プロローグ ~『成り上がった商人』~
商人が復讐を果たして成り上がっていくお話です。
最初は主人公が酷い目にあいますが、後ほど仕返しをしますので付いてきて頂けたらと思います
「レオナール国王陛下万歳! 王国に栄光あれ!」
圧倒的な力を有する国王レオナール。周辺諸国を震え上がらせるその偉大な王の名を、王国騎士団は尊敬の念を込めて称える。
「諸君、僕がいる限り王国は不滅だ!」
レオナールの一言で民衆が歓声をあげる。彼らは自らの王に対して絶大な信頼を持っていた。それは厄災と評される巨大なドラゴンを前にしても変わらない。
黒い鱗のドラゴンは口から吹き出す炎だけで街を一つ吹き飛ばす。そのドラゴンが羽ばたけば、一個師団が壊滅する。そういう敵を前にしてもレオナールはいつもと変わらない平穏な表情を浮かべていた。
「一撃で眠らせてあげよう」
レオナールは雷の最上位魔法を唱える。するとドラゴンの真上に黒い雲が現われ、雷の雨を降らした。雷はドラゴンの鋼の肉体を突き破り、体内から感電させる。ドラゴンは甲高い悲鳴を上げると動きを止めた。民衆は我らが王の勝利だと、まるで神を崇めるような声をあげる。
「レオナール国王陛下万歳! 王国に栄光あれ!」
民衆の歓声が王国中で響き渡る。その声にレオナールは笑顔で答えると、傍にいた側近に自室へと戻ると告げて、転移魔法で移動する。
レオナールの自室。それは王城にある絢爛に飾り立てた部屋ではない。彼がマスターを務めるダンジョンの最下層に位置する質素な部屋だった。
「旦那様、戻られたのですね」
レオナールの配下が頭を下げて主人の帰りを出迎える。長い耳と整った容姿を持つエルフ族の女性だった。
「やはり地上よりもダンジョンの方が落ち着くね。ここで暮らした時間の方が長いからかな」
「色々ありましたものね」
「本当にたくさんのことを経験した。パーティから追放され、ダンジョンマスターとなり、復讐を果たした。それから僕は王になった。ここまで成り上がれたのも、すべてエルフ族のおかげだよ」
「そんな。旦那様の力があってこそです……」
レオナールはこのエルフの女性と話す時間が何よりも幸せだった。絶大な信頼と盲目的な愛情。向けられる好意は彼が何よりも求めたモノだった。
「旦那様。そういえば部屋を整理していて、気になるモノを見つけたのです」
「気になるモノ?」
「こちらです」
エルフの女性は一冊の本をレオナールに差し出す。その本に彼は見覚えがあった。
「これは僕の思い出を記録した半生記だね。何があったかを忘れないように記しておいたんだ」
「どんなことが書かれているのか、私、気になります」
「なら一緒に読んでみるかい?」
「是非お願いします!」
レオナールが半生記の最初のページを開くと、エルフの女性は彼の隣に座る。穏やかな雰囲気が二人の間に流れた。
「僕の最初の物語は復讐から始まるんだ」
レオナールは記された物語を語り始める。エルフの女性は猫が甘えるようにベッタリと彼に寄り添い、物語に耳を傾けた。
ここまでが未来の話です。
次の話から本編の復讐譚が始まります