表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【フム】  作者: ガイア
8/30

フムの居場所

自分でも予想外の方向に小説が進んでいくので毎回書くのが楽しみです。


「フムが盗まれた!?」


僕から盗まれたフムが今度は白衣のハゲのおっさんの身内に盗まれたと聞かされ、僕は驚愕した。


「何やってんだよ!!僕からフムを盗んだくせに!!ふざけるんじゃない!早くその兄貴を連れ戻してフムを返してくれ!!」


「盗んだ?」

青いポニーテールの女が、眉をひそめた。


怒りで沸騰した頭でおっさんの胸ぐらを掴んで叫ぶが、おっさんは、フラフラと膝をつき


「....わからない」


と呆然とした顔で空を見上げた。


「え?」


「わからない...シトが、あいつがどこへ行ったのか、手がかり一つもない」


「嘘だろ.....」


そもそもシトって奴がどんな奴かもわからないし、知らない奴に家族のように大切なフムをたらい回しに奪われ、しかももう居場所がわからないなんて、僕は目の前が真っ暗になった。


「フムの居場所もわからない...もうフムに会えないなんて...」


僕もがくりと膝をつき、全てを諦め──。


「...さっき、拾ったこの端末から、電話が、かかってきました。フム...と言う女の子から」


ファゾラが、僕が発明した通信機械を持って僕の後ろにたっていた。


「ファ....」

青い髪のポニーテールの女が何か言おうとして口をつぐんだ。

だが僕はそんなことよりファゾラの持って来た事実の方が大事だった。


嘘だろ.....フム!!


「ファゾラ!それ貸してくれ!!」


僕は掴みかかるようにファゾラから通信機器をふんだくって耳に当てた。


「フム!!フムなのか!?」


『マスター...マスター!マスター!!....よかった...また声が聞けた..』


フムの声だ。僕は感動して涙が出そうだった。無事だったんだ...フム。


「そんな馬鹿な...!?あり得ない..私にも彼女の声を聞かせてくれ」


おっさんが心底驚愕した様子でガタガタと震えだした。周りの男達もざわざわとし出した。

よく意味がわからなかったが、あまりに様子がおかしかったので、とりあえずみんなに聞こえるようにできるボタンを押し、何年も話してないような、そんな懐かしさを感じるフムの声を聞いた。


『マスター、フムです。聞こえますか』


「聞こえる....聞こえるよ!!フム!無事だったんだな!!フム!!」


『........マスターこそ、ご無事ですか?』


「僕は全然大丈夫だよ!それより、今どこにいるんだ?誘拐した奴から逃げて来たのか!?フムが誘拐されたって聞いたんだ!どこにいるかわからないって....だから、本当に心配したんだぞ!!」


安堵の涙を流しながら、フムを質問攻めにするが、フムは、酷く落ち着いていた。


まるで自身の運命を受け入れ静かにその時を待っているかのように。


『......そうですかどこにいるか、わからないと。マスターが無事なら、何よりです』


優しい口調のフムに、僕も安心して自然と顔がほころぶ。


『フムは大丈夫。だからマスター、もうフムのことはもう、忘れてください』


....聞き間違い、だよな?


「........何を、言ってるんだよ」


『フムは、もうマスターに会えません。じきにフムは消えます。フムは....フムは、マスターに会えて、幸せでした。マスターがマスターで、幸せでした』


「どういうことだよ!!フム!!!」


『ありがとう。マスター』


ぷつり、と切れた。

通信が切れ、僕の心の糸も切れる音がした。


「な、なな、なんだよこれ...なんだよこれ....」


呆然と空を見上げると、僕の横を凄い勢いで何かが通り過ぎ、おっさんに襲いかかった。


「ファゾラ....」


ファゾラは、怒りで瞳孔を開き恐ろしい顔をし小型のナイフをおっさんに振り上げた。


「許さない!!!!お前だけは絶対に許さない!!!!!人でなし!!!」


間一髪のところでおっさんは尻餅をついて逃れ、血走った目をし、再びナイフを振り上げたファゾラは、白衣の男達に取り押さえられた。


「許さない....何でお兄様にフムちゃんが盗まれた事をお前達は気がつかなかったんだ!!フムちゃんは何も悪くないのに...アーサーだって....何でそんな酷いことができるんだ!!死ねばいい!!死ねばいい!!お前達なんて!!」


ファゾラとは思えない程攻撃的だった。


「ファゾラ...どうしたんだ」


ポニーテールの女が驚愕し、恐怖の顔色でファゾラに近づく。


「....お姉様はこいつらがしていた事を知っていたの?だったらあなたも絶対に許さない」


キッと睨み付けポニーテールの女を見据えるファゾラ。


「....待てよ、ファゾラ」


僕は、今の一言で、いやさっきからのファゾラの言動でどうしても一つ疑問が頭の中に浮かんで離れなかった。


「何で....そんなに、フムがどうして僕にもう会えないのか知っているような口ぶりなんだよ」


怒りで我を忘れているファゾラだったが、僕に言われてハッと目を見開いた。


「おい、教えてくれファゾラ、フムに何があったか、わかってるのか?」


僕は、取り押さえられたファゾラの近くによろよろ近寄り、彼女の顔を見て、もう一度聞いた。


「何か、知っているのか?」


ファゾラは、抵抗を諦めたようにだらんと力を抜いて、白衣の男達もそれがわかると彼女から手を引いていく。


「フムちゃんから電話がかかってきて、私に全てを話してくれたの」


ファゾラは、首を傾げ話しながら涙を流していた。


「その男」


ファゾラは、俯いておっさんを指差した。


「その男...そいつは私の父親....いや、もう父親だと思いたくない。奴はフムちゃんを実験するのにフムちゃんの「記憶」が不要だった、だからフムちゃんからアーサーと過ごした日々の記憶を抜き取った」


さらに言葉に怒りを込め続ける。


「そして抜け殻になったフムちゃんを知らないうちにお兄様に盗まれていたらしい。データだけになったフムちゃんは、じきにデータの海の中で溶けて無くなるから....マスターと一緒なら、最後に....話をさせてって」


わぁあ!!と泣き崩れるファゾラに、僕は言葉が出なかった。

本当に、何も言葉が出なかった。

頭が真っ白になり、地面に手をついて脱力した。


「私はそいつを殺さないと気が済まない。お前はフムちゃんを殺したも同然だ」


「ふ、ファゾラ...お前...」

ナイフを持って殺気を纏い一歩ずつ近づくファゾラは、もう誰も止められなかった。


「私は、お前に何をされても怒りも憎しみも感じなかった。でも大切な人達を、私の初めてできた友達を苦しませたお前は...絶対に許さない」


低く押し殺した声でつぶやくファゾラ。


「やめろ...やめろ」


虎に見つかったウサギのように震えるおっさんは、なんとも惨めだった。

当然の報いだと、彼女は足を止めない。


「そうだよ。やめなよファゾラ」


だがそれを、ポニーテールの女が止めた。


「何お姉様」


「話を聞いていても見ていてもこんな奴殺す価値もない。その、フムちゃんはデータの海の中で「じきに」溶けてなくなるって電話してきたんだよね?」


ポニーテールの女は、ファゾラを冷静にさせていくように話を続ける。


「....そうだよフムちゃん、溶けてなくなっちゃうって...」


「じゃあ大丈夫かもしれない。ボクがなんとかしよう。おいハゲ、ボクをその、フムちゃんの記憶の入っているデータの場所まで案内しろ」


ポニーテールの女は、おっさんを見下ろし親指で扉の入り口をクイッと示す。


「早くしろ。ボクは悪と嘘つきが死ぬ程嫌いなんだ。何とかできるかもしれない」


「わ、わかった」


ポニーテールの女が、おっさんを睨み付け、おっさんが急いで立ち上がった。


「行こう、アーサー」


ファゾラが僕に手を差し伸べた。


握ってわかった。

握ったことのある豆だらけの手だった。


「ファゾラ....お前まさか...」


「話すよ、全部。とりあえずお姉様についていこう。今は頼れるのがお姉様しかいない状態なんだから」


地下室は、大きな長方形のテーブルがあった。


足元にあったものを何か蹴ってしまった。

殺伐とした実験室。1秒でもいたくないが、あまり散らかっていないのに...蹴ったものを見た。

黒いゴムの拘束具だった──。

僕は、急に具合が悪くなりうずくまった。


フムがこのテーブルに縛り付けられているのを想像してしまったからだ。


「大丈夫?アーサー!?」


前にいたファゾラは振り向いて僕に駆け寄る。


「フムちゃんが盗まれた時の事を思い出してしまったのね...後はお姉様に任せてやっぱり私達は地下室から出ましょう」


あれを見ていないのだろう。

ファゾラは、僕に肩をかしてくれた。

僕は、リビング(らしい)場所で黒いソファに座って下を向いて休んでいた。


ファゾラは、お茶を淹れてくれたらしく僕にお茶のコップを渡し、隣に座って背中をさすってくれた。


「大丈夫、大丈夫よ。落ち着いたら、私の事を話しましょうか」

優しく微笑む彼女を見て、僕はフムを思い出し、また苦しくなった。


「いや、今話してくれ」

だが、僕はやはり知りたい。

フムがファゾラに話した事や、ファゾラが知っている事...そして──。


「分かった。じゃあまず、恐らくもう気づいていると思うけれど、私はファゾラじゃなくて、ランコなの」





ポニーテールの女は椅子に座り、巨大なモニターと、沢山のモニター機械の目の前にカタカタとキーボードを動かしていた。


その後ろでおっさんや、白衣の男達が様子を見守る。


「ど、どうなんだ?レイミー」


「生きてるよ。フムちゃんはまだ」


「な、なんだと!?」


「はぁ、まぁほとんど消えかけてたけどね。頭が残ってたからボクなら消えかけた彼女を再生する事が可能だ」


「そ、そうか、すぐやってくれ」


「ちなみにお前が期待してる体の方は戻ってくるかわからないぞ。ただ、もしかしたら彼女の脳でもあるこのデータを再生させる事ができれば、体の場所の手がかりがわかるかもしれないな」


「ほ、本当に大丈夫なのか?」


カタカタと驚異のスピードでキーボードを叩くポニーテールの女性、レイミーはニヤリと笑った。


「ボクは発明家の天才イアンビリー家の長女レイミーだ。データベースに関してはこの世界でボクに勝てる奴はお兄様くらいしかいないさ」


そう言ってENTERを押すとモニターに大きくフムの前身が映し出される。


「お、おぉ、すごい、すごいぞレイミー!」


「おい、勘違いするなよ。もしフムちゃんが自身の体の場所を知っていたとしても彼女をもうお前には渡さないけどな。お前はボクに「研究の為にロボットを研究機関から借りてきた」と言った。だが話は違った。人から無理やり盗んできていたんだな....こんな奴と血が繋がっていると思うと吐き気がする」


言葉で憎しみと不快を表したレイミーに、おっさんは、何も言わなかった。



「.....ここは、フムは、消えたんじゃ、なかったの?」


画面の中のフムはパチリと目を覚ました。


おっさんは、目が覚めたフムにバツが悪そうに目を伏せた。


「消えてないさ、ボクが君を再生させた」


フムは、レイミーを一瞥し


「マスターは、どこ?」


すぐに右へ左へ視線を泳がせた。


「あぁ、君のマスターならファゾラと向こうの部屋で休んでるよ」


「ファゾラ?.....何そいつ、誰。マスターの何」


明らかに先ほどの無感情な態度から感情を表すフムに、レイミーはクスリと笑った。


「大丈夫だよ。君のマスターもファゾラに心を許しているみたいだった。ところで、今はそんな話をしている暇はない。君の体の方がボクのお兄様に盗まれちゃったんだ。場所とか、わからないかな?」


「フムの体.....」


フムは、目を閉じ全く動かなくなった。


「お、おい、大丈夫なのか?」


「うるさいぞハゲ、ちょっと黙ってろ」


「わかった」


フムは、ポツリと呟いた。


「フムの体....フードの男と一緒にマスターとフムの家にいる」


「え?」


思いがけない場所にいた。


今回も読んでくださってありがとうございます。皆さん読みやすいように読みやすいように行間をあけたり工夫するようにしていってます。

前半のお話も行間詰めすぎなところ多いので仕事が休みの日に、直す所存です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ