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 この人間の街に来て大分経つ。

季節は夏の終わりらしい。

この地域では夏の終わりから秋にかけて台風みたいな嵐が来るという。

今まで乾燥していた分を取り戻すように。

そして冬にかけて雨が雪に変わり大変な豪雪地帯へと変貌する。


 と言ってもまだ季節は夏。

ご主人様であるイザルラとゴーディは暑さでへばっている。


 所で今日は朝からそわそわしている精霊がいる。

関西弁の雷精霊のカナール(男)とライーズ(女)だ。

なにやら2人で相談しているよう。

この前の炎精霊と同じ図式みたいだ。

もしかして「食事」にでも行くのかと僕は聞いてみた

カナールは

「よう分かったな、当たりや。

この時期になるとこの地域は嵐になる。

雷もバンバン発生するんや。

そや、君らも来たらどうや。

「食事」をしたことなというしな。

嵐ともなればかなりの風が吹く。

君らにとっても好都合やと思うし」

と言ってくれた。

僕はパートナーのリャカヤと相談すると彼に告げた。


 家に帰ってリャカヤに話してみるとリャカヤは

「いいじゃない。

私も興味あるし、「食事」というものに。

精霊としてもステップアップしたいしね」

とあっさり了承してくれた。

意外にも拍子抜けだ。

いつもこういうことには渋るくせに、と思いつつ僕らはカナールたちと同行することになった。


 それから2日後、それは突然やって来た。

もちろん嵐だ。

僕らは嵐の中心に向かった。

突然やって来たと言っても雨雲まで約10キロ、僕ら精霊にとってとんでもない距離だ。

近くにやって来るまで待てば良いと思う人がいるかも知れない。

嵐は地上に入ると急速に力が弱まる。

つまり海上で「食事」を摂る必要があるのだ。

僕らはちょっとした旅に出掛けた。


 まだ僕は空を飛ぶのが苦手だ。

しかし、目的地には直線で行った方が圧倒的に速い。

僕は渋々空を飛ぶことを了承した。


 精霊は本気を出せば時速100キロ以上で飛ぶことが出来るそう。

今回の距離で考えるとおよそ6分で付くことになる。

しかし、僕は非常に遅くMAXで時速2キロだ。

僕はそのことを彼らに告げると彼らは慌てて今すぐ出て行くと言い出した。

僕らは取るものを取らず急いで出掛けていった。


 3人は僕のスピードに合わせゆっくりと飛んで行った。

非常に気まずい。

リャカヤは僕のことを分かっているが他の2人には非常に申し訳ない。

カナールは

「しっかし、風の精霊で空を飛ぶことが苦手なやつを初めて知ったよ」

とあきれていた。


 カナールとライーズは面倒くさそうに僕らを見守りつつ且つ僕らを飽きさせないようにいろいろと楽しませてくれた。

さすがに漫才はしてくれなかったが、前世の頃に遊んだ懐かしいゲームをして遊んだ。

まるで遠足の時のバスの中のレクリエーションのように。


 そうこうしていると目的地に着いた。

もちろん嵐の中だ。

カナールとライーズは雲の中に行くようだ。

僕らは嵐の中に向かって突き進めばいいらしい。

そうすれば自ずと「食事」が出来るとのこと。

つまり僕らはここから別行動だ。


 嵐の中は非常に激しい雨が降っていた。

僕ら精霊は物理法則を超越した存在だ。

雨で体は濡れることはない。

しかし、なぜか風を感じることが出来るようだ。

風の精霊なのに吹き飛ばされそうだ。

僕らははぐれないようにリャカヤと手を握って進んだ。


 僕らが進む中、雨粒はいつもの直線的な動きではなく斜めに僕らに向かってくる。

そして僕らの体の中を雨粒がすり抜けるのだ。

不思議な感覚だ。

本来は感じないんだろうけど雨粒がすり抜ける度にひんやりとした感覚を全身に受けるのだ。

非常に気持ちいい。

多分前世の感覚が残っているのだろう。

中心に向かうに従って雨粒の量も勢いも激しくなる。

当然風の勢いも強くなるのだが、なぜか風の勢いが増す度に気持ちよくなってくる。

雨粒のすり抜ける感覚はどうも体の中を風が吹き抜ける感覚と同化していくようだ。

非常に心地いい。

多分雨粒のすり抜ける感覚と風が体を吹き抜ける感覚は同じものだろう。

そう僕は思った。


 気がつけば嵐は消えていた。

そして僕はリャカヤと抱き合っていた。

どうやら僕らはお互いに無意識で支え合って風をしのいでいたらしい。

しばらくしてカナールとライーズも帰ってきた。

カナールは

「どうや、初めての「食事」は?」

と聞いてきた。

僕は

「まるで精霊観じんせいかんが変わる出来事でした。

僕らはこの自然のエネルギーの上で生きているのですね」

と答えた。

カナールは

「そうや、だから僕らはこの自然に感謝しなければならない。

僕らは自然と共生しているのだから」

僕は

「そういえば嵐はどうなったんですか」

と聞いた。

カナールは

「別に嵐は消えた訳やない。

通り過ぎて行ったんや。

精霊はエネルギーを食いつぶすことはあらへん。

そんなことは出来んしな。

僕らは自然のエネルギーのほんの少しを頂くだけや。

年に1回だけやしな。

僕らが自然に影響を及ぼすことはあらへんから気にすることはないよ」

と答えた。


 それからまた5時間かけて家路に着いた。

着いた頃には朝になっていた。

昼間に出掛けたので要した時間は12時間以上。

それから他の精霊たちの初めての「食事」についての質問攻め。

自分の家に着いた頃にはどっと疲れが出ていた。

恐らく今日は1日中寝ているのだろうと思い、僕はベッドの中に入った。


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