溶岩
なんとか修行が終わった。
やっとというか、なんというか。
本当に凄い修行だった。
僕の修行相手であるロバムは手加減を知らない。
そして僕が挫けたりすると
「そんなことでは喧嘩には勝てないぞ!!」
と檄を飛ばす。
僕は別に喧嘩辞退したいとは思わないのだが。
ロバムは基本ヤン気質。
簡単に言えば昔で言う暴走族気質と言った所か。
僕の元々いた世界ではそういう不良が跋扈していた。
僕はこの世界に来て大分経つから今そういった不良がいるのかは知らないが。
こう言ってもピンとこない人には体育会系気質と言った方が伝わるかも知れない。
体育会系の人には悪いが。
何が言いたいかというとロバムは基本根性論。
理屈もへったくれもない。
修行のコツとかをわかりやすく説明してくれればいいのだがロバムは基本そんなことは出来ない。
だから修行に苦労する。
ロバムはロバムで何で僕が修行に苦戦するのかを理解出来ない。
僕にとってロバムはとても相性が悪い。
と言っても喧嘩すらしないのだが。
仲はいいと思う。
但し、会話の半分もかみ合わないことが多いが。
そんなこんなで修行は半年に及んだと思う。
そして今日、ようやく旅立ちの日になった。
と言ってもすぐに帰ってこれるのだが。
ロバムは
「気ぃ、引き締めて行きや。
あんたはまだ素人レベル。
俺ッちとは格が違う。
今から行く「炎の国」は色々と厳しい所や。
生半可な気持ちで行くなよ」
彼はいつになく真剣な顔をして行ってきた。
旅は基本徒歩だった。
これは飛ぶのが苦手な僕に会わせてくれた訳ではない。
ロバムは
「今から行く所は山の上にあるんだ。
しかもかなり険しい山。
もちろん、人間なんかが登れる訳がない。
ご主人は別だがな。
その山はなぜか精霊すら飛ぶことが不可能なんだ。
羽根を使ってもな。
だから精霊がその場所を訪れるには基本歩きしかない。
日頃俺っちらは足を使わない。
あんたは別だが。
だから足腰が弱っているんだ。
足腰を鍛えないとあの山は登れない。
だから歩いて行くんだ」
飛べない僕にとっては有り難いけど。
ロバムは続けて
「でも風の精霊でも飛べない奴がいるんだな。
俺ッちのイメージだと風の精霊って天使みたいな存在のように思ってたぜ。
空を飛び交うイメージ。
空の国の住人みたいな」
彼は悪気はないのだと思うがちょっと気に障る。
人間だっていろんな人間がいるのだから精霊だっていろんな精霊がいるに決まっているだろうと心の中で思い反論はしなかった。
だって色々と面倒いし。
精霊は本来、気温などは感じない。
だから冬の寒い時や夏の暑い時人間みたいに困ることはない。
暖房や冷房などは(この世界に)生まれてこの方使ったこともない。
しかし、「炎の国」に近づくにつれて暑さを感じるようになってきた。
ロバムは
「どうだ、暑くなってきただろう。
精霊でも暑さを感じるんだぜ。
これは炎の霊気が大分強まってきている証拠。
普通の人間だったら焼け死んだっておかしくない暑さなんだぜ。
俺っちらは普段の環境では暑さを感じないのにな」
普段は見ない温度計を見ると80℃を示していた。
なるほど暑いはずだ。
ロバムは
「これからの行程を説明するぜ。
大体精霊の国、これから行くのは聖地なんだがお前さんの行った「風の国」と同じ仕組みになっている。
まずは「迷いの森」だ。
そこは試練の森と言った方がいいかもしれない。
そこで出口のない森を彷徨ってもらうことになる。
俺ッちもこの森の仕組みが今ひとつ分かっていない
どうやったら出れるのか。
どういった条件で出れるのか。
まぁ、毎回なんとかなっているんだけど。
それに何処で出現するのかも分からない。
まぁ、山の麓に着く前には出現するんだけど。
とにかくこれからが大変だから頑張りぃや」
それからしばらく歩いた。
しばらくするとロバムは
「今日は野営や。
俺っちらは睡眠を必要としない。
でもこれからが大変や。
ここでしっかりと体力を養ってゆっくり休むんや」
思えば一週間寝ずに歩いていたっけ。
僕はロバムの優しさに甘えた。
でもそれは優しさではなかった。
少なくとも僕の中では。
ロバムは
「おい、あっちにええ温泉があったよ。
一緒に入らへんか」
僕は温泉と聞いて目の色を変えて突っ走った。
でも様子が少し違った。
僕は思わず
「これ、溶岩じゃないの?」
と問いただした。
ロバムは
「当たり前やんか。
溶岩以外何に見える?」
と逆に聞いてきた。
ロバムは続けて
「「迷いの森」に入る最後の試練や。
この溶岩風呂の中にどっぷりと浸かるんや。
お風呂みたいに。
そうやな。
大体1時間ぐらい浸かれたら成功や。
このぐらいのことが出来んと「炎の国」に入ることは無理や」
と言いながらロバムは溶岩の中に飛び込んだ。
僕は
「熱くないんですか?」
と聞いてみた。
ロバムは
「そんなん熱いに決まっとるやん。
やせ我慢や。
ちなみにこのお風呂の温度は大体1000℃ぐらいや。
炎の霊気を含んでいるから精霊でもめっちゃ熱い」
正直僕はひいていた。
絶対やばいじゃんと心の中で思いながら。
ぼくのこの様子を見てロバムは
「大丈夫、精霊は死ぬことはない。
火傷もしないし。
我慢をすればだんだんと慣れてくる。
人間とは違うんや。
最初は10分でもいい。
1分でもいい。
徐々に慣れていくんや。
そして風呂から上がったらとことん睡眠や
そうすることで炎の霊気にに慣れてくるんや。
俺ッちの計算では大体1ヶ月ぐらいで1時間以上入ることが可能になるはずや。
と言ってもあんたの霊気が低いから計算通り行くか分からんけど」
どうやら僕は1ヶ月以上拷問に耐えなければならないようだ。
正直、これからが思いやられる。




