第一章 ~『龍の痣』~
「少し整理させてもらうと、僕の父親は魔王なんだよね。で、僕は魔王の血を引いていると」
「はい。間違いありません」
「なら先代の魔王である魔王ベルゼが僕の父親ということになるけど」
「その通りです」
「そんな馬鹿な……」
魔王ベルゼは魔人と魔物を一つにまとめあげ、支配下に置いた伝説の人物だ。魔人だけでなく、人間でも知らぬ者はいないほどの大物の名前に、現実感が追い付かなくなっていた。
「でもそうだとしたら矛盾があるよ」
「矛盾ですか?」
「そう。魔王のジョブクラスは子供に遺伝すると聞いたことがある。僕のジョブクラスは商人だ。魔王ではない」
「いいえ、旦那様は魔王のジョブクラスを引き継いでいますよ」
「で、でもジョブクラスは一人一つのはずだ。僕は商人なのだから魔王のジョブクラスは保持できない」
「それは旦那様が人間と魔人のハーフだからですよ。あなたは商人と魔王、二つのジョブクラスを保有しているのです」
「二つのクラスを……」
「商人とは思えない力を発揮したりしたことはありませんか? また商人のジョブスキルが強化されていたりしませんか?」
「それは……」
レオナールには心当たりがあった。とても最弱の商人とは思えない力の正体が判明した気がしていた。
「魔王の特性は様々ですが、特筆すべきは強化の力にあります」
「強化の力? なんだかたいしたことなさそうに聞こえるけど」
「とんでもない! スキルも魔法も身体能力も、あなたが望むのならありとあらゆるモノを強化できるのです。上昇幅は魔王のジョブクラスレベルに応じて異なりますが、旦那様のお父様は下級魔法で山を吹き飛ばすほどの威力を生み出していました」
「山か……魔王ベルゼも案外たいしたことなかったんだね」
「え?」
「いいや。なんでもない。でも僕の強さが分かってよかったよ。これで強さの秘密が理解できた」
レオナールの身体能力に魔法の威力、そしてジョブスキルであるマネードレインの力。人を超えた力を発揮していたのも、魔王の力により強化されていたのだとしたら納得できた。
(商人の力で金を増やし、その金で魔王のジョブクラスをレベルアップさせる。まるでチートじゃないか)
いまならどんな敵でも倒せる自信が満ち溢れていた。と同時に、もう一つの疑問が浮かんだ。
「僕の母親はどんな人だったんだ?」
「それは……美しく聡明なお方でした。人間でありながら誰からも愛されていました」
「素敵な人だったんだね。商人だったの?」
「いいえ。ジョブクラスは聖女だったはずです」
「聖女か……え? 聖女? 王族にしか発現しないジョブクラスのはずだけど」
「ええ。旦那様のお母様は王族の方でしたから」
「そんな馬鹿な話が……」
「旦那様の身体のどこかに龍の痣がありませんか? それが王族の血を引く証拠です」
「あるね。けど僕は――
「旦那様! 話はここまでです。誰か近づいてきます」
ユキリスは話を中断し、人の気配がする方向に視線を送る。複数の人影が通路から姿を現す。
「おいおい、どうなってやがる! 俺たちの仲間をどこにやった!」
屈強そうな髭面の男が近寄ってくる。背後には配下の男が百人近くいる。レオナールは理解した自分の力を試せそうだと、恐悦の笑みを浮かべた。