女神
長い旅路だった。
家を出てから約半年。
ようやく目的地に着いたのだ。
本当に長かった。
本来ならほっと一息ついてもいいはずだがなぜかご主人のイザルラは殺気立ていた。
無理もない現在謎の竜との戦闘中だからだ。
事の経緯を説明しよう。
目的地に着いたイザルラは
「約束通り精霊を連れてきた。
遅くなったがこれで全ての約束を果たすことが出来た。
よかったら顔を出してくれ」
と大声で叫んだ。
しばらくすると
「誰だ!?
我を長い眠りから覚ます輩は。
許せん!!
成敗してくれよう」
とどこからともなく大きな声が聞こえてきた。
そして現在である。
なぜかご主人様は僕たち精霊の力を使おうとしない。
そうしないと倒せないような気が。
それでもご主人様はかなり検討している。
そんな時間が小一時間と続いた。
そしてしばらくすると竜が笑い出した。
そして笑いながら人型へと変化していった。
「ハハハッ、久しぶりのくせに武術の力は落ちてないじゃない。
全くおかしな奴ね」
イザルラは
「全く。
好戦的な性格は相変わらずね」
と2人が笑いながら会話していた。
その竜は
「精霊の2人は久しぶりね。
覚えているかしら。
あなたをこの世界に送り出した者だけど」
それを聞いて僕は思い出した。
そういえばどこかで見覚えがあると思った。
他人のそら似とも思ったがやっぱり違った。
僕が死んでから始めて会った女神その人だった。
それにしても初対面時の印象はかなり清楚な感じだったけど真実は恐ろしい。
こんな恐ろしい人だったとは。
しばらく僕らは凍っていた。
女神の恐ろしさに。
そして間を置いて女神は
「まずは改めて自己紹介するわね。
私の名前はウィーゼ。
風の精霊の王です。
これからあなたたち精霊のことについて説明しますね。
その前に私とイザルラのことについて。
私とイザルラは大の親友なのです。
私はこの世界では風の精霊王として名が通っています。
他にも属性によって私を含めて5人の精霊王がいます。
イザルラは5人の精霊王と友達になったこの世界で唯一の人です。
大体、精霊自体普通の人は見ることが出来ないのですが。
そして精霊王ともなると我々のエネルギーは強大で普通の人間は私たちの目の前では消滅してしまうぐらいおなのです。
なぜかイザルラは私たちのエネルギーを無効視する属性を生まれながらにして持っているようですが。
だからここ一体は人間は立ち入り禁止なのです。
私たちも無用な殺生はしたくないので」
一息ついてから
「それではあなたたちに対するこれからのことを話しましょう。
これからしばらくあなたたちは私のもとで修行をしてもらいます。
なぁに、1ヶ月もすれば終わる内容です。
そんな難しいことをする訳ではありません。
あなたたちは風の精霊なのでその最終的な修行をするまでです。
私は言いましたけど風の精霊王です。
そしてあなたは私に仕えるレベルの精霊なのです。
それなりの力が無ければ。
そして大親友イザルラに仕えるのです。
彼女を守るために。
そのためにも私の加護を受けれるレベルにあなたたちを仕上げます。
覚悟しておいてください」
と僕らに檄を飛ばした。
それからの1ヶ月は文字通り地獄だった。
僕らは1ヶ月間、まずは飛ぶことを義務づけられた。
リャカヤは飛ぶことになれているからいいけど僕にとってはそれだけでも苦痛。
しかも1ヶ月間地に足を付けてはいけない。
ずっと飛んだままだ。
さらに強風の中での生活。
「風の卵」でのことを思い出す。
そして厄介なのはその場に止まり続けること。
これがとても難しい。
普通あり得ないレベルの風速の中でそこに止まり続けることの困難さ。
しかも何も捕まるものが無い。本当に大変だった。
でも慣れるもので一週間もすれば出来るようになっていた。
そこから自分が起こす風の制御、威力の増大をテーマに女神様の訓練内容を繰り返す日々が続いた。
僕らは普通の風程度では何も感じない。
台風のレベルでも。
でもこの中は違う。
恐らく風のエネルギーの塊なのだろう。
まるで激流を耐える魚のようだ。
そんな中僕らは修行を続けるのだ。
並大抵のことではない。
でも利点もある。
そんなエネルギーの塊の中にいる訳だから僕たちが制御するエネルギーは倍々ゲームのように膨れ上がった。
修行が終わる頃には信じられないようなエネルギーを身につけることが出来たのだ。
実は僕らがした修行は普通の精霊が出来ない高度のレベルの修行なのだそう。
普通の精霊は1日も保たないのだとか。
それにしても不思議なことがある。
それはイザルラのことだ。
この強大な風の中、彼女は女神様とくっちゃべったり普通の生活をしていた。
なぜこの強大なエネルギーの中、普通に出来るのかかなりの疑問だ。
彼女は一体何者なのか、人間だけど実に不思議な存在だ。
そして、僕らは修行が終わり一番先に思ったことは早く家に帰って暖かい布団で寝たいという事。
普通の精霊は寝ないが僕らは寝るのだ。
しかも1ヶ月間、寝ることは禁止されていたから。
それにしてイザルラはあの中でも普通に寝ていた。
イザルラ、恐るべしである。




