旅
その日はいつものように僕らの日常が続いていた。
まったりとした日々だ。
突然ご主人様は旅に出ようと言い出した。
いきなりのことで僕には何のことか分からなかった。
でも周りは何かを察したような雰囲気だった。
精霊仲間のロバムは僕に向かって
「ようやくこのときが来たようだな。
俺っちのときも大変だったけれどきっと面白い冒険が待っている。
修行だと思って楽しんできてくれ」
えっ!!
僕たちだけが行くことになるの?
ていうか、いつものようにご主人様たちだけではないの?
そういえば何人か精霊を連れていたような。
僕は前に精霊仲間に言われたことを思い出した。
カナールの言っていたことだ。
カナールは
「僕たち精霊はご主人様に認められて一人前なんだ。
精霊はそりゃぁ、1人でも生きていけるけれど生き甲斐を見つけるのは人間と一緒にいるのが1番。
僕たちみたいに精霊としての力が強大なものほどなおさらね。
旅のお供に僕たち精霊はご主人様に指名されるんだ。
そして精霊の力を使ってご主人様や人間の人たちを助ける。
それだけで生きていることを実感できるんだ」
と言っていた。
そういえば僕たちはこの街に来てから一度も冒険らしいことはしていない。
そして案の定、僕とリャカヤは旅のお供について行くことになった。
僕は普段からご主人様のことをイザルラと呼んでいる。
ここからはそう呼ぶことにします。
イザルラは僕とリャカヤを集めて
「今回の旅は私とあなたたち3人でします。
目的はある街での竜の討伐。
私はあなたたちの力を借りて竜を討伐します。
私にとってもあなたたちの力量を見る良い機会です。
あなたたち精霊は日頃から研鑽していると聞いています。
どうか私にそのお力をお貸し下さい」
日頃から研鑽って。
僕は昨日も一昨日も自分の家でボーッとしていただけだけど。
リャカヤも僕と一緒にまったりしていたし。
正直、研鑽など何一つしていない。
買いかぶりすぎだ。
ともあれ僕たちは旅行の準備を仕出した。
と言っても僕たち精霊は身一つで済むのだから何も用意はしていないのだが。
人間は大変だ。
お金も必要だし、着替えや女性だから化粧品も必要。
精霊と違い食べるのも大事だから食料品や自炊の道具も。
イザルラはかなりの大荷物を背負うことになった。
旅行当日は夜明け前の出発となった。
何しろ目的地はかなり遠いらしい。
と言っても1週間もすれば着くとのこと。
そして旅行方法は徒歩だ。
本来は列車に乗りたいのだが目的地は駅のない場所。
しかも車でも行くことが困難な場所らしい。
(一体どういう所やねん)
だから徒歩が1番な有効な手段らしい。
ていうかイザルラは乗り物に乗るのが苦手だから歩いた方が楽だとも言っていた。
そういえばイザルラは体力馬鹿だったっけ。
僕はそう思い納得した。
そういえば約束事があったっけ。
町中や人のいる場所では絶対にイザルラに話しかけないこと。
これは絶対なのだそうだ。
と言うのも普通の人間には僕たち精霊は見えない。
ある程度高位の能力の持ち主でしか精霊を見て話すことが出来ないそうだ。
だから普通の人からはイザルラと僕らの会話はかなり異様に見える。
元の町の人たちはイザルラは精霊持ちだと知られているから会話をしていても何も思われないが見知らぬ土地の人たちは僕らとの会話は一種異様に見えるだろう。
だから僕らは気を遣い出来るだけイザルラとは話さないようにしなければならない。
さて僕らはどうやってイザルラと旅をするのか。
なぜその疑問を書くのかというと僕らは人間よりも遙かに小さい。
つまり同じ徒歩でも歩幅が愕然と違うのだ。
つまり彼女の歩くスピードに連いて行くのがかなり困難なのだ。
その疑問を解決するのは非常に簡単だった。
リャカヤは非常に速いスピードで飛行が出来る。
人間の歩くスピードで飛行するなんて朝飯前だ。
だからリャカヤは飛びながらお供することに決まった。
問題は僕だ。
そりゃぁ、一瞬ならかなり凄いスピードを出して飛ぶことも可能だが元来飛ぶことすら苦手です。
出来れば飛びたくない。
だからイザルラと相談の結果、彼女の肩に乗って旅をすることになった。
リャカヤからは楽をしてとブーイングものだったが。
しかし、人間の肩に乗ることは思ったよりも至難の業だった。
言うなれば馬に乗ったことのない人が馬に初めて乗るようなもの。
バランスが大変なのだ。
何度も落ちそうになる。
(実際には何度も落ちているのだが)
その度に旅は中断。
こんなことなら飛んだ方がまだましなような。
とにかくいろんな方法を試した。
そして今、リュックの肩紐にしがみついています。
とにかく夜明け前に街を出ることが出来ました。
今は山の中。
ていうか小高い山の頂上。
とっても綺麗な日の出を見ることが出来た。
鮮やかで真っ赤な太陽。
そういえばこの世界に来て初めて見る日の出かも知れない。
こんなに長いことこの世界にいるのに。
なぜか涙が出てきた。
理由は分からない。
もう人間に戻れないのだとか、精霊としての人生を少し寂しく思っていたのかよく分からない。
とにかく日の出をを見て涙が出てきたのだ。
それも止めどなく
見るとリャカヤも泣いていた。
理由は分からない。
とにかくいろんな感情が溢れ出たのだと思う。
新しい旅はどんな旅になるのか分からない。
短い旅ながらこれからが楽しみです。




