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【フム】  作者: ガイア
27/30

憎しみの理由

日にちをあけてしまいごめんなさい

私はいつも通り明日も仕事でこれから年があけるって感じがしません。

「これから?まだ何かあるというのか?」


「あぁ....むしろこれからだ。それに、アルト、お前がどうして私達の元を離れる事になったのかも、ここで話そう」


***


マーチスは、警察の長い取り調べを受け毎日眠れぬ夜が続いた。


「誘拐したといえば楽になる」

「イアンビリー家は発明家の名家であり、街でも有名な大富豪でもある。警察としても敵に回したくない」

「お前は本当にあのイアンビリー家のお嬢様の婚約者なのか?」


散々酷い事を言われたが、マーチスは決して彼女に対しての愛情を否定しなかった。

彼女と自分は愛し合い、新たな命も授かった。

絶対に、負けない。

マーチスは、そう心に誓い取りフィーネと、アルトを希望に地獄を乗り切っていた。


眠れない程硬い地面に薄い布を敷いて寝っ転がっていたマーチス。

全く解放される気配はなく1週間が経った。


フィーネ、アルト、無事でいてくれ。フィーネ、アルト、元気か?私は大丈夫だ。二人が無事なら私は何でも頑張れる。

暗い牢屋を見上げると冷たい石の天井が、自分を無情に見下ろしていた。


「マーチス・ヒルト」


ある日牢屋の門番がマーチスに一枚の手紙を手渡した。

差出人は、兄のルーカス・イアンビリー。

白い封筒に赤い螺子の朱印が押してある。


「なんだろうか」


兄が自分を牢屋から出してくれるように頼んでくれたとは考えられない。

フィーネとアルトの事だろうか。

かさりと手紙への扉を開けると、そこには信じられない事が綴られていた。


「............は」


マーチスは、ポトリと手紙を落として天井を見上げたまま動かなくなった。


封筒の中には二枚の紙があった。

手紙の初めはこうだ。

わたくし、ルーカス・ヒルトは、このたびフィーネ・イアンビリーと結婚する事になりました。


どういう事だろうか。

私の妻なのに、私の愛したフィーネがルーカスと結婚?


マーチスは、イアンビリー家の名を捨てるようにと書いてあった。

意味がわからない。

愛する妻を奪われた。

この1週間で?どういう事だ?

私はまだ離婚届も出していないぞ。


手紙と一緒に同封してあったのは、離婚届その紙だった。

手が震えた。どうして。

絶対印鑑なんて押すものか。

そう思った、固い意志が確かにあった。

だが、手紙の最後の言葉で私はその意志を砕かざるおえなくなった。


この紙に判を押さないとお前の子供をどうするかわからない

よく考えて決めるんだな。

尚3日以内に返事がなければ子供を殺す。


「あぁ....あぁ」


なんとなくわかった。

フィーネとルーカスの結婚。

フィーネは私か、もしくはアルトを人質に取られて結婚する事になったのだろう。

マーチスは、天を仰いだ。固く閉ざされた石の壁を見上げ、ぎゅっと目を閉じた。

アルトは、フィーネと私の大切な...大切な子供。

二人の愛の証だ。

アルトを失ったら..ただでさえ離れ離れになってしまった私達はどうしたらいいのだ。

マーチスは、迷わなかった。

手紙を読み終えた後から気持ちは決まっていた。


私は、固い床にどかりと座ると古ぼけた木の机を前にガリガリと返事を書くと、門番に手渡した。


同時にマーチスは一つの決心もしていた。

自分は絶対に、マーチス・ヒルトにはならないと。

離婚届は書いた。泣きながら書いた。

手が震えてうまく書けなかった。

だがら力を入れて紙にグリグリと書いた。

自分の妻はこんな紙切れで兄のものになったりなんかしない。

フィーネ・イアンビリーと結婚し、愛し合っているのは私だ。この私、マーチスだ。

だから、せめてもの抵抗で兄のルーカスがフィーネ・イアンビリーと結婚しルーカス・イアンビリーになり、自分はマーチス・ヒルト、蚊帳の外というのは許せなくて、マーチスは自分は今もマーチス・イアンビリーなのだと、思う事にした。

口に出すし、自分はフィーネの夫だと思うようにした。


「私が誘拐した」


膝の上で拳を握りしめ苦汁を舐めたような顔をして警察に言ったマーチスを警察が驚いた顔で見たのは言わずもがなだった。

昨日の今日で全く違うことを言ったのだから。

マーチスは、自分の意思やプライドより早くこの状況から脱出し、愛する妻と子供の顔を見る事に決めたのだ。

子供が心配だ。

妻が心配だ。

自分がこの場所から出たら妻と子供を連れてまた逃げようと思っていた。

マーチスはまだ、希望を捨ててはいなかった。



六年後──────。

マーチスは、流石に刑が重すぎると言ったが、自分がやっていないと否定していた為刑期長くなってしまったようだ。


「やっと......」


マーチスは、一年後、やっと牢屋から出る事が出来た。


「フィーネ!アルト!」


マーチスが牢屋からでてまず向かった所は、イアンビリー家だった。

お金がなかった為、途中で下ろし、バスに乗って途中まで。

そこからは叫んで走り、フィーネとアルトに会える喜びと、二人が無事なのかという不安、色々な感情が渦巻いていた。


イアンビリー家は、六年前に来た時とあまり変わっていなかった。

門の前でピンポンとインターホンを押すと、少しした後


「はい」


ルーカスが出た。


「兄さん!兄さん!私だよ。マーチスだ」


「あぁ....なんだ。お前、生きてたのか」


呆れたような、なんだ、お前か。というような反応。


「フィーネとアルトに会わせてくれ!」


「なんだって?」


ルーカスは、惚けたようにいう。

痺れをきらし、マーチスは門を握りしめ叫んでしまった。


「フィーネとアルトだよ!私の妻と子供だ!」


「...どうやら頭がおかしくなってしまったようだ。アルトなんて子供はいない。フィーネは私の妻だ。もう家に来ないでくれ迷惑だ」


ぶつり。

私の心の糸が切れる音がした。

同時にインターホンも切れた。


「どういう事だ...いない?って?は?どうして?」


私は、俯いて考えた。

門は握ったままだった。

まるで、門の鉄格子が牢屋にいた私とイアンビリー家の彼らを隔てる大きな壁のようだ。

私はもう牢屋からでたのに。

涙が出そうになり上を向くと、二階の窓に人影があった。

虚ろな眼で外を見ている女性が一人...あれは...フィーネだ!


「フィーネ!フィーネ!」


大きな声で叫び手を振る。

だが、フィーネは私に気がつかなかった。

笑顔で話す花畑の彼女はどこにいるのか。

彼女は抜け殻のようだった。


何度も諦めずにイアンビリー家に足を運んだが、しばらくして次に訪れたらまた牢屋に入れるぞと言われた。

その際に、ルーカスがこぼした一言は、私は今でも忘れていない。


「毎日毎日しつこいぞ。折角お前の刑期を金で伸ばしたっていうのに」


「.....どういうことだ?」


マーチスは耳を疑った。


「そのままの意味だ。お前がいると色々面倒だからな。フィーネを手に入れる為だ。それに今私は子供も生まれて幸せなんだ。邪魔しないでくれ」


ルーカスは、フィーネの事が好きになってしまったのだろうか。

いつから?何で?

いや、愚問だ。彼女は元々その美しさから求婚する人も多かった。

だからって弟の妻を力づくで奪い、金で刑期を伸ばして牢屋に閉じ込めている間に結婚までするだろうか?

そして、子供?子供といったか?

こいつは、子供を....フィーネと。


憎しみの炎が灯り、意地でも門を突破してやろうと暴れたのが悪かった。

警察にとうとう捕まり、また牢屋行きになってしまった。

出所し、すぐまたイアンビリー家に行ったが、そこに前のような大きな家はなく引っ越したのか土地も売られていた。

マーチスは、必死に探したが、なかなか情報が出て来ない。

セキュリティがかけられていて情報に曇りがかかっていた。


新しく小さなマンションを借りしばらくイアンビリー家の事を調べていたが、そんな私に一通の手紙が届く。


差出人は、リンガー・イアンビリー。

なんだ?

前と違い、ショックで痩せ細り、目はぐりんと皮から浮き出て髪も薄くなってきたマーチスは、細い首を傾げた。


封筒には紙が二枚入っていた。

内容はというと、リンガーはフィーネの父親で、最初はマーチスの事を娘を誘拐した酷い奴だと思っていたが、フィーネの涙ながらの説得を経てマーチスの印象を考え直してくれたようだ。

いつも自分の言うことを主張せず従順だったフィーネが、初めて自分に反論したらしく、リンガーはとても驚いて話を聞いたらしい。

それから、マーチスにお詫びをしたいと思い何回か牢屋を訪れたが、面会禁止と言われ追い返されてしまったとも書いてあった。

面会禁止は、ルーカスが何かしら手回ししたのだろうか。

私と外との接触を断つために。


フィーネは、母親も説得したが発狂して話を聞いてくれなかったそうだ。

その時泣きながらフィーネがリンガーに頼んだのは「アルトをルーカスから逃す事」だった。

ルーカスは、フィーネとマーチスの子供であるアルトを当然よく思っていなかった。

フィーネが何かするたびにアルトを掛け合いに出し、言うことを聞かせていたらしい。

せめてアルトを連れて逃げてくださいと私は死んでもいいからお願いしますと、泣きながら頼まれたリンガーは、雨の強く降る夏の日に、まだ小さかったアルトを連れてイアンビリー家から逃げたそうだ。

今はひっそりアルトと共に暮らしているが、場所は教えられない。

何故なら自分もルーカスにバレたら殺されてしまうかもしれない。

命がけの逃亡だからと。

今は二人とも名前を変えてひっそり暮らしていると書いてあった。


「そうか....」


ルーカスは、封筒に入っていたもう一枚をペラリとめくった。

そこには、フィーネ、ルーカス、とその子供たちとアルトが写った写真が同封されていた。

フィーネはにこりともしていなかった。

ルーカスは、にっこり笑い子供達は皆微笑んでいた。

その奇妙な写真に自分は胸を苦しめられた。


フィーネ.....君はそんな顔をする人じゃない。

どうしてこうなった。

私の隣で笑っていた彼女があっという間に兄のルーカスに奪われ、自分が牢屋に入っている間に愛する妻には子供ができていた。

自分の愛する子供は、祖父と共に素性を隠してしまってもう会えないかもしれない。

どうして、私は家族と幸せに暮らす未来が与えられなかったんだ?

どうして?どうしてこうなった?

どうして私は今部屋に一人なんだ?

どうして隣には彼女がいない?

どうして私の腕には愛する子供がいない?

それも全て....あいつのせいだ。

マーチスは、闇の深い表情をし膝の上の両手を強く握りしめた。

握り締めすぎて、爪の後がしばらく消えなかった。


***


「その後聞いたんだ。ルーカスがフィーネを働かせて働かせて過労でフィーネが死んだって」


マーチスは闇のこもった目で僕を見た。


「その時だよ私の殺意に油がどくどくと注がれ噴火したんだ!ははは!」


マーチスはにこりともしていなかった。

目は虚ろで、僕を見ているようには見えない。

なんだか、僕の奥のなにかを見ているような....そんな表情で、僕はとても胸が締め付けられた。


「話は終わりか?」


どこからともなく聞き覚えのある声がした。


「なんだ!?」


動揺するマーチスに対し、僕は聞き覚えのある声の主を部屋の中から探した。


「.........シトさん?」


マーチスの部屋の中にあった茶色のクローゼットがぱたりと開かれ、中からシトさんが現れて、


「話は終わり?」


フードつきのパーカーのポケットに手を突っ込んで彼はふっと笑った。

本日も読んでくださりありがとうございます。

明日は投稿できるかわからない為、こちらで。

今年の11月から投稿してきましたが、本当に読んでくださりありがとうございます。

読んでくださる方がいなかったらこんなに続いてないかもしれません。

来年はもっと面白い作品を書きたいと思いますので来年もよろしくお願いします。

良いお年を

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