ランコとアーサー
前回の話の伏線回収回が....今回と次の話まで続きます。いや、わからない
ランコが今回みたいにうじうじしてたら長くなってしまうかもしれないです。
これは、私「ランコ」とアーサーが初めて出会った時のお話。
ドンッ。
私は発明家のパーティ中に誰かとぶつかり、バランスを崩し倒れこんでしまった。
「あっ!ごめんな大丈夫か?」
ぶつかった相手は、すぐに私に駆け寄って声をかけてくれた。
「だ、だだ、だいじょうぶ..で」
顔を上げると、白いパリッとしたスーツ、金髪に青い眼、鼻には少しそばかすがある男の子。
王子様みたいな格好いい男の子が私に、私なんかに綺麗な白い手を差し伸べていた。
「あ、いや、その....あ、ありがとう...ございます...その、ごめんなさい」
うつむきつつもしゃもしゃの髪をわしゃわしゃかきながらお礼を言い、綺麗な手をとった。
「どういたしまして」
彼は笑顔で返してくれた。
なんてことなのかしら。
これが、絵本で見た運命の出会いというやつなのかしら。
「遠くを見つめて...大丈夫か?」
「........ふぇっ!?あ、ご、ごめんなさ...」
私はまた髪の毛をくしゃりと握る。
「謝るなよ、悪くないんだからさ」
「あっ...ごめんなさい...あっ」
私はダメだ。謝る癖がついてしまっている。
本当に、ダメなやつだ。
私はファゾラ。
天才発明一家、『イアンビリー家』の次女。
イアンビリー家の最低辺の落ちこぼれと言われた発明家.....。
「...ふむ、そうだ。じいちゃんがさ、前に言ってたんだけどよくごめんなさい、っていうより沢山ありがとうって言った方がお互いいい気持ちになれるって」
「...え?」
「君さ、これからはありがとうって言葉を沢山使うようにしなよ。じゃないと損だよ。僕なんか絶対自分が悪いことじゃなかったら謝らないもん」
ヘヘッと笑う彼につられ、私もつられて笑ってしまった。
「ありがとう、ありがとう...えっと貴方は...」
私はこのパーティに来るのは初めてだったので、この人の顔を見るのが初めてだった。
そもそも、パーティ自体私のようなものは人様に出すのは恥ずかしいから、と来させてもらえなかった。
だから今日は変装をしたの。
髪の毛は私の発明品「カミイロカエール」で緑の髪に、(副作用で髪の毛がもしゃもしゃのくせ毛になってしまったけれど。
さらに「ゾウモウヘアーマシン」で髪の量を倍に増やし(その際に増えた前髪だけは切っても切っても生えて来るので伸びっぱなしにして前はほとんど見えない。
「ボイス変化薬」を飲めば声だって変えられる(その代わり6時間は元の声に戻れない。
プラスアルファで丸眼鏡と、発明家っぽい白衣を着てパーティに参加した。
私は小さい頃からお兄様や、お姉様と違い発明の才能がなかったから地下で一人、ずっと発明ばかりしていた。
発明を続けていればきっとすごいものが発明できるようになるって、努力は必ず報われるって。
お母様が言ってたから。
努力した人は必ず幸せになれるように世界は発明されているのだと。
だが、お母様は亡くなりお父様はお母様が亡くなった後、精神を病んでしまった。
私に地下から出ていくように言うと、白衣を着たサングラスの変な男の人達をよく地下室に連れ込むようになった。
前に一度お姉様から聞いた。
「あの人は、お母様を作ろうとしているの」
「お母様を...?」
「えぇ、出来るわけがないのにね」
お姉様は、悲しい顔で地下室の扉を見つめ呟いた。
お父様は、お母様が亡くなってから異常に私の事を虐げるようになった。
「お前は落ちこぼれだ!この家の恥だ!なんで才能がないんだ!?なんであいつを作れないんだ....何でお前が生きているんだ!彼女は天才だった天才の発明家だった...何で彼女が死ななければいけないんだ!!」
「ごめんなさい.....ごめんなさい....」
胸ぐらを掴まれ、時には殴られ、私は生きていちゃいけないんだ。
私なんかは死んだ方がいいんだ。
そう叩き込まれた。
体にも頭にも。
私は、生きていてはいけない。
謝るのは当たり前。
家からも出してもらえなかった、だから最近逆に死んだ方がお父様も皆も喜ぶんじゃないかって。
私はそう考えた。
あぁ、私は本当にダメなやつだわ。
きっと私なんかは生きていてこの罪を償わないといけないのに、私なんかが生きている罪を。
前にお姉様が言っていた。
「あなたも災難ね。お母様に似ているが故にお父様から八つ当たりをされているのよ」
私のような存在は、八つ当たりをされてお父様が少しでも気分が良くなってくれるならそれでも存在価値がある方だけれどお父様が私の顔を見て嫌な思いをするならいっそいなくなった方がいいと思って。
でも、私はそこでふと思った。
どうせ死ぬなら一回も見たことのない外の世界を一度でも見てから死のう、と。
私は絵本で見たようなパーティ、に一度でいいから行ってみたかった。
一ヶ月後にお父様が発明家のパーティに参加するという話をお姉様としていたのを盗み聞きしていた私は一ヶ月後のパーティに備えて変装マシーンを開発した。
絵本で見た発明家のイメージはこんな感じだったのだけれど、実際パーティに参加して見ると白衣の人はほとんどいなくてドレスやスーツを着ている人ばかり。
きらびやかで、にぎやかで、沢山のご馳走がいっぱいのキラキラしたところ。
私には勿体ない場所だわ....。
一部には人だかりもできていた。
これじゃ逆に目立ってしまうと体を縮こませそろりそろりとテーブルの間と間を移動していたら長い前髪で視界が見えづらく人混みから飛び出してきた彼にぶつかってしまった。
「僕の名前はアーサー、天才発明家のアーサーって聞いたことない?」
彼はドヤ顔であごを触りながら自己紹介をしてくれたけれど、私は本当に世間に疎くてダメな奴だから、分からなかった。
「アー...サー?...っと、ごめんなさい。わ、私世間知らずで、ずっと...地下室で一人で発明ばかりしていたもので」
申し訳なさそうに俯いて髪の毛をわしゃわしゃとかいた。
「僕と同じじゃないか!僕も地下室で一人で発明ばかりしてたよだから君のことも知らないんだ」
どうしよう、本当の名前を言ってしまったら変装した意味がないし、でもアーサーさんには言ってもいいのかな?どうしよう...どうしよう...。
「わ...私なんかは、その..有名な人じゃ全然なくてただの落ちこぼれで.....ただのランコです」
ランコは、私がパーティに憧れるきっかけとなった絵本の主人公の名前。
私は、彼に自己紹介をする時ふと思い立った。
いつも落ちこぼれでイアンビリー家の恥と言われている『ファゾラ』ではなく今は姿形が全然違う別人として彼と友達になりたいと。
私なんかがおこがましいと思ったけれど私は「落ちこぼれのファゾラ」ではなく、「彼の友達のランコ」としてこの時だけは過ごしたいと思ったのです。
そんな願いは、私なんかには思ってもいけないことかもしれないけれど、でも、この時、この時だけはイアンビリー家のファゾラなんかじゃなくてただのランコとして、彼と「お友達」に────。
アーサーさんは、考えるようにあごを触り、私にまた綺麗な手を差し伸べる。
工具を握っているからか豆だらけの努力をしたとわかる。綺麗な手。
お母様は、豆だらけの私の手を努力の手だと綺麗だと、よく褒めてくれていた。
「ランコか。ふむ、ランコ、よろしく。僕友達がいないんだ。よかったら僕と友達になってよ」
「えっ....と、とも..だち?」
友達...私には一生聞くこともなかったはずの単語だった。
「うん、ランコもずっと地下で発明してたから友達いないだろ?僕と一緒だ。フムは友達っていうか、家族みたいなものだしランコ、僕と友達になろうよ」
「わ、私は......貴方と友達なんかになっても...本当にいいのでしょうか」
「なんで?」
アーサーさんは、心底不思議そうに言う。
「私は、落ちこぼれだし、生きていてはいけない人間だし、発明も全然できないし...それに、才能がないし」
あぁぅ、だめだわ私は。
いつもの癖が出てしまって俯いてネガティブな発言をしてしまう。
「そんなことないよ。ランコは僕と同じ手をしている。さっき君を立ち上がらせた時に手を握ってわかった。君は天才だよ天才の僕と同じ手をしてるんだもん」
ほら、と手を見せた彼の豆だらけの手。
私と一緒だった。
地下室を出ていくように言われた後は、屋根裏で密かに発明を続けていた。
薄暗い蜘蛛の巣のはった埃まみれの屋根裏を掃除して発明に勤しんだ。
「そうだ、ランコ今まで発明したものの話をしようよ。きっと楽しいよ」
「えっ.....つ、つまらないと思いますよ私なんかの話を聞いても」
「いいんだよ。僕は他の発明家がどんなものを作ったのか興味があるんだ」
キラキラした顔で言うアーサーさんに、なんだか申し訳ない気持ちになった。
「私じゃなくても他のすごい発明家さんは沢山いらっしゃると思うのですが...私なんかで大丈夫なんでしょうか...」
「他の奴とちょっと話してみたけどだめだよ。皆お金の話しかしないからつまんないもん。僕はそういうのに興味ないからね。ただ発明が楽しくてやってる」
やれやれと首を振りハキハキと喋るアーサーさんは、ため息もついていた。
ずっと落ちこぼれ、名家の恥と呼ばれ続けていたから人の名前で呼んでもらえることなんて久しぶりだわ。
彼は、私に、私なんかに優しくしてくれる。
「ありがとう....ございます...アーサーさん」
ポロポロと情けなく涙が流れた。
「え?な、なんでないてるの?」
「いや...友達になってくれると言ってくれたのが嬉しくて...」
色々な感情が溢れて涙が出てしまったが、一番大きな事でいうとやはりこれだろう。
「え?そんなことで泣いてるの?あ、あと僕の事はアーサーでいいよ、友達なんだから」
私は勇気を出して深呼吸をして無理やり引きつった笑顔を浮かべて精一杯声に出す。
「その...私でよければお友達に、なってください。アーサー」
豆だらけの手を震えながら差し出す。
「あぁ!パーティは始まったばかりだ!夜まであっちの人があんまりいないテラスの方で話そうよ!」
彼は笑顔で私の手をとって歩き出す。
今日は私の人生の中で一番ステキな日になりそうだ。
今回も見てくださって本当にありがとうございました。
次回もランコ編は続きます。
次回はフムとランコが初めて出会い二人で何を話していたか、です。