湖
この(人間の)世界に来てから大分経つがまだ僕はこの(人間の)世界にいる精霊をあまり知らない。
ていうか近くに住んでいる精霊のことがあまり知らないのだ。
精霊は気まぐれらしくほとんど家にいない。
ここに来て半年近く経つのに炎の精霊のペアとと雷の精霊のペアしか会っていない。
その4人の精霊ですら会うのはたまでしかない。
だから僕は今回は意識を持って精霊に会いたいと思う。
僕が今回会いたいのは水の精霊のペアだ。
精霊は基本ペアで行動するのが基本らしい。
だから僕のペアである風の精霊のリャカヤと相談し水の精霊に会うことにした。
それからいろいろと噂を聞き集め水の精霊は近くの湖に出没していると言う有力な情報を得た。
近くの湖というのは僕らが住んでいる街より10キロ離れた森の中。
普通の人間は入らないうっそうとした森でその奥深くにあるのだそうだ。
もちろん僕らは精霊なのでそんな森はへっちゃら。
空から飛んでいけば迷うことはないし湖を一目で発見できる。
問題は僕が空を飛ぶことが苦手なこと。
リャカヤは
「良い機会だから空を飛ぶ練習も兼ねて飛んでいきましょう。
あなたは他の精霊に比べて空を飛ぶのが苦手なのだから。
だいたい、私たちは風の精霊。
空を飛べない風の精霊なんて聞いたことがないわ。
だから、あなたのためでもあるんだから飛びましょう。
多分2,3時間で付くから」
そのリャカヤの説得で僕は諦めて空路を行くことにした。
僕はなんとか4,5時間かけて目的地に着いた。
正直着いた時には疲労困憊だった。
それから程なくして水の精霊のペアに出会うことになった。
見つけるのは本当に簡単だった。
だって湖の畔から大きく楽しそうな声が聞こえてきたから。
僕たちは疲れていたのもあってしばらく水の精霊のペアの様子を見ていた。
その時僕はふと疑問に思った。
水の精霊たちはほとりにいるばかりでいっこうに湖に入ろうとしない。
なぜ水の精霊たちは湖に入らないのか。
僕の偏見なのかもしれないが水の精霊と言えば湖に入っているのが自然なことだと思う。
リャカヤも
「あの2人変ね。
なぜ湖に入ろうとしないのかしら。
湖に入らない水の精霊なんて聞いたことがないわ」
と言っていた。
そうこうしていると向こうが僕たちの存在に気づいた。
精霊の男の方が
「珍しいな。
俺たち以外に精霊がいるなんて」
と声をかけてきた。
女の方も
「本当に珍しいわね。
そういえば新顔さんかしら」
と話しかけてきた。
その声に応え僕らは一通り自己紹介をした。
そうしたら彼らも自己紹介をした。
「俺の名前はキリド、水の精霊だ。
よろしくな」
「私の名前はシュージア、同じく水の精霊よ」
一通り自己紹介が終わり僕らはある疑問を突きつけた。
それはなぜ湖に入らないのかと言うことだ。
キリドは仕方なく
「なんか水の中って怖いじゃん。
だから俺たちは入らないんだよ」
と水の精霊らしくない答えをした。
キリドは続けて
「水の中って息が出来ないじゃん。
だから長時間おれんのよ」
と話した。
僕は
「それはおかしい。
なぜなら精霊に呼吸は必要ないはずだから。
多分精神的なものだよ。
いいから一緒に潜ろうよ」
と誘った。
それでも彼らは逡巡した。
その様子に僕もリャカヤもイライラした。
リャカヤは
「いいから腹をくくりなさいよ。
あなたたちは水の精霊なんでしょ。
しかも上位の精霊と聞くわ。
水の中には入れないなんて水の精霊の名折れよ。
早く入りなさい!!」
と急かしてきた。
僕たちは無理矢理彼らを湖に引きずり込んだ。
水の精霊たちは始めはもがき苦しんでいた。
まさに溺れていたのだ。
しかし、10分ぐらい経つと水の中になれてきたみたいで顔から苦しみが取れていた。
ていうかだんだん笑顔になっていく。
そして水の中で僕らに感謝していた。
その顔を若干泣いて喜んでいたようにも見えた。
僕ら4人はそれから小1時間、水の中で過ごした。
湖から上がるとキリドは
「本当にありがとう。
これで水の精霊としての自信が持てた。
何で水に苦手意識を持ったかというと「水の国」での「水の卵」での経験だと思う。
あそこは本当に苦しかったから。
でも、あそこが特別な場所だって事は今はっきりと分かったよ。
本当にありがとう」
シュージアも
「本当にありがとう。
やっと本物の「食事」が出来たわ。
湖の畔でも出来てはいたのだけど本物の「食事」とはやっぱり違う。
やっと精霊として成長できた気分だわ」
よく分からない単語が出てきた。
それは「食事」という単語だ。
なぜなら精霊はものを食べる必要がない。
と言うか出来ないのだ。
しかも彼らは水の中で何かを食べている様子はなかった。
僕らはその意味を彼らに聞いてみた。
そうしたらシュージアは
「時期に分かるわ。
それが分かると精霊として一皮むけたことになるの。
成長の証ね。
その意味は自分たちで見つけて実感してほしいから。
だから今は教えられないの」
僕たちは精霊としてまだ知らないことばかり。
これからもいろんな事を知って精霊としての成長をするのだろう。
その未来に僕の胸が高鳴る鼓動が聞こえてきた。




