第二章 ~『ダンジョンマスターの集会』~
ダンジョンマスターが集う集会へと参加するため、レオナールはユキリスの案内に従い、ダンジョンコア室を訪れていた。ここはユキリスの邸宅の地下に設置された施設で石造りの階段を下りた先に広がる空間であった。
「他の建物と違って、ここは頑丈にと作られているんだね」
「ダンジョンコアはダンジョンの核になるモノですから。ここだけはダンジョン拡張にお金を投資して、用意したのです」
「普通の冒険者ならダンジョンコアを壊すような真似しないだろうけど、どんな変わり者がいるか分からないから、その判断は正しいと思うよ」
「……冒険者はダンジョンコアを破壊しないのですか?」
「しないよ。してもメリットないし、ロト王国はダンジョンで発生したお金が主な収益源だからね。よほどの魔物嫌いとかでなければ壊されることはないよ」
ユキリスは自分の命より大切なダンジョンコアが比較的安全だと知れて安心したのか、ほっと息を吐く。ダンジョンコアを破壊されれば魔人も魔物もすべて消滅してしまうため、常に壊される危機感と恐怖を抱いて生きなければならない。その恐怖が少しでも和らいだのなら教えてよかったと、レオナールは頬を緩めた。
「そろそろ集会が始まる時間ですね」
ユキリスは映像水晶を使い、遠隔地の映像を地下室全面に映し出す。映像には顔を隠した八人が椅子に座り、こちらの様子を伺う光景が映し出されていた。
「ユキリス、他のダンジョンマスターたちも顔を隠しているけど、僕たちも顔を隠した方が良いのかな」
「ご心配なく。私たちの映像にも認識阻害の魔法が掛けられております。私たちの顔が相手に知られることはありません」
レオナールたちは集会が始まるのを待つ。追加で一人、ダンジョンマスターが姿を現し、集会開始の時間となった。
「ダンジョンマスターの皆さま、お久しぶりです。ユキリスです。今回の集会の議題ですが、我がゴブリンダンジョンのマスターが変更になりましたので、その連絡をしたいと思います」
「僕がゴブリンダンジョンのマスター、レオだ。よろしく」
レオナールはジルと共に魔物を何体も狩ってきた。本名では余計なトラブルを生むかもしれないと、とっさに偽名のレオを使うことを選択する。
「レオ様ですね。お話は聞いております。私はドラゴンダンジョンのマスターであるリュートです。お見知りおきを」
「ありがとう。顔を見て挨拶したいけど、見せない方が良い理由があるんだよね」
「ええ。ダンジョンマスターが誰かという情報は貴重です。もし敵対する者に正体を知られれば暗殺の危険もあります。ですので慎重な者であれば顔どころか名前さえ隠す者までいます」
「名前を隠すことに意味はないと思うけどね」
顔と違い、名前はいくらでも偽装できる。知られたところで、そこから個人に結び付けるのは困難だ。
「そうとは限らないわよ」
リュートの隣にいた狐耳のシルエットの女性が異論を唱える。
「失礼。私はタマモ。狐型の魔物フォックスが暮らすダンジョンの長よ」
「よろしく。で、教えて欲しいのだけれど、そうとは限らないとはどういうこと?」
「鑑定スキル持ちの中には名前から顔や能力を導き出す者もいると聞いたわ。例えば商人の鑑定能力だとそういうことができるかもしれないわよ」
「商人はジョブスキルとして鑑定を使えるけど、さすがに名前から顔を特定するのは無理だよ。それに君、鑑定の危険性を危惧しているなら名前を教えても大丈夫なの? おそらく偽名だとは思うけど」
「うふふ、タマモは本名よ。あと商人のジョブスキルの鑑定は、名前から顔を特定することができないことは知っていたわ」
「……ならなぜあんな嘘を?」
「その質問に答える前に、あなた随分と商人のジョブスキルについて詳しいのね?」
「なっ!」
レオナールは驚愕でゴクリと息を呑む。ジョブクラス。それは顔以上に露呈されたくない情報だ。例えば魔法使いなら接近戦を、剣士なら遠距離攻撃を行うといった、弱点に合わせた戦略を取ることができるからだ。
「私はあなたに興味があって調べてみたの。するとゴブリンダンジョンに凄腕の商人がいるとの情報を手に入れたわ。もしかしてあなたがその商人なんじゃないの?」
「……その質問に答えてもいいよ。けど僕の職業を教える代わりに、魔物の卵が欲しい」
「え!?」
レオナールの反撃にタマモは言葉を窮する。彼の逆転劇が始まろうとしていた。





