炎の国へ
今日もいつもの1日が始まると思っていた。
いつものように朝起きて色々な所に出掛ける。
ちなみに普通の精霊は寝ることを必要としないが僕らはなぜか睡眠が必要となる。
なぜかは分からないが。
一説によると僕らは前世の記憶持ち。
人間だった頃の習慣が抜けないのではないかと仲間が語っていた。
精霊である僕らは基本やることがないから暇つぶしが主だ。
人間の書物を読んだり出掛けて人間の様子を見たり。
僕は基本、こちらの世界の人間観察が好きだったりする。
精霊である僕らは人間たち以上に知識を持っている。
だからこれ以上勉強する必要性はない。
でも人間は多種多様でいろんな人がいる。
ご主人の店にもいろんな人が来るし街にもいろんな人がいる。
見ているだけで飽きない。
そうそう、それに僕らはご主人とその旦那さん以外には見えないので何処に行っても驚かれる心配は無い。
ある意味自由なのだ。
でも門限があるのが凄く面倒い。
門限を破るとご主人が迎えに来るのだがどれだけ遠くても迎えに来る。
どうやら精霊の探知能力があるらしい。
どんなに自由だと言ってもそこには限界がある。
僕ら精霊の本来の役割はご主人のサポート。
それはもう命に代えてでもと言った所。
(一応僕らは不老不死らしいが)
ところがご主人はかなりの能力者。
僕らがサポートしなくても良いくらい。
だから僕らが活躍したことはこの街に来てから一度も無い。
「ちっちっち。
それはお前さんがまだ半人前だからだよ」
ある精霊にそう言われた。
「ところで気持ちよく朝を迎えて良い気分なのに何で僕をこんな所に呼び出したの?」
と僕は改めてその精霊に尋ねた。
その精霊は
「それは俺ッちがお前さんに用があるからに決まっているからじゃないの」
そうみんなは気づいていると思うけど話は冒頭に戻ります。
つまりいつもの1日が始まると思った冒頭に。
そして今、炎の精霊ロバムに人気のない所で絡まれています。
「そういえば、お前さんがここに来てからあまり話す機会が無かった。
この機会にいっぱい話そうぜ。
どうせ暇なんだろう」
僕は彼が少し苦手だった。
どちらかというとヤンキー気質。
出来れば一生関わりたくないタイプだ。
彼は続けて
「なんか俺ッちを誤解しているように思う。
こう見えて俺ッちは誠実な奴なんだぜ」
誠実な奴と自称する奴に誠実な奴はいないと思うが。
「昨日ご主人様に相談されたんだ。
お前さんはまだここに来て日が浅い。
俺っちらと比べると。
ご主人様曰く経験が足りないのだと。
だから俺ッちがお前さんの経験値を上げる手助けをしないとと言う話になってな」
本人を差し置いて何で話がトントン拍子に進むのか。
「と言う訳でお前さんを「炎の国」に招待しようと思う」
「なんでそうなるのさ。
話を勝手に進めておいて。
僕に選択権はないの?」
「ある訳無いだろ。
こっちでは新人なんだから」
「僕は体育会系のノリは苦手なんだよ」
「流石前世は学者先生と言った所か。
でもな、この(精霊の)世界では学者先生は要らないんだよ。
なぜならお前さんも知っての通り既に世界の理を俺っちらは知っているから。
学習する必要性はないんだ。
じゃぁ、俺っちらは何をすべきかというとそれは自らの能力を高めること。
お前さんも炎の能力を持っているならそれを高めなきゃ。
幸い、俺っちらは時間という感覚は無い。
精霊なんだから。
もうご主人様の許可は得ている。
今から行くぞ。
何も用意する必要性はない。
俺っちらは精霊なんだから。
着の身着のままで行くぞ!!」
「ちょっと待ってよ。
リャカヤにも連絡しとかなきゃ。
急にいなくなったら困るだろう」
「その点は心配をするな。
お前さんのパートナーもきっと同じ目に遭っているだろうから。
さぁ、男同士の旅出発だ。
向こうは女同士気兼ねなくやっているだろうし」
僕の今日の予定はことごとく崩れた。
今日から苦手なタイプのロバムと一緒の旅だそう。
ロバムは
「そうそう、そういえばお前さんの炎の能力を見のを忘れてたぜ。
ある程度の能力が無いと門前払いだからな。
さぁ、ここはバリアしているから心置きなく炎を放ってくれ」
そう言われると僕は思いっきり炎を出した。
その炎の凄さにロバムは呆気にとられている。
僕は自慢げに炎を出し終えた。
ロバムは
「驚いたぜ」
と感嘆していた。
しかし次の一言が僕を地獄に落とした。
「本当に驚いたぜ。
精一杯出したつもりだろうがこんなに弱々しいとは。
多分普通の炎の精霊よりも弱い。
こんなんでは「炎の国」に入るどころか問題外だ。
お前さんの風が凄いのは知っている
そりゃぁ、本職は風(の精霊)だからな。
でも炎の能力がこんなに弱々しいとは。
多分他の能力も同じなのだろう。
こりゃぁ、骨が折れるぜ。
まぁ、お前さんは筋が良いらしい。
旅の道中でなんとかなるだろう。
さぁ、出掛けるぞ」
なんか楽観的なんだけど。
こっちとら不安でしかない。
それにリャカヤとしばらく会えない日々。
凄く寂しい。
それにしばらくは苦手なタイプのロバムと一緒。
大体、僕は人付き合いが苦手な方だ。
この場合は精霊づきあいと言った方が良いのだろうか。
この旅は上手くいくのだろうか。
ロバムは出発直前炎の精霊とやらの本気を見せてくれた。
正直、あまり覚えていないが。
なぜならロバムの気迫と炎の精霊の本気とやらにビビって気絶してしまったらしい。
正直、感覚だけは覚えている。
見てはいないが。
「最低でもあれぐらいは出さなきゃな」
とロバムは言っていたが正直無理、出来る気がしない。
今はどんなスパルタ修行が待っているのかと恐怖と戦慄におののいています。




