炎の卵
今日ようやく「炎の卵」の中に入ることになった。
それまでが長かった。
ロバムは
「この環境で汗をかかなくなったら「炎の卵」の中に入れたる。
それまでは特訓や。
大体、精霊が汗をかくなんて聞いたことがない。
どんな環境でも涼しい顔でいるものや」
と僕に説いた。
僕はと言うとロバムの言うことにとりあえず盲信し頑張ってみた。
そういう日々を半年過ごしてやっと「炎の卵」入れるのだ。
感慨に耽るのは当たり前だと思う。
そんな僕を見てロバムは
「何、ボーとしてんのや。
はよ、入りいや」
と僕の背中を押した。
僕は思わず「あちっ!!」と仰け反った。
「そんなん気のせいや。
半年の特訓無駄にすんなや」
と怒られてしまった。
でも熱いものは熱い。
僕は恐る恐る手を中に入れた。
「何びびっとんのや。
精霊なんかやけどするかいな。
我慢して入らんかい!!」
とさらに背中を押す。
でも僕は手のひらが限界だった。
「しゃあない。
今日はこれでおしまいや。
ようやった方やと思う。
俺っちなんか初日、人差し指が関の山だった。
手のひら入れれるだけたいしたもんや」
とさっきと違うこと言っている。
まぁ、ロバムは言っていることがコロコロ変わる事がしょっちゅうだからこちらも慣れてしまっているけど。
次の日、全く同じ事が繰り返される。
「昨日の威勢の良さはどこいったんや。
全然出来てへん。
せめて昨日出来たことは今日も出来んかい」
と檄を飛ばしてくる。
いや、昨日と違って肘までいれてるんだけどと思いながら。
そして1日が終わると
「天才やん!!
俺っちなんて肘まで入れれるようになるまで一週間かかったん。
めっちゃ天才やん!!」
さっきまでとは打って変わって褒めちぎる。
僕はそれに唖然となる。
どうやらロバムなりの飴と鞭らしい。
なんとなく今まで過ごしてきた中で分かってきた。
しかし未だに慣れないものなのだなと思う。
そして、1ヶ月かけてようやく全身が入るようになった。
でもまだ修行が続く
何せ中心部まで行かなければならない。
中心部までの距離はだいぶある。
そこで1年間過ごさなければならない。
でも現状、端っこで1時間も持たない。
こんな状態で1年持つだろうかと思うものだ。
それから半年、ようやく中心部まで行くことに成功した。
めっちゃ感動した。
そして1人で無の世界を過ごさなければならない。
今は不思議と熱さを感じない。
なんかこう「炎の卵」と一体になった感じだ。
感動しいの僕はとても感動していた。
1時間ぐらい感慨に耽っていると(あくまでも体感時間)、さて次は何をしようかと思う。
中で1年間過ごすとなると以外と暇だ。
もっと熱さに苦しむのかと持っていたから。
確かに気にすれば熱くは感じる。
今は感動ハイで熱さは言うほど感じない。
「風の卵」の時のような苦しさはない。
取りあえず瞑想してみるかと1時間してみた。
・・・
1時間経って瞑想が終わった。
他にやることがない。
取りあえず妄想力で見えない敵と戦ってみた。
持ってきてないが妄想力で見えない相手とトランプや花札をした。
とにかく1日目は暇で暇でしょうがなかった。
もうやることがないので寝ることにした。
次の日、「熱い!!」と叫んで目が覚めた。
とんでもない暑さだ。
一瞬、自分が燃えているのかと思うほどに。
まぁ、「炎の卵」の中だから燃えているに等しいんだけど。
昨日感じなかった熱さが再燃している。
どうゆう事だ。
昨日は感動ハイだったからか。
それとも気が抜けたからか。
そういう言えばロバムはこの中で寝てはいけないと言っていたっけ
すっかり忘れていた。
「風の卵」の中では寝てなかったよな。
そう反省しつつじゃぁ戻るかと言うわけにもいかない。
精神統一をすれば暑さを忘れる。
そう文字どうり、心頭滅却すれば火もまた涼しだ。
僕は一生懸命瞑想した。
5日もすれば元の熱さに戻った。
気を抜けばあの暑さが戻ってくる。
最初の日、楽勝だと持ったことが今は恥ずかしい。
もう二度と寝ないことを肝に銘じこの中で過ごすことになった。
常に気を張らなければならない日常は結構疲れる。
気が緩めば猛烈な暑さが自分責めるからだ。
その中で自分の癒やしを求めなければならない。
ある日は大声で歌を歌い、ある日は武術の訓練。
そしていつも帰ったら何しようかを妄想する。
何せ寝ないと1日が長い。
暇な時間は楽しまなきゃやってられない。
ちなみに時間感覚ははっきりしている。
燃えない腕時計にはここに入ってからの日にちのカウントダウンがあるから。
あと何日我慢すればいいのか一目で分かる。
もちろん今が何月何日何時何分かは腕時計を見れば一目瞭然だ。
長いこと寝ないと結構ハイになる。
何せ眠気が襲うと、同時に熱波が襲ってくる
もう体もボロボロだが寝ることは出来ない。
結構身体がが辛い。
今は妄想力すら出てこない状態。
一瞬このまま死ぬのかなと思うぐらいだ。
精霊はどんなことがあっても死ねないのだけど。
「風の卵」でもこんなことがあったなと回想してきた。
そしてようやく一年が過ぎた。
やっと出れると思うと泣けてくる。
足取りも自然と速くなっていた。
外に出ると村の人全員で出迎えてくれた。
その中にロバムもいた。
ロバムは
「よう頑張った。
やっと帰れるで」
と言葉少なく涙ながらに僕の肩を触った。
僕もそれを見てめちゃくちゃ泣いた。
ようやく帰れる。
今は早くリャカヤの顔を見たい。
そう思う今日だった。




