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第一章 ~『油断とスキル強奪』~


「質問に答えろ。俺たちの仲間をどうした?」

「三人とも僕が殺した」


 レオナールが一歩前へ出る。皆の視線が彼に集まった。


「おい、こいつ、あの雑魚商人だぜ」

「お、本当だよ。あのみじめな商人がこんなところで何やってやがる」

「あいつらが商人なんかにやられるわけがねぇからな。後ろのエルフ共にやられたってことか」


 ボスと思わしき髭面の男の背後に並ぶ部下たちが嘲笑の笑みを浮かべる。ただ一人だけ髭面の男だけは神妙な表情を崩そうとしなかった。


「エルフ共。動くんじゃねぇぞ」


 配下の男がエルフの少女の髪を掴んで前へ出る。破られてボロボロになった服と、頬に伝った涙の跡から、彼女に何が起きたのかは明白だった。


「俺たちの手元には玩具のエルフ奴隷がいる。こいつを殺されたくなければ、おとなしく投降するんだ」

「…………」

「ほら、てめぇからも命乞いをしろ! ほら!」


 配下の男が奴隷のエルフの髪を引っ張り上げ、頬に平手を打つ。打たれるたびに苦痛の声が漏れ出ていた。


「だ、誰か、私を、私を、殺してください。も、もう、生きていだくないっ」


 死を望む奴隷エルフの声は、レオナールの心を打った。彼は一歩、また一歩、近づいていく。


「おいおい、雑魚商人。話を聞いていなかったのか。近寄るとこいつを殺すぞ」

「君たちに良心の呵責はないのかい?」

「あるさ。ただ魔人は人間じゃない。悪を滅ぼす俺たちは善人さ」

「そうか……」


 レオナールは魔王のジョブクラスを意識して発動させる。肉体の強化に力を注ぎこむと、無意識に使用していた時とは比べ物にならない力が、彼の中に満ち満ちていた。


「おい、てめぇら! 気をつけろ! こいつただの商人じゃねぇぞ!」


 髭面の男は一人レオナールに対する脅威を感じ取った。しかし彼の忠告むなしく、部下たちは油断を解いていない。奴隷エルフの髪をひっぱりあげる男も同様であった。


 レオナールは男に近づくと、彼の頭をガッシリと掴んだ。神速の動きは目で追うことすらできずに、男は苦痛でエルフを手から離す。


「いでぇぇっ、いでええぇっ」

「エルフたちはもっと苦しんだよ」

「そ、それがどうした、俺たちは人間様だぞ!」

「そうか。それが君の答えなんだね」


 レオナールはマネードレインを発動し、男の肉体に宿る金を吸い上げる。ミイラのような姿に変わった後、金を失い、肉体は消滅した。


「な、なんだこいつ、いったい何をしやがった!」

「次は誰かな? 誰から死にたいっ」

「商人ごときが調子に乗るな」


 奴隷商人の男たちが一斉にレオナールに襲い掛かる。剣で槍で拳で、何度も攻撃を繰り返すが、彼の身体には傷一つすら付いていなかった。


「な、なんだこいつの身体。鋼でできているのかっ」

「レベルの差は絶望的だね。なら全員死のうか」


 レオナールは姿を消す。次の瞬間、髭面の男だけを残し、他の男たちはすべて息絶えて硬貨となって散らばった。


「ば、化け物が!」


 最後に残った髭面の男が剣を抜く。白銀に輝く剣とは裏腹に、男の顔は恐怖で曇っていた。


「お、俺は聖騎士団の騎士だった男だ。商人ごときに敗れるものか」


 髭面の男はクラススキルを発動させる。それは威圧というスキルで、他者に恐怖を与え、身体の自由を奪うというものだった。しかしその効果はレオナールに現れない。その瞬間、彼の表情に絶望が浮かんだ。


「威圧のスキルは自分より弱い者にしか通じない。つまり威圧が効かない僕は君より強い」

「ひぃ!」

「逃げても無駄だよ。君は絶望の中で死ぬんだ」


 レオナールは髭面の男の首を掴む。彼はクラススキルのマネードレインの発動をイメージする。


(マネードレインは金を奪うという力。ここに魔王のジョブスキルである強化の力を適用した時、単純に威力を上げるだけでなく、特性を強化することもできるはず。それなら……)


 レオナールが考えたのは、金を奪う力の拡大解釈。つまり金で構成されているジョブスキルそのものを奪えないかというものだ。


(肉体からジョブスキルを引っぺがすイメージで)


 レオナールは髭面の男から聖騎士の剣術と威圧のジョブスキルを奪い取る。彼は自身に新たな力が宿ったのを感じた。


「成功したか試してみようかな」


 レオナールは髭面の男から剣を奪い取り、首から手を離す。苦痛から解放された男は、ゲホゲホと咳を繰り返していた。


「生き残るチャンスをあげよう。君はもう一本剣を持っているだろ。それで僕と剣術で争うんだ。もしかすり傷一つでも付けられれば生きて返してあげよう」

「ほ、本当か? 嘘じゃないだろうな!」

「嘘を吐く必要があるかい?」

「へへっ、後悔するなよ」


 髭面の男は単純な戦闘ではレオナールに勝てないと認めていた。しかし剣術ならば負けないと自信を持っていた。男は剣を抜き、構えようとする。しかし彼は剣を持ち上げることができず、手を離してしまった。


「ど、どういうことだ、なぜ剣が持てない」

「なぜだろうね」

「お、俺は、聖騎士のジョブクラスだ。剣を扱えないはずがないんだ」

「剣術に自信があるみたいだね。もしかしてこんな剣術を使えたのかい」


 レオナールは髭面の男の前で剣を振るってみせる。舞うような華麗な動きは、男が思い描く自分の動きそのものであった。


「それは俺の剣術……」

「いままで多大な努力ご苦労様。剣術のジョブスキルは僕が活用させてもらうよ」

「き、貴様あああっ」


 レオナールは髭面の男の首を跳ねる。男はあっけなく敗れ、硬貨となって華々しく散ったのだった。



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