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火遊び

 ようやくマグマの中に自由に潜ることが出来るようになった。

普通にクロールで泳げるようになったし1メートルぐらいだったら潜れるようになった。

1メートルと言っても人間の時の感覚なので実際にはおよそ8㎝ぐらいなのだそう。

実際に1メートル潜るのにはかなり苦労している。


 ロバムは

「俺っちらは人間とは違う。

何せ酸素ボンベを背負って潜る必要性がないからな。

まぁ、まず人間はマグマの中に入らないか」

と笑って話していた。


 実際に今はマグマ自体を熱いと感じない。

潜ろうと思えばいくらでも潜れそうな感じだ。

ただ、潜れば潜るほど霊素というか何というかそういったものが濃くなっていく感じ。

少しでも深く潜れば潜るほど息苦しくなるし熱くてたまらない。

僕はたまらず火面かめん(水面の火バージョンみたいなものだと思ってください)から顔を出す。

その度にロバムは残念そうな顔をする。


 「あんな、最低でも10メートルは潜れなあかんのや。

目ぇ、開けて潜れるようになったのはかなりの進歩や。

でも1メートルも潜れんことには話にならん。

俺っちらは人間の12分の1のサイズや。

人間時にんげんときの感覚で言うと12メートルぐらいかな。

炎の国行くんは大体、10メートルぐらい。

前の感覚で言うと120メートルぐらい潜れなあかんのや。

まぁ、10メートル言うんは俺ッちの感覚で実際には何メートルか知らんけど」


 修行の後のマッサージでロバムはいつも笑いながら冗談交じりにそう話しかけてくる。

僕は修行の疲れでただただ聞き流すのみだ。


 ここに来てからロバムのいろんな事が知れた。

と言うのもロバムはめちゃくちゃおしゃべりで聞きもしないのにいろいろとプライベートなことを教えてくれる。

僕は僕で娯楽のないこの世界でロバムのしゃべりが唯一の楽しみとなっていた。


 ロバムはとにかく野球が好きだ。

彼は実際甲子園を目指していたらしい。

実際の腕はハテナだが野球の知識は豊富だ。


 僕自身は野球の知識ゼロの人間だから彼がどれほどの腕前なのかプロでも通用したのかは全く分からない。

大体、最初に「甲子園って何?」と聞いて彼を呆れさせたほどだ。

それでも長い間、野球の話を聞かされるとある程度知った気になる。

その知識はほとんどプロ野球の話が中心で彼が野球部だったときの話は皆無。

ていうかその話を聞こうとするとすぐ別の話をする。

僕の想像だとそんなに野球は上手くなかったと推察できる。


 また、彼はゲームが好きだ。

オセロや将棋、囲碁、麻雀、サイコロ、トランプ、花札など僕が修業しているときに暇なのかわざわざ、作って持ってくる。

あ、言っておくけどもちろん健全で賭けることなどしていない。

大体、僕ら精霊にお金という概念がないし負けたら何か罰があるとかそういうこともない。

健全な娯楽だ。


 そういう娯楽でリフレッシュしながら修行に明け暮れている。


 そして、実際に1メートル潜れるようになったときロバムはめちゃくちゃ喜んだ。

そして炎のケーキを作って僕を祝ってくれた。

そのケーキは僕の背丈を超えるほどのものだった。

彼は悪乗りが好きでそのケーキを食べきるまで僕を許してくれなかった。

僕は3日掛けてそのケーキを食べきった。

ロバム自身が負けが込んでいたこともあってその腹いせもあったのだろうか。

とにかく泣きながらそのケーキを食べた。

(ゲーム自体は健全なもので何も賭けていません)

ロバムは僕が食べきるまで終始真剣な顔だったのが気になったのだが。


 それから1週間後、僕に変化が訪れた。

何もしていないのに身体がめちゃくちゃ熱い。

風邪で熱を出したときのような熱さだ。

燃えるような熱さ。

ロバムはそれを見て

「やっとその状態になったか。

あのケーキを食べて今の状態になるまで時間かかりすぎや。

あれは霊素がたっぷり貯まったケーキや。

ほんまは1日で食べ切らなあかんのやけど、3日もかかったからな。

効果が出るのに時間がかかったんはしょうがないか」


 僕は何が起きているのか彼に聞いた。

「なぁに、これも修行の一環や。

今の身体の熱さに慣れたら一気に炎の国まで行けるようになる。

今までこれをしなかったんは身体が濃い霊素に耐えられるかどうか見極めとったんや。

俺ッちの判断で今がその時期だと判断した。

1ヶ月ぐらい動けんし熱にうなされるやろ。

それに耐えれるようになったら炎の国に行くで」


 彼の言うとおり、僕は1週間動くことが出来なかった。

その間、彼は懸命に僕の看病をしてくれた。

たまに「まだ早かったんかな」とぼそっと言う独り言にゾッとしていたが。


 僕の看病は基本的に病人の看病と変わらない。

薬を飲まされたり点滴をしたり、その場その場の対症療法が中心だ。

僕が高熱にうなされているときは冷たい炎で僕を癒やしてくれた。


 そして1ヶ月弱、僕はなんとかこの修行をマスターした。

つまり、動けるようになっていた。

まだ、若干熱があるような感じがあるがなんとか元通りになったような気がする。


 「まだ、熱があるん気がするんは気のせいや。

元々、炎の精霊は熱いしな。

それだけ動けるようになったんなら炎の国に行けるやろ。

ほな行くで」

と言って彼はマグマに潜っていった。


 この展開にしばらく呆気にとられていたが

「どうしたんや、俺ッちだけ言っても何の意味も無い。

いてこな」

そう言われて僕は慌てて飛び込んだ。


 久しぶりのマグマはとても熱くとてもじゃないがすぐに上がった。

「おかしいな、そんなわけないんやけど。

そや、プール入る時みたいに足から慣らしてゆっくり入りや」

僕はそう言われてその通りにした。


 そうしたら、不思議とマグマの中に入ることが出来た。

「これから長旅や。

何日かかるか分からんけど炎の国に行くで」


 僕は思わず10メートルちゃうんかいと心の中で叫んだ。

でも抗う術もなく彼にいて行った。


 炎の国とはどういった所なのか楽しみにしながら。

これだけ辛い思いをしながら行くのだから楽しいところなのだろうと勝手に想像しながら。


 ただ、潜り始めてから1週間、一向に着く気配がない。

もう楽しみにする余力は僕には無い。

とにかく早く着いてくれと僕は思っていた。

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