第一章 ~『商人と圧倒的な実力』~
悲鳴のする場所へ辿りついたレオナールは醜悪な光景を目にする。ゴブリンの子供を二人の男がいたぶって遊んでいたのだ。
両足と両腕を折られ、ボールのように蹴られるゴブリンの子供を見て、レオナールは怒りの表情を浮かべる。
「冒険者とはなんて醜悪な生き物なんだ……僕はこんな酷いことをしていたのか……」
「なんだ、てめぇは!?」
二人の男がレオナールの存在に気づいて剣を抜く。二人はゴブリンの傍に立つ彼を警戒していた。
「もしかして魔人か、いや、それはねぇか。このダンジョンの魔人はエルフ族だ。ならてめぇは……」
「あ! こいつの顔、見たことあるぜ。ジル様と同じパーティにいた商人だ」
「ははは、最弱ジョブクラスの商人かよ」
二人が商人を馬鹿にするのには理由がある。この世界の人は金を取り込むことで、自分のジョブクラスをレベルアップさせることができる。このジョブクラスがレベルアップした時に上昇する能力値は、各人のジョブクラスにより異なるのだ。
例えば戦士ならジョブクラスのレベルが上がると身体能力が、魔法使いなら魔法の威力が大幅に上昇する。つまりジョブクラスの特性をさらに引き上げることができるのだ。
なら商人はどうかというと、商売をするために必要な能力が向上する。例えば計算能力や鑑定能力などが上達するのである。これらの能力は商業活動をする上では欠かせない力だが、冒険者としては役に立ちづらい力であり、最弱の職業とまで云われていた。
「俺たち二人は剣士のジョブクラスだ。痛い目を見たくなければ降参し――」
男が言葉を言い終える前に、レオナールは動き出していた。男の顔を鷲掴みにすると、指を頭蓋骨に埋め始めた。
「な、なんだ、こ、こいつの腕力は!」
「僕は商人だけど特別でね。なぜか戦士以上の身体能力を保有しているんだよ」
「なっ!」
「さよなら。僕の糧になってよね」
レオナールが男の頭を握りつぶす。頭蓋骨が砕かれる音を響かせながら、男は絶命し、硬貨となって地面に散らばった。
ダンジョンで死亡した者はジョブクラスのレベルアップのために吸い込んできた硬貨を吐き出す。それは人間であっても例外ではない。レオナールは硬貨を拾い、身体の中へと取り込んでいく。
「白金貨二枚か。僕の報酬倍化の力を抜きにしても随分と課金していたんだね。やはり魔物より人間の方が倒した時の報酬は大きいな」
「あ、あんた、本気か! 人間を殺したんだぞ!」
「そうだね。でも僕は人間に絶望してしまったんだ。だから君みたいな悪意ある冒険者を殺すことに良心の呵責は感じないよ」
レオナールは残った一人の男の顔を同じように鷲掴みにする。ミシミシと骨が悲鳴をあげ、男の口から苦悶の声が漏れた。
「あ、あんたは、魔物の味方ってわけだな」
「それは……まだ自分の中でも結論は出ていない。ただ君の敵であることだけは確かだよ」
「なら最後に教えてやる。このダンジョンの魔人、エルフたちはもう終わりだ。俺たちの仲間が既に捕獲を開始している。仲間を守れなかった後悔を存分に――」
男が言葉を最後まで伝えきる前に、レオナールは男の頭を潰していた。絶命し、ばら撒かれた硬貨を黙々と拾う。
「エルフか……助けるべきか、助けざるべきか」
「ギギッ、グギギギ」
「もしかしてエルフは君の主なのかい?」
「ギギッ」
ゴブリンは首を縦に振る。魔物は魔人に仕えている。ゴブリンが恩人なら、その主人であるエルフも恩人だと、レオナールはエルフを助けに行くことに決めた。