新たな命と引き裂かれた二人
タイトルは変えてますがカクヨムへの投稿も始めました!
「殺した?フィーネさんをハゲおっさ..ルーカスは殺したということか?」
前にランコに少し母親の話を聞いた時病死したと聞いていたんだが。
「そうだ!あの男は私の愛するフィーネを殺した。さて、ここからがクライマックスだ。語ろう。私の....恋の終末を」
苦しく、切ない泣きそうな表情を浮かべルーカスは自身の胸をぎゅっと掴み、僕を見た。その表情は、殺人鬼を生み出したマッドサイエンティストの姿は見る影もなかった。
***
イアンビリー家の一人娘、フィーネは当然どこかに嫁ぐ事は許されず自然とマーチスがイアンビリー家の婿に入る事になった。
幸い、ヒルト家は発明家の家系でヒルト家とイアンビリー家は特に反対されることもなく、むしろヒルト家はこんな出来損ないをよろしくお願いします。と頭を深々と下げた。
「私は、イアンビリー家の一人娘。発明だけしていればいいと言われてきた。ロボットを発明しているロボットみたいだったわ。家族も家族とは言えなくて、ただ私を利用している人達。唯一好きだったのは祖父と祖母かしら。どちらも私を愛してくれて、二人に育てられたと言ってもいいくらい」
ある日コスモス畑を二人で散歩している時フィーネが桃色の大海原を見ながらふと呟いた事があった。
「たしかに君に会ったばかりの時はあまり笑わなかったね」
マーチスは懐かしそうに目を細めた。
「そうね。私にとって発明はやりたいことではなくやらなくてはならないことだった。才能があるから、イアンビリー家の一人娘だから。だからやらない。やりたくないなんて思えなかったけれど、そんな人生は当然つまらなかった」
俯いて悲しい表情を花畑に落としたフィーネを、マーチスは心配そうに見つめた。
「でも、今は貴方と出会えてとても幸せ。歌は一人で隠れて歌うものだったけれど、今は一緒に歌ってくれる人がいる。私には貴方のくれた音楽がある。それが私に希望を与えてくれる」
優しい微笑みを浮かべマーチスを見つめるフィーネに、マーチスも思わず笑みがこぼれる。
「ねぇ、フィーネ」
「どうしたの?」
マーチスは、フィーネの手をとった。
「一緒にかけおちしよう」
フィーネの瞳をまっすぐ見つめて結婚した後のプロポーズのように真剣にいうマーチスに、フィーネは素っ頓狂な声を上げた。
「かけおち!?」
「そうだよ。誰も私と君の事を知らない。私達の事をマーチスだともフィーネ・イアンビリーだとも思わない。遠い、遠い所へ行こう」
「......どうして」
驚きで目を見開きフィーネが問いかける。
「君は、なんだかまだイアンビリー家に縛られているような気がするんだ。かといってあのヒルト家に君を嫁がせたいとも思わない。二人で新しい土地に行こう」
マーチスは、大きく羽ばたくように手を広げフィーネに微笑みかける。
「...そんな事..私、許されるのかしら。イアンビリー家の娘なのに」
だがなかなかフィーネはイアンビリー家に縛られているの首を縦に振らなかった。
だがその鎖を断てるのは、断つ事ができる唯一の相手はマーチスだけだった。
「君はイアンビリー家のフィーネじゃないよ。私の愛する妻フィーネだ」
青空に白い鳥が羽ばたき、金色の風が吹き抜けた。
フィーネは、澄んだ瞳を潤ませマーチスの手を握り返した。
「ありがとう。マーチスロボットのような私に感情と、幸せと、愛を与えてくれた人。愛しています」
フィーネは、その後お腹をさすり、
「それと、マーチス。貴方とのかけおちを迷っていたのは実は....」
「ま...まさか!」
マーチスは、ぱぁっと顔を輝かせた。
「えぇ、私のお腹の中には貴方との新たな命が宿っているのです」
フィーネは愛おしそうにまだそんなに膨らんでいないお腹をさすった。
***
二人でバスや電車を乗り継ぎ誰も自分達を知らない場所へ。
愛する人と旅をするのはなんて楽しいのだろうか。
マーチスは、フィーネと過ごす毎日が宝物だった。
だいぶ自分達のいた街からは離れる事ができ、フィーネとマーチスがたどり着いたのはマチミヤ地区という所だった。
そこは、自分達の住んでいた所よりは都会で大きな病院もあり、買い物もいけ、更に人が多いのでイアンビリー家やヒルト家の人達が追って来ても隠れられるであろう場所にはぴったりだった。
妊娠しているフィーネのお腹も大きくなり、とうとう出産の為に入院する事にもなった。
出産し、赤ちゃんを手に抱いた時マーチスとフィーネは、とても感動した。
「マーチスとの子供...名前はアルト」
「フィーネとの子供だ。名前はアルト」
二人はアルトを挟み笑い合い幸せを噛みしめる。
二人とも家族にいい思い出があまりない為初めてできた「家族」というかけがえのない存在にいいようもない感動と愛情を抱いた。
たまに、フィーネが
「私は、こんな風に幸せでいいのかしら。逃げて来て後悔はしていないけれど」
なんて幸せまじりの不安な顔で言うが、マーチスは優しく寄り添い、フィーネの手を取り言うのだった。
「大丈夫だ。君は自由だ。一緒にイアンビリー家に縛られた人生から逃げよう。逃げ続けよう」
***
だが、そんな幸せな日々も長くは続かなかった。
「.....ルーカス兄さん!」
アルトが4ヶ月の時のある日突然、病室にルーカス・ヒルトが現れた。
「やぁ、久しぶりだな。マーチス」
にぃっと笑うルーカスは陽気に手を上げた。
「な、なんでここが」
マーチスの後ろでフィーネが震えていた。
ルーカスは、ちらりとフィーネを見た後くるりと振り返る。
「フィーネさん、お父さんとお母さんを連れて来たよ」
そして顔だけこちらを向いて不気味に笑った。
咄嗟にフィーネは抱いていた赤ん坊を自分の背後に隠した。
その黒く、闇深い様子にマーチスとフィーネは、固唾を呑んで思わず押し黙る。
「我が愛する娘。フィーネを誘拐したヒルト家の落ちこぼれ、マーチス。お前を逮捕してもらう事にした」
フィーネの父親はマーチスを指差し無情に言い放つ。
「そ、そんな...そんなのって」
フィーネがルーカスの後ろで涙を流した。
フィーネの両親の後ろから、
「突入!」
という勇ましい声が聞こえたかと思うと、マーチスをあっという間に拘束し冷たくて重い、手錠をかける。
「やめて!やめて!マーチスは!」
フィーネが泣き叫び警察に掴みかかろうとするが、それをマーチスが諌める。
背後に隠している赤ん坊がバレてしまう。
「私は、フィーネを愛していただけだ。何も逮捕される事はしていないと思います」
マーチスは、まっすぐ真実をフィーネの父親に告げた。
そうだ。私は何も悪い事をしていない。
マーチスは、固く目を閉じ自身の固い意思を再確認する。
「ふざけるな!私の可愛い一人娘、イアンビリー家のフィーネをこんな遠いところまで連れ回しやがって!しかもたどり着いた場所が病院!?どうせお前はフィーネを無理やり連れ回して体調を崩させたのだろう!?」
ドンドンと床を足でふみ鳴らし顔を真っ赤にするフィーネの父親。
すると顔に鋭い痛みが走る。
反射的に私は顔を横に背けた。
目の前には怒りに満ちた表情で私を睨みつけるフィーネによく似た美しい貴婦人。
フィーネの母親だろう。
結婚式の時はあんなににこやかに私達を祝福してくれたというのに。
「二度と娘に近づかないで!貴方と違ってフィーネにはイアンビリー家を担う将来と才能があるんです!」
なんだよ。
マーチスは、俯いた。
フィーネが逃げたくもなるわけだ。
イアンビリー家のフィーネ。
イアンビリー家を担う将来?
もはや、彼女に自由はない。
そんなのおかしいじゃないか?
「ほら、行くぞ」
私は、多くの警察に拘束されるまま無理やり立たされた。
「ふざけるな....ふざけるなよ!ふざけるなよ!!」
マーチスは、思わず爆発したように叫んだ。
「なんだっていうんだ!なんだよ!あんた達はフィーネの両親ではないのか!?フィーネはあんた達の道具じゃない!フィーネは、ロボットじゃない!フィーネは笑うと可愛いんだ。音楽が好きで、歌も上手くて、優しくて、お前達はフィーネの何も見ていない!何も知らないくせに!ふざけんなよ!」
我慢していたすべてのものが吐き出される。
マーチスは自分が止められなかった。
「なんて野蛮な....」
「本当にどうしてこんな男にフィーネを一瞬でも任せようと思った私が恥ずかしいですわ」
だが、マーチスの心の叫びも両親の錆びついた心には届かなかった。
フィーネが泣き叫びとうとう立ち上がりマーチスの所へ走り出そうとするが、それを母親が無理やり止める。
「やめなさい!フィーネ!貴方は騙されていたのよ!」
「ふざけないで!私には彼しかいらないの!離して!離せ!」
「フィーネ」
マーチスは、首だけで彼女を振り返り安心させるように微笑んだ。
「絶対にまた戻ってくるから。それまで待っていてくれ」
「....マーチス..あぁ、マーチス。待ってるわ。ずっと待っているわ」
「フィーネ!耳を貸してはなりません!」
母親に抑えつけられたフィーネを背に、マーチスは、警察に連れていかれ、愛する二人は離れ離れになってしまった。
***
「というわけだ」
「....ふむ、まるで物語のようだな」
僕は、腕を組んで話を聞いていた。
「その、フィーネさんとあんたを見つけ出すのにはげの..ルーカスが関係してるからあんたは憎んでいるってわけ」
「いや」
マーチスは、眼光をぎらつかせ心底憎むように低い声で言った。
「これからだ。私が奴を心底憎むようになったフィーネのいない私の転落人生譚は」
本日も読んでくださってありがとうございます
読んでわかると思いますが、一人称ばかり書いてきた為、三人称が苦手です..が、練習もしつつ過去編はもう少し続きます




