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【フム】  作者: ガイア
11/30

死、から誕生

この話はとても苦労しました。

珍しく考えたり、迷ったりして書きました。

フムという人間に限りなく近いロボットの少女を実験して調べれば、自身の妻を一からロボットとして作り出すことができると信じている狂ったおっさんが身内だったなんて考えたくないな。


そのフムという少女は今俺の目の前でゴムのベルトで両手両足を拘束され震えているわけだが。


「まずは、この機会で彼女の脳に特殊な脳波を送り、「フムちゃんの脳」を取り出す。そして抜け殻になった体を調べるんだ」


父親だった男が興奮しながらガチャガチャとキーボードを叩いている。

その特殊な機械というのは、頭に装着するピカピカ紫とピンクにところどころ点滅している黒い鉄の機械だった。

機械は、様々なコンピューターに繋がれていた。

前に父親だった男が白衣の男達と開発したらしい。


「この機械...いつ作ったんだ」


「あぁ、えっと....あれ、いつ作ったんだかな。でも、あれだ。前に人間を脳と体に分ける実験をしようと思って開発したんだ。そして、その体に色々詰め込んで動く肉人形みたいなのを作ろうとしてはみたんだが。まあ、失敗してしまったがな」


生身の人間を脳と体に分けて...こいつ、本当に頭がおかしいな。


俺は、フムという少女の実験に関しては興味がなかったが、こんなに人間に近いロボットの構造が気になったんだ。

天才の俺が、感心させられた発明品だったからな。

単なる興味だ。ちょっとした好奇心だ。

これを作った発明家の事も気になる。

ベテランの爺さんだろうが、もしくはロリコンの変態だろうか。


「さて、始めようか」


父親だった男は、少女の頭に黒い鉄の塊を装着しようとしたが、少女は必死に暴れて抵抗するので、なかなか装着できない。


他の男達も協力し、なんとか被せていた。


頭が機械にすっぽり覆われ、キョロキョロと不安と絶望の絶頂にいるような表情を浮かべる少女を、俺は眉をひそめて眺めていた。


可哀想に。

そんな感情は一切なかった。

何も考えずに、ただ。


「うぁああぁいぃいやぁあ!!!!うわぁあああ!!いぎぃいいいいい!!やだぁああ!!やだぁああ」


少女が必死に暴れながら叫び声をあげていた。

さっきまで無表情だったが愛嬌のある少女は見る影もなし、死にかけの動物のようだった。


父親だった奴は、神に祈るように指を絡めその光景を見ていた。

白衣の男達は、絶句していた。


「やだ..やだぁああ!!まずだぁ!!!まずだぁ!!!!!!だいすきなますたぁ!!たすけて!たすけて!いたいいたいよ!!ますたぁ!!」


「マスター....」


俺は、顎を触りながらその様子を眺めていた。


マスター、もしかしてこいつを作った発明家の事か?

だいすきな、マスター。死ぬ間際、こいつは俺達に助けを乞うわけでもなくこの場にいない発明家に助けを求めたのか。


「きえたくないよ!!ますたぁのなかからきえだくなぃ...」


消えたくない。消える.....。消える?

俺は、その言葉を聞いて恐ろしい事実が頭をよぎった。

プシュウという音がして、頭から鉄の機械が外れた。


「おぉ!やったぞ!実験は成功だ」


鉄の機械からは抜け殻になった少女が出てきた。

目を閉じ、全く動かない。


「なぁ、おい」


俯いて、語調を強めた。


「どうしたんだ?シト」


「俺が入院していた病院にいた子供達、お前が母親を作る為のこのふざけた機械の実験台にしていたのか?」


「入院?何の話だお前はずっと引きこもりだっただろう」


平然と奴は答えた。

それもそうだ。俺は奴らの記憶を消しているからな。

あぁ...そうだよなぁ。

胸の中にドス黒い塊が渦巻く。

俺は、子供達が消えた事に関して一切触れないようにしていた。目をそらしてきた。考えないようにしてきた。

俺があの病院にいたから子供達は殺されたんじゃないか。

そんな考えが蛇のように俺に巻きついて離れない。


「やっと、この少女のお陰で、念願の夢が叶うよまあ、今回はシト、お前の協力のお陰でもあるよ」


この少女は、俺みたいに大人達の勝手な都合に振り回されて、感謝されてもされた自分は全然大丈夫じゃなくて。

心がざわつく。


「なぁ、こいつはこれからどうなるんだ」


「まあ、とりあえずは構造の把握の為に解剖をだな」


楽しそうに話す父親だった男。

心底不快だ。


「脳の方は必要ないからな。デリートしてしまってもよいだろう」


さっきまで喋っていた少女が、今は死んだように動かない。

もう少女は、生き返らないのだ。


「ん、コンピューターの様子がおかしいようだ。レイミーはこの広い家を常にうろうろしているからなぁ。ちょっと全員でレイミーを探して呼んできてくれ」


白衣の男達に命令をすると、白衣の男達は、全員レイミーを呼びに行った。

父親だった男は、少女の頰に触れた。


「この少女を解剖市調べれば俺はやっと完全な彼女を作る事が出来る...やった...やったぞ....」


こいつは、本当に自分の事しか考えていないんだな。

変わらない。

自分の事しか考えなさすぎて他の奴の気持ちを考えられないんだなこいつは。


「シト、お前はずっと引きこもってばかりで何を考えているのか全くわからなかったが、発明に興味があったんだな」


父親だった奴の一言に、無性に腹が立った。


「は?」


俺が発明に興味がある?

俺は、才能があるから天才だったから発明をしていただけで、しなくちゃいけないからしていただけで、俺は好きで発明をしているわけじゃなくて....いや、それじゃなんだかめちゃくちゃだ。

俺が発明をしようと思った明確なきっかけはなんだった....?

何だ、あれ?どうしてだ?その辺の事を考えるとぐわんと記憶が歪む。

母親の事を思い出す時のように。


幼き頃の記憶がぼやけて蘇る。


「うっ...ごほっごほっ」


「おかーさん、また発明?」


「シト、類まれなる才能は隠して使うものよ、だから絶対に才能を振りかざしちゃ、だめよ」


顔が薄暗くぼやけた女性が、工具を持って何かを作っていた。

幼い頃の俺の記憶。

恐らく母親だろう。

何で、俺...何で母親の事、思い出せないんだ?

何で発明を始める事になったんだっけ?


「あぁ.....ちゃんと思い出したい。何で思い出せないんだよ....何で覚えてないんだよ...」


ウィーーーーーーン


「わ、な、なんだ!?」


父親だった男がびくりと体を震わせる。

突如大きな機械音が部屋に響く。

音は...金髪の少女から出ていた。

俺は、静かにじっ...と少女を見つめていた。

少女はぱちりと目を覚ます。


驚きと静寂の中で俺は、すごいと思った。

死、からの誕生というのにふさわしい光景に、この俺は息を飲み、少女に目を奪われていた。


「ますたぁ」


少女は、俺を見て確かにそう言った。


「ます...たぁ?」

思わず聞き返してしまった。


「ますたぁ。あなたがますたぁ。わたしは「アーちゃん」です」


「あーちゃん?」

思わず変な声が出てしまった。

何でそんな変な名前なんだ。


「あーちゃんは、ますたぁのことをせいいっぱいおせわします」


生まれたての赤ん坊みたいな少女。

拙い言葉で一つ一つ一生懸命に俺に言葉を伝えていく。


ベッドを降りた「あーちゃん」は、俺の方へよちよちと歩いてきた。

そして俺のパーカーの両はしのすそをぎゅっと掴んで上目遣いでこちらをじっと見ている。


「なんだよ」


「ますたぁ。ますたぁ。」


ぴょんぴょん跳ねるあーちゃんは、俺に金髪の頭をぐりぐり押し付けてくる。

恐る恐る撫でてやるとぷにぷにの手で俺の手を掴んでガシガシ自分の頭を撫で出した。


なんだか言いようもない幸福感に恵まれた。

なんだこれはどうしたんだ俺は。


「おい、シト!!」


父親だった奴が俺を指差し叫んだ。


「これじゃその子を調べられないだろう?実験できないじゃないか?また機械で脳と体を分裂させるから、その子を渡してくれ」


俺にしがみついてますたぁますたぁ言っているこいつにまたあの機械を取り付けるのか?

あの少女が狂ったように痛がっていたあの機械を?

痛がっていた少女と、俺にしがみついている少女は同じ顔だから、嫌でもあの光景が蘇る。


「さぁ、シト、早くその子をこちらに渡すんだ」


じりじりと近づいてくる父親だった男。

あーちゃんは、ん?と俺の顔を見上げる。

俺はきっと今怖い顔をしているだろう。


「渡さない」


「なんだと!?お前も言っていたじゃないか?実験に参加させろって」


「あぁ、言ったよ」


「じゃあ、彼女の実験に関しては、賛成派だったんだろう?」


「あぁ、でもやめた」


「や、やめた?ふ、ふざけるな!!折角やっと掴めた彼女を作る手がかりだ。引きこもりのお前なんかに邪魔されてたまるか!!力づくでも...」


「お前と白衣の男達全員、少女を連れてきた事を忘れろ」


俺は、父親だった男を指差し唱える。

父親だった男は、虚ろな瞳でがくっと膝を落とした。


「ますたぁ?」


「何で俺はこんな事してるんだろうな。おかしいな。無表情に、無感情に、の俺だったのに」


腕を組んで考えてみるが全くわからない。


さて、この子をどうするか。

少女の元の人格はあのクソ野郎に消されてしまっただろうし、今は生まれたての赤ちゃんみたいなものだし、このまま放置しておくと

こいつらにまた見つかって実験されてしまうかもしれない。

出来るだけ少女と遠くに逃げよう。

この子を利用する奴がいないような場所へ。


発明者の所に返すという考えが一瞬浮かんだが、記憶を全て失い真っ白な状態の彼女を見せてなんて言えばいいんだ。

発明者には、もう少女を会わせない方がいいかもしれない。


下を向くと虚ろな瞳の父親だった奴が膝をついている。顔を見ていたら無性に腹が立ってきた。

折角少女と逃げるし、この家を出るのだ。

こいつらに悔しい思いをさせたい。


「少女は、誰かに盗まれた事にしよう。俺は勿論容疑者から外れるようにして」


命令を出し終えた。

これで奴らは血眼になって誰に盗まれたかわからないこの少女を一生探し続ける事になる。

ざまあみろ。


「ますたぁ。ますたぁ」


俺の腰に抱きついてすりすりしている少女の頭をわしゃわしゃと撫でる。

だが、発明者の顔がどうしても気になった。

どんな奴がこんなロボットを作ったんだ?

俺は、素直にこのロボットを作った奴を認めていた。

俺以外にこんなにすごい発明家がいるなんてな....見てみたい。


やはり単純な興味と少しの好奇心だ。


「お前がきてから何もかも興味がなかった俺の調子が狂いっぱなしなんだが....」


ぽりぽりと頰をかいて、しがみついているあーちゃんから一旦離れ、目線を合わせる。


「お前の発明元の親の所に行きたいんだが、場所を知らないか?」


「....?」


首をこてんと傾げるあーちゃんを見てこりゃだめかもなぁ。と思ったが、


「はい、ますたぁ」


少女は、頷き俺の手をとりよちよち歩きだした。

どうやらマスターの頼みをかなえてくれるロボットらしい。


俺は少女について歩いた。


夜の道。


「こっち、あっち」

と、あっちこっち言うのでバスを乗り継ぎ本当にたどり着くのか?と言う疑問を抱きながらついていく。


発明の名家だと示す「発明家カード」という黒いカードがあるんだが、それがあれば無制限で公共機関を全て使用できるので俺はそれでバスに乗った。


あまりにも少女の足が遅いので終いには俺は少女をおんぶしていた。


「まだつかないのか?」


「もうちょっと...」


ずっと家に引きこもって何もしていなかった俺には、歩くのはしかも人一人をおんぶしてというのは....おんぶ?

嘘だろ?さっき持ち上げた時は重かったのに

少女一人分くらいの重さしかないぞ...何でだ?

少女を持ち上げた時と今おんぶしてる時で違う事と言えば....。


「もしかして....あの重さって...思い出や記憶の分だけ体重が増えていく仕様なのか?」


前と全然違い軽い彼女を背中で感じ、唇を噛み締めた。


だが、顔を上げると一軒の大きな家が見えた。

壁に大きな穴が開いて崩れている家。

何かあったであろうその家を見て俺はこの家だと、何故か直感した。

この家からこの少女は勝手な大人達に誘拐されてきたのだろうな。


「ここが、君の家だよ」


そう呼びかけたが返事はなかった。

振り向くとスヤスヤと眠ってしまっていた。


「さて、彼女を作った発明家はどんな顔をしているんだろうなぁ」


俺は、少女を作った天才に会いに足を踏み出した。

俺は、何だか少しわくわくしていた。

この俺が、あれから一切の感情もなく全てに興味のなかった俺が、家に引きこもっていた俺の日常が、この少女が転がり込んできてから一転した。

俺は家を失い、引きこもる殻である部屋も失った。これからこの赤ん坊のようなロボットと二人きり──。

はは、どうやって生きていきゃいいんだよ。


俺は乾いた笑いを漏らし、少女を首だけで振り向いた。


「俺は何に関しても興味というものがなかつた。生きる事にも無気力だった。でも、俺は今すごく楽しい。知りたい。お前のこと、お前を作った奴のこと」


口だけニヤリと歪ませ俺は、少し歩調を速めた。


今回も読んで下さり本当にありがとうございました。

次からアーサー達のお話に戻ります。

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