第二章 ~『ダンジョンのレベルアップ』~
ダンジョンレベル2への上昇。それはレオナールが最も待ち望んでいた瞬間であった。
「ダンジョンレベルが2になったね。これで色々なことができるよ」
「毎日の収入も増えますからね」
ダンジョンはレベルに応じて硬貨を自然発生させる。レベル1では毎日金貨一枚しか生み出せないが、レベル2になれば、金貨十枚、すなわち大金貨一枚が生み出されるのだ。
「大金貨一枚あれば、上位種のゴブリンメイジを何体も生み出すことができるね」
「魔物の卵を使いますか?」
「ギャンブルになるからね。どうするべきか……」
レオナールは魔王の強化の力によりダンジョンマスターとしての力が向上している。おかげで魔物の卵を孵化させると十回に一度は上位種を引き当てることができるようになっていた。もしこれが強化されていないダンジョンマスターであれば、上位種を引けるのは百回に一度であるため、割の良い賭けではある。しかし確実性のある選択ではなかった。
「魔物の卵を孵化させよう」
「旦那様の力なら必ずやゴブリンメイジを引き当てられるでしょう」
「今回はそれだと困るな。僕は前衛に特化したゴブリンが欲しいんだ」
「前衛に?」
「うん。後衛はゴブリンメイジがいるし、エルフもいる。けれど前衛ができるのはゴブリンたちだけだ。正直心許ないからね。盾役となるゴブリンを生み出したいんだ」
「ですが旦那様、新種のゴブリンはあまり期待されない方が……」
「分かっているよ。なにせ今までの経験から学んできたからね」
レオナールは今までに三十回魔物の卵を孵化させている。その内、ゴブリンメイジが三体で、ゴブリンが二十七体であった。上位種が三体も出ているのに、すべてゴブリンメイジなのだ。
これには理由がある。魔物の卵はいままで一度も孵化していない魔物が当たりにくくなっているからであった。つまり上位種を引いたとしても、再びゴブリンメイジを引いてしまう可能性は十二分にあるのだ。
「だから僕は少し工夫をしようと思うんだ」
「工夫ですか?」
「うん。お金は必要になるけど、成功すれば今後の戦力をさらに強化できる方法を考えたんだ」
「どうされるのですか?」
「魔物の卵の力を一つに集めるんだ」
レオナールは大金貨を使い、十個の魔物の卵を生み出す。外見からはどれにどの魔物が入っているかは判別できない。
「商人のジョブスキルで魔物の卵を鑑定してみると、魔物を生み出す力が込められていることが分かった。そしてこの魔物を生み出す力は、ゴブリンの卵よりゴブリンメイジの卵の方が大きいことが分かったんだ」
「つまり魔物を生み出す力に応じて、生まれてくる魔物が決められているということですね」
「その通り。そして魔物を生み出す力の源は金だ。即ち、魔物の卵から力を奪い取り、別の卵に移植することで、強大な力を持った卵が生まれるはずだ。これを何度も繰り返すことで、金貨一枚の力しかない魔物の卵十個が、大金貨一枚の力を込めた卵一個に変わるはずさ。もしこの実験が成功すれば安定して強力な魔物を生み出すことが可能になる」
レオナールは成功する確信を抱きながら、魔物の卵に力を集めていく。魔物を生み出す力を失った卵は消失し、莫大な力が込められた卵が一つ完成する。
「では孵化させるよ」
レオナールはダンジョンマスターの力を行使し、魔物の卵を孵化させる。するとゴブリンよりも遥かに大きい。人間の三周りほど大きな巨人が生まれた。
「ゴブリンチャンピオンです、旦那様!」
「僕の実験は成功だ!」
ゴブリンチャンピオン。接近戦に特化し、戦士職の上級冒険者に匹敵する力を有すると云われている。
「これからはゴブリンチャンピオンとゴブリンメイジ。この二種が主戦力だ。ひとまずはこれで凌げると思う。ただ……」
「旦那様は何か心配事でも?」
「いや。もしこのダンジョンにいるのが、ゴブリンチャンピオンとゴブリンメイジだけだと知られれば、対策も容易に打たれると思ったんだ。下級冒険者ならそこまで気にしなくていいし、上級冒険者相手でも対策を打たれるのはまだまだ先だと思う。けど今の内から手は考えておかないと……」
「それでしたら他のダンジョンマスターから魔物の卵を貰ってはいかがですか?」
「他のダンジョンマスターから貰う?」
「そうです。丁度、今晩、ダンジョンマスター同士の会合があります。そこで他のダンジョンマスターから協力を得るのです」
「他のダンジョンマスターか……よし、会ってみよう」
レオナールはまだ見ぬダンジョンマスターたちに思いを馳せる。どんな相手でもうまく立ち回ってやると、彼は商人としての自信を表情に浮かべた。