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潜炎(せんえん)

  ようやくマグマの中に肩まで浸かれるようになった。

ここまでだいぶ時間がかかったがようやくだ。

最初はとても熱くて入れなかったが今では温泉に浸かるレベルにまで熱さを感じなくなっている。

それでも少し熱いが。

でもやっと2,3時間は浸かれるようになった。


 ロバムは

「やっとやな。

それでもまだ足りない。24時間肩まで浸かれるようになったら次の段階や」


 僕はここまで来るのにどれだけの時間を費やしたか分からない。

しかし、ムカつくのは僕がマグマの中で我慢している横で暇なのかロバムは泳ぎまくっている。

それもこれ見よがしに。

背泳ぎ、バタフライ、平泳ぎ、クロールと様々な泳法だ。

大体、温泉で泳ぐのはルール違反だろう。

まぁ、ここは温泉ではないけど。

彼が泳ぐと流れが起きやっと我慢が出来る暑さになったと思ったら中をかき回され本当に迷惑を被っている。

彼がじっと待っていてくれれば2,3ヶ月は早くこの境地に着いただろう。

そう思うとめっちゃムカついている。


 それから1ヶ月。

僕は24時間マグマの中に肩まで浸かることに成功した。


 ロバムは

「思ったより早かったな。

まぁ、ここからが試練やけど。

ここからは頭まで浸かってもらう。

そしてその状態で24時間浸かれるようになったら「火の国」へ連れて行く。

これが最後の試練や。

頑張りや」


 そういわれた僕はその場で頭まで浸かった。

しかし、10秒と持たずに僕は頭を上げた。

息が続かないのだ。


 ロバムは

「多分、すぐに頭を上げたのは息が続かないと感じたからやと思う。

でもな俺っちらは精霊や。

元々息なんてしてへん。

そう感じるのは前世の人間の時の記憶からや。

その証拠にマグマの中で思いっきし深呼吸してみ。

すぐに慣れるから」


 僕はそう言われてマグマの中で思いっきし深呼吸してみた。

今、考えてみると考えが甘かったと思う。

口車に乗せられたというか。

ただのマグマだったら確かに僕は何も感じない。

でも今入っているマグマは炎のエネルギーの塊みたいの物。

だから僕は熱さを感じるのだ。

そんな中でこのマグマの中深呼吸をしてみると答えは明白だ。

全身を巡る熱さの塊。

体の中の全てが焼ける感じがした。

マグマは喉から入りそれを吐くことすら出来ずに全身を巡る。

それが一瞬の出来事だったのだが僕には永遠の出来事のように感じた。


 そして気がつくといつもの休憩所で横たわっていた。

僕が目を覚ますと彼は

「悪い、悪い。

ごめんな。

まだ段階が早かったみたいやな。

今日はよう頑張った。

後は明日にしぃ」

と爆笑しながら話した。

まるで僕がドッキリにかかったみたいに。


 僕がちょっとムカついて抗議しようとした。

しかし、喉が焼けたせいか声が出ない。

ロバムは

「悪気はないんや。

でも、炎の属性があるのにあんな溺れ方したら笑うしかないやろ。

炎の精霊がマグマで溺れるなんて」


 いや、そっちの常識は知らない。

こっちとら大変な思いをしたんだからもう少し心配してくれても。

と言っても溺れてから目が覚めるまでロバム曰く10分も経っていないのだとか。

精霊の時間感覚は当てにならないけど。


「あぁ、しばらく声も出せないと思うけど取りあえずこれを飲んどき。

1時間おきが目安やけど喉が渇いたと思ったら飲めばいいから。

精霊に味覚はあらへんけどこの薬は味がするみたいや。

俺ッちはちょっと辛い感じかな。

ショウガのエキス飲んでるみたいな。

感じる味は前世の記憶に基づくものらしい。

それを飲むと半日ぐらいで声が出せるようになるから」


 僕はだまされたと思ってそれをのんでみた。

僕はそれを甘く感じた。

と言っても美味しい甘さではない。

甘ったるい感じ。

蜂蜜をそのまま飲んでいるような。

一口付けただけで僕はそれを飲むのを止めた。


  ロバムは

「不味いやろ。

どういう味したかは知らんけど。

でも我慢して飲むんや。

取りあえず1時間で1リットル。

12時間で12リットル飲みきったら治療は終了や」


 あれ、最初と言っているいることと違うんだけど。

とにかく僕はその生温い液体を半日以上掛けて飲みきった。


 そして、飲みきった後のロバムの一言が

「よう飲みきったな。

あんなん1リットルも飲めれーせん。

大体1ミリリットル飲んだだけで治癒するんやから」

また大笑いして言った。


 どうやら彼のドッキリにまたかかったようだ。

僕は

「なんでこんな酷いことが出来るんですか?」

と問いかけた。


 ロバムは

「お、声出せるようになってるやん。

体も治ってきてるし。

よっしゃ、またマグマの中に入るぞ」

と僕の質問には答えず誤魔化すように僕をマグマの中に引きずり下ろした。

そしてさっきの繰り返しになった。


 何回か繰り返しているうちに目が覚めるのも早くなってきた。

目が覚める少し前、ロバムの独り言が僕の耳に流れてきた。


 「これでも心配してるんやで。

後輩の面倒見るんも初めてやしな。

どう接したらええか分からせん。

今の修行は炎のエネルギーを体の中に取り入れる訓練や。

熱いのは我慢せなあかん。

熱さを感じなくなるまでこの修行を続けないとあかんのや。

辛いと思うけどほんまに辛抱や。

ほんまに苦しい思いをさせてごめんな」


 ロバムはそんなことを考えていてくれていたのかと初めて思った。

しかし、完全に目が覚めると爆笑して誤魔化していた。

それもどうかと思うけど。

まぁ、僕のことを思ってやっていることなんだと改めて認識した。


 そして僕が1時間ぐらい潜れるようになるとロバムは

「そういえば目はずっと閉じたままやんな。

目を開けんと修行は終わらせんよ」

そういわれ僕は目を開けた。

その後は想像通り。

ロバムは僕を引き上げてくれて特性の目薬をさしてくれた。

そしてロバムは

「まだまだ「炎の国」までの道のりは遠いな」

と呆れて僕に言った。

笑いもせず。


 ロバムの優しさ、面倒見は本当にたいしたものだと思う。

しかし、いつもみたいに笑ってくれたっていいのに。

いつも笑っている彼が呆れ顔になっているのを見て僕も嘆息した。

本当に道のりが遠いのだと。

(実際には今、目が見えない状態なので想像してものを言っているのだが)


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