ファゾラ
三話の続きの物語に戻ります。
手が勝手に動くようにガリガリかけました。
「ん.....」
「目が覚めた!アーサー!」
僕が目を覚ますと、知らない女の子が涙を浮かべながら僕を見下ろしていた。
「....誰?君は...そうだ....僕は」
僕はぼやけた頭がはっきりしていくにつれて、今まで起きていた出来事を少しずつ思い出していった。
「あ...あぁあ...フム!!!フム!!!」
フムが...変な奴らに奪われたんだ...飛び起き立ち上がると体から大きな白衣がひらりと落ちた。
部屋は酷く荒れていて玄関は大きなロボットが通ったからか、大きな穴が開いていた。
「フム!!!フムが奪われた...どうしよう...取り返さなくちゃ!!相手はどこにいるんだ!?僕は...僕はどうしたら」
頭の中がぐちゃぐちゃで混乱した。
熱い涙が溢れてきて、顔を覆って膝から崩れ落ちた。
「僕のせいだ...僕はフムを助けられなかった」
世界が真っ暗になった。
「大丈夫だよ、アーサー」
僕の後ろから優しい声がした。
振り向くとさっきの女の子が、僕の肩に手を添え涙を瞳にため、目を真っ赤にしながら、でも決意に満ちた目で僕を見つめた。
「私が、貴方達を絶対助けるから」
目を見開いて女の子を見た。
「.........さっきから思ってたけど..君は..誰なんだ?僕達のことを知りもしないくせに助けるとか...言わないでくれよ!!」
「へ?」
女の子は心底驚いたように自分の髪や顔や体をあたふたと触り始めた。
「わ、私は.....」
深い海の色のような青色の髪、波のように内巻きになった耳までのショートヘアー。
すいこまれそうな美しい紫の瞳は、宝石を隠すかのように長い前髪でなかなか見えない。
綺麗な顔をした女の子は、白い袖のところにフリルのついたワンピースに黒いレギンスをはいていた。
彼女は、何というか戸惑っているかのように視線を右へ左へ泳がせる。
「話すと長くなるから、後で話すわ。でもこれだけは言える。私は貴方達の味方よ」
「信用できないね。あのハゲ達の手下かもしれない。僕の様子を見てくるように言われたのかも」
「えっと....私は...私は...ランコ...」
「ランコ?...もしかして、ランコの妹?」
「そ、そう、ランコの」
「...そういえばランコ、電話でもう会えないって言ってたっけ...それと関係しているのか!?」
「そ、そうなの!お姉ちゃんは事情があって会えなくて今日帰りにフムちゃんがランコに用事があるから夜にアーサーの家に行くように言われてたみたいなんだけど、ランコが行けないから私が代わりにその用事を聞きに来たのよ!」
「そ、そうだったのか...それで倒れてる僕を見つけて...ごめんな...酷いことを言っちゃって」
「と、とりあえず今はこれで話をおさめておかないと...説明が難しいし、私が説明するとどうせ長くなるから、今は私は....」
女の子はブツブツとうつむきながら独り言を言っているようだ。
僕も彼女と話していて少しだけ心に落ち着きが出てきた。
「そうだ、君名前は?」
「わ、私!?私は...ファゾラ....ファゾラよ」
「ファゾラか...ファゾラ、僕はアーサーだ。僕は実は発明家なんだ」
「お姉ちゃんから話を聞いてるよ。優しくて素敵な人だって」
ファゾラは、切ないような、泣き笑いのような表情で僕の話を聞いていた。
「あ、あぁ?そ、そうなの?...あぁ、それでさっき突然僕の作ったロボットのフムっていうあぁ、フムっていうのは、女の子の見た目のロボットで、フムが白衣を着て、大きなロボットを引き連れた変な奴らに奪われたんだ!!」
「奪われたっていうのは、知らない間にってこと?」
「いや、僕の目の前でフムは連れていかれた。僕は気絶していたからフムがどこに連れていかれたかわからないんだ」
「.....そう。目の前で...許せない」
ファゾラは、自分の事のように怒りをあらわにして話を聞いてくれた。
「大丈夫。大丈夫よ。フムちゃんは私が絶対に助ける」
ファゾラはとても頼もしい顔をしていた。
フムの見た目はランコを訪ねてフムが家に行ったからわかるのだろう。
「フムちゃんのいる場所は私もわからない...でも、話を聞く限り大きなロボットと白衣の変な奴等なら恐らく発明家の類の人達...それなら少し心当たりがある。一緒に探しましょう」
女の子は、僕の手を引く。
僕は、彼女に手を引かれて思い出す。
あの大きな黒いロボットのことを。
「待って!!だめだ...今はいけない」
「どうして?」
「フムを連れ去った奴ら、強そうな黒くて大きなロボットを持ってた、僕達が丸腰で行ってもやられてしまうよ」
かと言って早く探しにいかないとフムが実験されてしまう。
あぁ、早く急がないと。
でも、場所がわからないまま闇雲に探して装備もなしで返り討ちにあうよりしっかり対策を立てて見つけた時に備えたほうがいいのではないだろうか。
僕はいつも発明をするように頭をフル回転させ考える。
「武器を作らないとあいつらに対抗できるような」
「でも、そんな時間...!!」
「ちょっと静かに」
僕は唇に手を当てあぐらをかいて座る。
スゥウウと息を吸い、いつものように、閃きを、発明を、僕は腕を組んで考える。
天才の頭で考える。
あの大きなロボットを、なんとか無力化できないだろうか...?
無力化....あの大きなロボットを...。
「そうだ!!」
僕は、「ある武器」を閃くと飛び上がり地下室の発明室に走った。
「何か思いついたの!?」
ファゾラが僕の背中から声を投げかける。
「あぁ!思いついた!!大丈夫だ!!」
地下室に転がり込むように入り、早速支度をする。
「何か手伝う事はない?」
いつもはフムに助手として何か取ってきてほしいものや、取って欲しいものを頼み、自分は発明に集中していた。
後ろから追いかけてきたファゾラが声をかけてくれるが、素人に手伝える事は──。
「私、ランコ..!お姉ちゃんの発明手伝ってたし、発明家になる為に勉強してるから大丈夫!」
ファゾラは、近くにあった軍手を僕に手渡す。
僕は、力強く頷いて受け取った。
「時間がない。じゃあ頼む」
二時間後────。
「信じられない...本当に天才だわ」
ファゾラは、心底驚いた様子で完成した発明品を見つめていた。
だが、心底驚いたのは僕も一緒だ。
長年発明家をしていたんじゃないか、というくらい、素早く的確に欲しい物を、欲しい時に用意してくれる手際の良さ、気遣い、そして知識。
「すごいよ...ファゾラ、本当に、助かった。フムに負けず劣らずのサポートだったよ。本当に努力してるんだな。感心したよ」
ファゾラを振り向くとファゾラは、泣き笑いのような表情を浮かべていた。
「ど、どうした?」
「あ、いや.....なんでも..なんでもないの。ありがとう....ありがとうアーサー...」
そう言って泣き出してしまった。
僕、何か変な事言っちゃっただろうか?
どぎまぎして腕で額の汗をぬぐうと、
「ハンカチ、使って」
ファゾラは、自分女の子らしい白いハンカチを僕に渡した。
「泣いてる自分が使えばいいのに...いいよ!僕は」
「いいの!...私は、大丈夫だから貴方に褒めてもらえたのが、とても嬉しいの...だから、そのお礼...だから」
彼女は、グイグイ僕にハンカチを押し付けてくる。
僕は軍手を脱ぎ捨て、綺麗なハンカチを笑顔で受け取った。
「ありがとう、今度洗って返すよ...あ、僕洗濯できないや。フムが戻ってきたら洗濯して返すよ」
「いいのに、あ、でもフムちゃんが帰ってきたらというのは賛成だから、じゃあやっぱりその時に返してもらおうかな」
ファゾラは、地下室の扉を開け、
「行こう、アーサー!」
決意を決めたように前を向く。
「あぁ、勿論だ!」
僕は完成した発明品を黒くて少し横にゆとりのある長い袋に入れそれを肩から下げ、走り出した。
「とりあえず、発明家の多く住んでいる地区があるから、その辺に行ってみましょう」
あぁ、僕の発明した小型操縦飛行ロボット(マッハ)は、速いけど太陽のソーラーパネルだから動かないや。
ファゾラは、外に出るなり止まっているバスに乗り込み、僕も乗るように促した。
が、僕は引きこもって発明ばかりしていたのでバスの乗り方がわからない。
買い物はフムに任せていたし、パーティは自作のロボットに乗り向かったからだ。
「大丈夫!私についてきて!」
ファゾラに手を引かれ僕はバスに乗りこんだ。
人は全然いない。
ファゾラと隣同士、席に座る。
バスって、本で見たことあるけどこんなにゆっくり走るんだな。
僕の小型操縦飛行ロボットならもっと速いのに...クソ、夜だからなぁ。
ファゾラはバスの窓から見える景色を見つめていた。
ファゾラはとても頼もしい。
あのおどおど落ち着きのないランコの妹とは思えないな。
落ち着いてるし、しっかりしてるな。
「何?」
「え?」
「窓を見つめていたら反射してアーサーがこっちをみてるのがわかったの」
「あ、いや...その、なんか姉妹なのにランコと似てないなって思って」
「そ、そう?そうかな?どんなところが?」
「ファゾラの方がしっかりしてる感じがする」
「そ.....そうかランコ...お姉ちゃんはしっかりしてないかな?そうか....」
「いや、でもランコに似てるからかな。ファゾラは一緒にいて安心するよ」
ファゾラは、少し顔を赤く染めてまた窓の外を向いてしまった。
「そ、そう....わ、私も...アーサーと一緒にいると..安心...あ!ここで降りなくちゃ」
ファゾラは、何か言いたげな様子だったが、僕を手招きしてバスの店員に何やら意味深な黒いカードを見せ「二人分です」と告げバスを降りた。
そして次のバスへ。
ファゾラの案内でバスを乗り継ぐと、ついたのは、大きく高級そうな家々が立ち並ぶ高級住宅街だった。
「こんなに沢山の家から探すのか...?」
「いや、あそこに一番大きな家がある。あそこから当たってみましょう」
行きましょう、と僕の手を取りザッザッザッと早歩きで一番大きな家を目指す。
「フム....どこにいるんだ?」
不安げに呟き、発明品の入っている袋の紐を握りしめた。
大きな家は相応の大きな門があった。
「裏口はないかしら」
そう言ってファゾラは門の周りや塀をウロウロし始めた。
「あったわ!」
草むらの陰からぽっかりと向こう側に通じる穴が現れる。
「これで向こう側に行けるわね!」
と嬉々としていうファゾラだが、
か、勝手に入っていいのか?...いや、そんなこと言ってられない!発明家の家が集まる中でこんなに大きな家ならあのロボットを作れる奴もいるかもしれないんだ!
僕はファゾラの後に続き塀の向こう側に進む。
こんなに大きな家なのに全くもってセキュリティはされてないのか、人一人いなかった。とても静かで、それが逆に不気味だった。
すると突然扉がバンッと開き、あの忘れもしないフムを奪ったハゲの白衣の男が家から飛び出してきた。
それに続いて大きなロボットと、サングラスの白衣の男達が次々と血相を変えた様子でぞろぞろ屋敷から飛び出してきた。
「一体何があったんだ────?」
キュイイーーンと大きなロボットが音を出したかと思うとカチリ、と僕達の方を向いた。
まずい────と思ったが遅かった。
突如一瞬でロボットの手が倍にも伸び、気づいたら僕はロボットの手に掴まれ宙に浮いていた。
発明品を袋から取り出す余裕さえ与えられなかった。
「離せ!!離せ!!こら!!」
「あぁ.....あぁあ...探していたんだ。探していたんだよお前を!!!!フムをどこへやったんだ!!!」
怒りを露わにし、顔を赤く染めあろうことかフムを連れ去ったハゲの白衣の男は僕に「フムをどこへやった」と聞いてきた。
「それはこっちのセリフだ!!!!!!」
僕もそのクソみたいな一言で脳天からマグマが出そうなくらいに怒りが身体中をぶち抜いた。
バンッと扉が開き今度は青い髪のポニーテールの女性が血相を変えて飛び出してきた。
「ハァッ....ハァッ..父さん、さっき防犯カメラ調べたら...フムちゃんを盗んだ犯人、わかったぞ..」
青い髪の白衣を着た女性は走ってきたのだろう。息を切らしていた。
膝に手を当てて苦しそうにし、恐ろしいことをこれから告げる。
「ハァッ....父さんからフムちゃんを、盗んだの、兄貴のシトだった」
僕はこの状況に頭がついていかなかった。
今回も読んで下さって本当にありがとうございました。