第二章 ~『初心者冒険とゴブリンダンジョン』~
レオナールはゴブリンダンジョンの前でパン屋を営業していた。街で宣伝した効果が大きかったのか、パン目的に訪れる初心者冒険者が何人もいた。
「今日はここで営業しているんだな」
槍を背負う男がレオナールの前に姿を現す。何度もゴブリンダンジョンに挑戦している初心者冒険者の一人であった。
「昨日は営業できなくてごめんなさい」
「いいってことよ。街でパンを売っていたんだろ。成果はどうだった?」
「たくさん売れたよ。中にはリピーターになってくれて、僕のパンを買うついでに、ダンジョンに潜っていく冒険者もいるくらいさ」
「はははっ、俺もその一人さ。このゴブリンダンジョンは最高だよ。ゴブリンメイジのような上位種が出ることもあるが、なぜか命まで取ろうとしないし、それにダンジョンの中に装備が落ちていることがあってな。この槍も昨日拾ったんだぜ」
「それはラッキーだったね」
男が槍を拾えたのは偶然ではなく、初心者冒険者のリピーターを増やすための戦略の一つであった。
(報酬の武器は始末した上級冒険者や奴隷商人から奪い取ったモノ。それをそのまま横流しすれば、僕らの懐は痛まない。売ることができず、邪魔になる武器をダンジョンからなくせるし、一石二鳥だね)
武器はアイテムと違い、使用者の好みにカスタマイズされていることが多い。そんな武器を何度も街の武器屋に売ってしまってはレオナールとダンジョンの関係性を結びつけて考える者が現れる危険性がある。そのため武器は捨てるしか使い道がなかったが、初心者冒険者の報酬という別の形で役割を得たのである。
「このダンジョン、俺の冒険者仲間にも宣伝しておいた。これからもっと賑わうぞ」
「それは嬉しいね」
「でもそうなるとこのダンジョンも踏破されてしまうかもな。そうなると寂しいけど」
「寂しいの?」
「人を殺さないダンジョンなんて他にはないし……それにさ、ゴブリンたちと戦い、負けても食われたりしないからさ。なんだか稽古を付けてもらっている気がして、魔物に情が移っちゃったんだよな。やっぱり変かな?」
「変なんかじゃないさ。それにお兄さんがそういう優しい人だからゴブリンたちも殺さないでいてくれるんだよ」
「そうか、やっぱり俺の気持ちは間違ってないよな?」
「うん。間違っていないって僕が保証するよ」
「よし! ならまたチャレンジしてくる。応援しておいてくれ!」
「頑張って」
槍を持った男はダンジョンの中へと駆けていく。レオナールは映像を飛ばすことができる水晶で、ダンジョン内にいるユキリスを呼び出す。
「ユキリス。今から槍を持った冒険者が行くけど、殺さないでいてあげてね」
「分かりました。戦力はどうしましょうか?」
「ゴブリンを前衛に、ゴブリンメイジを後衛に配備して。ゴブリンでも身体能力強化の魔法を使えば、あの槍を持ったお兄さんくらいなら倒せるだろうから」
「了解です。私は出る必要ありませんよね?」
「うん。エルフがいることはあんまり知られない方が良い。ユキリスが戦うのは始末すると決めた冒険者だけで十分さ」
「ではそのように進めさせていただきます」
レオナールはユキリスとの通話を切り、次の客が訪れるのを待つ。すると人相の悪い男が近づいてきた。





