり、ダンジョンを奪えば、その何倍もの収益を得ることができる。


「いいぜ。払ってやるよ」

「ありがとう。これで試合に対する条件は出揃ったね。で、ルールはこうだ。配下の魔物と魔人を送り込み、ギブアップするか、ダンジョンマスターが敗北すると負け。あとはそうだな、ダンジョンコアを破壊してはならないもルールに加えようかな」

「最後に自爆されても困るからな」


 もう勝てないと諦めて自分のダンジョンコアを破壊する。そういったことが行われないための予防線だった。


「ダンジョンゲートは互いのダンジョンの入口前でいいか?」

「ダンジョンゲート?」

「ダンジョン同士を結ぶ魔物や魔人が移動するための扉だ」

「入口でいいよ」

「決まったな。ゴブリンを殺し、エルフを支配下に置く。三か月後が楽しみだぜ」

「僕も君のようなゲスを倒せると思うと、本当に楽しみだよ」


 ガイアの勝ち誇った笑いとは対照的に、レオナールは控えめな笑みを浮かべる。彼の頭の中ではすでに勝利への方程式ができあがっていた。



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