第一章 ~『顔を焼かれた男』~
「な、なんなんだ、お前は?」
「僕はこのダンジョンのマスターのレオだ。よろしくね」
「レオ……どこかで聞いた名前だが、そんなこと、今はどうでもいい。ダンジョンマスターだと? ここのダンジョンは魔人のエルフと魔物のゴブリンが巣食う場所だ。つまりダンジョンマスターはエルフのはずなんだ」
「譲り受けたのさ。だから今は僕がダンジョンマスターであり、君の敵でもある。え~っと、あいつの名前は?」
レオナールは冒険者の髪を強く引っ張る。すると苦痛に耐えかねて「……リック」と小さく漏らし、そのまま息を引き取った。硬貨になって地面に散らばる音が、リックの恐怖心を増長させる。
「リックさんか。良い名前だね」
「……俺の部下に何をした?」
「尋問さ。このダンジョンはどれだけの知名度なのか、また他に奴隷商人の仲間はいるのか、あんたたちが全員生きて帰ってこないとどんな反応が起こりうるか。全部、聞き出したよ。そして君以外は全員殺した」
「…………ッ」
「いや~大変だったよ。君たちをダンジョン内に誘い込み、一人ずつ背後から連れ去っていく。気づかれないように拉致するのは大変だったよ。もし君たちの中の誰か一人にでも逃げられると面倒なことになっていたからね」
「め、面倒なこと……」
「例えばそうだな、聞き出した情報によるとこのダンジョンはゴブリンの住む話だけが広まっていて、エルフが住んでいると知っているのは奴隷商人の中でもごく少数らしいね。もし君たちが逃げ帰り、エルフにやられたと情報を広めれば、奴隷商人が押し寄せてくる。その中には上級冒険者も含まれているかもしれない。そうなると面倒だろ」
「ダンジョン内が暗くしたのも攫われている事実の発覚を遅らせて、俺たちを逃さないようにするためか……」
「他にも色々と工夫をしたんだ。矢の雨を降らして、意識をそちらに集中させたり、ゴブリンを囮にして細道に誘い込み、背後にいる仲間たちの様子を分かりにくくしたりね」
「お、俺は、どうなるんだ……」
リックには人の能力を判定するジョブスキルがあった。どれほど努力しても超えられない壁。奇跡が起きてもレオナールとの差は引っくり返せない状況だと認識していた。気づくと彼は恐怖心から歯をガタガタと震わせていた。
「リック。君は僕と背格好が似て、小柄だね」
「だ、だから、どうした」
「君を見て、いいことを思いついたんだ」
レオナールは手の平から炎を生み出し、ユラユラと輝かせる。暗いダンジョンに灯った明かりは、リックの恐怖心を増長させた。
「その炎で何を……」
「君たちを尋問しているときに聞いたんだが、売れ残ったエルフたちに拷問まがいのことをしていたそうだね」
リックは言葉を失う。捕まえたエルフの中には戦闘で負傷したものや年老いたものもいた。売れ残った商品を、彼なりの方法で処分していたのだ。
「君の部下から聞いた話だと、エルフを的にして矢の練習をしたり、顔を焼いて苦しむ顔を楽しんだりしたそうだね」
「た、確かに、俺たちは売れなかったエルフで遊んだ。けど、あれは部下のストレス発散のために必要なことだったんだ。それに相手は魔人だ。人間じゃない」
「そうか。君の意見は分かったよ」
レオナールは同情の余地なしと判断し、リックの顔を焼く。彼の顔はかつてのレオナールのように焼け爛れてしまった。
「ああああっつつつぃ!!! こ、殺してくれ! 殺してくれ!」
「ここでは殺さないよ。僕は君の死体を有効活用するつもりだからね。殺すならダンジョンの外だ」
ダンジョンで命を落とした者は人間であれ、魔物であれ、魔人であれ、すべからく硬貨へと変わる。死体を手に入れるためにはダンジョンの外で始末する必要があった。
「お、俺の死体を利用するだとっ!」
「そうさ。僕はロト王国で死んだ人間として扱われているが、もし生存を疑われると厄介だからね。物的証拠を作っておきたいのさ」
「ぶ、物的証拠!?」
「そう。君の死体だよ。顔を焼いて、僕の服を着せて、森の中に放置する。そうすれば動物たちが死体を食べてくれるだろ。最後に遺書でもつけてあげれば完璧だ」
リックは顔を焼かれながら、レオナールを睨みつける。その瞳には怨嗟の感情が込められていた。