天才からの解放
10話です。
今までの中で一番シト編を書いてるのが一番楽しいです
それからの俺は、一言で言えば「無気力」だった。
父親が何かの仕事や依頼を持ってきても、無表情に、無感情に、
「興味ない」
と、切り捨て何もしなかった。
だが、自分勝手な大人は止まらない。
「おい、お前!子供のくせに調子にのるなよ?折角病院から出てきたのに何もしないんじゃ意味がないじゃないか」
一人の大人が、俺の胸ぐらを掴んで怒り出した。
だが俺は何も言わなかった。何も考えなかった。こんな奴怖くない。いや、怖いという感情さえ、欠落していたのかもしれない。
「なんとか言え!こちとら商売がかかってんだよ!」
グーで殴られた。
他の大人達がその大人を止めた。
「おい!やめろ!」
「また子供が病院送りにされるぞ!」
「折角連れ戻してきたのにこいつも商品なんだ、傷がついたらどうする」
俺の事なんて誰も考えてない。
俺の事なんて誰も興味がない。
俺の事なんて誰も見てない。
そんなことは前からわかっていたはずなのに。
「おい、俺は警察にまで連れていかれたんだぞ」
俺の父親が、扉から現れた。
「いや、イアンビリーさん金積んですぐ出てきたじゃないっすか」
「はは、まぁ、俺も困るんだよ。なぁ?シト、わがまま言わないで働いてくれよ」
そう言って笑いながら俺に手を差し伸べた。
「興味ない」
「このクソガキ、ちょっと痛い目見ないとわからねえのかよ。お前は俺たちの為に働かなかったらただのガキなんだよ」
「まあまあ、才能があるものは、私たちのような凡人にその力を貸してくれないと、ね?それが当たり前なんだよ子供の君にはまだわからないかもしれないけど」
「そうだよ。君は天才だ!才能がある!人助けにその力を使えるんだよ。最高じゃないか」
俺が本当に天才で才能があれば、病院のあの子達も、皆を救えたのだろうか。
逆に俺がいなかったら、あの子達はこいつらに消されなかったんだろうか。
「おい、聞いてんのか」
誰かに肩を掴まれた。
痛かった。
「わかったよ」
俺は、ゆっくりと歩いた。
俺はこうするしかないんだ。結局は。
大人に従って、大人の奴隷としてあの人達の道具として行きていくしかないんだ。
そして、いつもの発明室へと向かった。
大人達は、やっとか...とざわざわと呆れたような安堵したような声がした。
「そこで待ってて、すごいの作るから」
そして俺は、虚ろな死んだ目で一つの大きな発明をする事にした。
「さあ、発明を始めようか」
革の手袋をキュッと身につけ、ゴーグルをした俺は、いつも使っているハンマーを手に取った。
とても大きな黒い大きな手の沢山あるロボットを作った。
流石俺だ。
「皆、俺の発明を見にきなよ」
俺について、大人達が発明室に向かう。
俺の部屋の発明室は危険なのでなかなか人が入ってこれないようにコンピューターで鍵を占める式なのでコンピューターで鍵を閉め、
大人達を振り返る。
「今回は何を作ってくれたんだ?俺の依頼したものか?」
「いや、俺が依頼した絶対に壊れない金庫だよなぁ?」
「馬鹿、俺に殴られたんだから恐怖で俺の頼んだ戦争で使える殺人ロボットを作ってたに決まってんだろ」
「いや、あんた」
俺をさっき殴った奴を指差した。
「おぉ、よくわかってんじゃねえか」
俺は、奴に手を差し出した。
「あぁ、商談成り────」
だが俺は奴が差し出した手に手を差し出すのではなく後ろ手に隠していたハンマーの鉄槌を差し出した。
ぐにゅりぼきりという感触。
気色悪かったが、なんだか気持ちよかった。
うわぁあ!と大きな音が響く。
なんだかみんなが騒がしい。
俺を殴ったんだからこいつもハンマーで殴ってもいいはずだろう?
「お、おい、シトお前、何をや、やめなさい」
父親がこちらに近づいてきた。
俺は、大人しくハンマーを置いた。
父親は、子供をあやすような声色でしゃがんで俺に目線を合わせた。
「よ、よしいい子だ。まだ間に合う。な?」
「わかった」
だから俺は近くにあった硫酸を頭に投げつけた。
もう俺はとっくに間に合わない。
父親が悶え苦しむのを見て、俺は少し笑った。
「ククッ....クククそうだよ。依頼通り作ったよ。大量殺人ロボット」
大きな黒い手の沢山あるロボットが驚かせようと思って隠していた隣の部屋の壁から突き破って出てきた。
お披露目だ。
ロボットの名前はキル。
キルは、ハンマーを拾って大人を殴って見たり、俺が作ったコンセントを使わないはんだごてを振り回したり、やりたい放題暴れてくれた。
なんだかスッキリしている。
発明室は、俺の居場所だ。
俺が生きる意味だ。
俺が何かを作り続けることは、天才である使命だ。
だから俺は、発明室を血の海にした。墓場にした。もう発明なんて、できないように。
「やめてください...何でもするからお願いします」
「いてぇ....いてぇよぉ!!」
「お願い止めてください...死んじまう」
「止まれ」
キルの動きを命令で止めた。
8人程。父親を入れると9人。
恐怖が植え付けられて今にも死にそうな奴、手がぐにゃりと砕けて痛みで動けない奴、涙と鼻水で顔がグシャグシャの奴。
「そこから一歩でも動いたら殺す」
キルに奴らを見張らせ、俺は簡単な発明を始めた。
これが本当に最後の発明だ。
後ろで逃げようとした奴の叫び声が聞こえたような気がしたが、まあそんなことはどうでもいい。
本当に小さな針を発明した。
キルに、小さな針を渡し
「そいつらの頭に刺せ」
と命令すれば、キルは忠実に従った。
嫌がって暴れている大人達をビー玉のような瞳で見ていた。
奴らに差し込んだのは俺の命令に絶対服従になる「奴隷針」だ。
これで奴らは俺の命令に逆らえない。
あ、一人死んで二本余ってるから父親に二本刺しておこうか。
硫酸で焼けた頭に針を二本刺すと何か反応を起こしたのか奴の頭から髪の毛が抜け落ちていった。
「キル、これらの処理お願いね」
キルは、ゴミ袋を見つけてきて大人たちを放り込んでいく。
俺は風呂に入る為に部屋を出たからその後の事は知らない。
大人達は俺の言いなりになった。
だから最初の命令は
「今までの俺が天才だった頃の記憶を全て忘れろ。そしてもう、俺に構うな」
俺は20歳になる今まで12歳のあの日から一人で自分の部屋に引きこもって過ごしてきた。
発明もせず、ただ、生きていた。
たまに何かしてみようと思ってみたが、何に対しても興味がないし、何をしても楽しいと感じなかった。
後で知ったが、イアンビリー家は、発明一家として有名となっていたのは、俺が発明していた全盛期の名残だ。
他の発明家が俺の発明品を自分達のものだと売っていたらしいが、俺の所を頼っていた発明家達を一掃したのでその後の事は知らない。
俺は引きこもっていたわけだし。
無表情に、無感情に生きてきた俺にある日転機が訪れる。
「助けて!誰かいないの」
バンバンバン!!とあれから全くと言っていい程来客が来なかった突然俺の部屋が叩かれた。
「なんだ」
さっき俺はうるさくて妹の電話線を切ったばかりだった。
うるさいのは嫌いだ。
扉を開けると、黄色いのが俺の胸に飛び込んできた。
「助けて」
上目遣いで俺を見る。だが表情は無表情だ。
長い髪に黒いリボンをした金髪の少女。
こんな来客は、初めてだ。
いつも欲深いおっさんばかりだったからな。
「ひきこもりの息子の部屋だ」
「少女は確かにここに入っていった」
部屋の外でおっさん達の声がした。
「君は?」
俺は、子供だからできるだけ優しい声色で聞いた。
「フム」
彼女は、無表情な瞳でそう言った。
感じが悪い奴だな。俺みたいだ。
「フム....ね。変な名前だな」
「マスターがつけてくれたフムの名前...馬鹿にしないで」
「マスター?」
「お、おーい、シト!!そ、そっちに金髪の女の子はいなかったか?」
父親だった奴が何か言っている。
フムと名乗る女の子は、ビクッと体を震わせ俺にしがみつく。
「この子、どうするの」
「お、おぉ、いるんだな。その子人間みたいだろ?実はロボットなんだ。その子をこちらに渡してくれないか?」
ロボット?嘘をつけ。
俺は、少女の口の端をうにうにと引っ張った。
「ひゃにをするの」
プニプニしているし、だが体温が冷たいくらいでただの人間だ。
他にも耳を引っ張ったり、体を持ち上げたり...持ち...も、持てない!?
「重いなお前」
「仕方ないじゃない!これは色々入ってるからなんだから」
本当に、ロボットなのか。
そこでなんとなく実感が湧いた。
俺は、過去にこんなロボットを作れただろうか?
人間らしくないところが少ないこんなロボットが。
これを作った奴はどんな奴なんだ。
「俺は、お前に興味がある」
俺は、少女にそう告げると少女は無表情だが、どんな反応をしていいか困っているようにも見えた。
「おい、この子をどうするつもりだ」
扉の向こうに言葉を放り投げると
「お前はずっと引きこもっていたから知らないかもしれないが、お前が8歳の時、母さんが死んだだろう。それから私はずっと彼女をを生き返らせる為に研究を重ねてきた。でもある日気付いたんだ彼女を生き返らせるのではなく一から作ろうと」
俺が8歳の頃母親が死んだ。
俺は、母親がどんな人かよく覚えていないのだがいや、思い出そうとすると酷い頭痛に襲われ、思い出す事を止められるんだ。
恐らく過去にかなりのトラウマを追ったから
関係ない記憶まで制限がかかるようになってしまったのかもしれない。
父親だった男は、母親を生き返らせようとしているらしい。俺には関係のない話だが。
「その少女は、本当に人間のようだ。少女を実験して調べれば彼女を一から作れるかもしれないんだ」
くだらないな。死んだ奴は死んだんだ。
お前達に消された病院の人達のように。
母さんが作れたって、それは母さんではない何か、だろう。
大人達で寄ってたかって子供を追いかけて、本当に俺は大人が嫌いだ。
俺は、少女の手を引いた。
少女は、無表情のまま俺に手を引かれたが、途端にジタバタと暴れ始めた。
「や、いやだ、いやだ、はなして」
渡さないと面倒そうだし、俺は少女と一緒に大人達のいる扉の向こうへと向かった。
「彼女は渡そう。だが俺にもその「実験」とやらに参加させろ」
その場にいた俺以外の奴は目を見開いた。
「そ、そんな事させるわけ....ぐっ...うぅうわぁあああ!!!ぐあぁあああ!!!!いだいいだいいだいいだい!!!」
父親だった男が頭を抑えて転がりまわった。
「わかりました。仰せのままに」
痛みに涙を流しながらうつろな目をした父親だった男は、いった。
「他の奴もいいな」
「.....仰せのままに」
「な、なんなの...貴方、本当に、人間、なの?」
少女は、震えながら俺を見た。
「俺にもわからん」
少女は、見ずに答えた。
そして俺は、虚ろな瞳の大人達を引き連れ、奴らがいつもたむろっている地下室へと向かった。
今回も読んでくださり本当にありがとうございます。
最初の方の話が行間がつめつめだったので読みやすくなるように開けてみました。




