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味噌煮込みうどん

 突然だが僕は味噌煮込みうどんが好きだ。

味噌煮込みうどんとは八丁味噌で煮込んだうどんのこと。

僕はそれが大好きだった。


 精霊になった今、僕はものを食べることが出来ない。

精霊自体食べることが出来なくても生きていくことが出来るのだが、いかんせん食事という楽しみがないのだ。

人間の家で暮らすようになってからそれをよく思うようになってきた。

ここの家の主人のイザルラと旦那のゴーディは決まった時間に食事をする。

それがとても美味しく見えるのだ。

そして無くなっていたはずの食への関心が湧き出てくる。


 ゴーディは職人だ。

僕らの家や家具、必要なものは全部精霊サイズに作ってくれる。

いわゆるミニチュア作りの天才だ。

そして食品サンプルも僕らのサイズで作ってくれる。


 ゴーディの凄いところは見たことのない食べ物でも僕らの話を聞いたところで忠実に再現してくれる。

味の再現はどうか分からないがにおいまで忠実に再現してくれるのだ。

非常にありがたい。


 僕らは人間の時の記憶を持っている。

確かに味覚は失っているけど見ているだけでもそれを美味しいと感じることが出来るのだ。

もちろん、その食べ物を見て人間だった時の記憶よみがえらすことも出来る。

食品サンプルといえども僕らの必須アイテムなのだ。


 僕の家にはいろんな食べ物がいろんな所に飾られている。

見ているだけで楽しいのだがそれらのほとんどは同居しているリャカヤの好物だ。

苺パフェや葡萄パフェ、桃パフェ、ショートケーキやチョコケーキ、チーズケーキなどスイーツ系が多い。

僕のリクエストはほとんど無い。

まぁ、頼んだこともないからしょうがないけれども。

だから今回が初めての注文だ。


 ここで何で僕が味噌煮込みうどんが好きなのか説明したい。

前世、僕は世間で言うところの天才と呼ばれた。

事実,10歳で大学に入ることが出来たのだ。

しかし、それはいろいろと制限されての出来事だ。

僕は一般的な子供と同じような成長はしていない。

僕の一生の大半は家の中で過ごし外に出ることを禁じられていた。

10歳で亡くなったからと言っても病弱ではない。

遊ぶ暇があったら勉強しろと親から強要されていたからだ。

別に勉強自体は苦ではなかった。

しかし、時々同年代の子たちと遊びたいと思うことも多々あった。

そんな僕の唯一の楽しみが月に1回の外食だ。

僕はそのお店で必ず味噌煮込みうどんを頼んだ。

僕はアツアツの味噌煮込みうどんをフーフーしながら食べた。

その時間が僕の唯一の贅沢だった。


 僕は別に前世の人生を恨んでいるわけではない。

今世では前世で出来なかったことを精一杯やってみようと思っているだけだ。

ただ、イザルラとゴーディの様子を見ていると人間だった時のことを非常に懐かしく思うようになってきただけだ。


 僕はゴーディに味噌煮込みうどんを発注した。

やはりというか何というかゴーディは味噌煮込みうどんというものを知らなかった。

僕は一生懸命説明したがうまく伝わらない。

そんなやりとりをしていると雷の精霊であるカナールがやって来た。

カナールはおしゃべりな人物だ。

1回、彼のうちにお邪魔したことがある。

その日は朝から夜まで絶え間なく繰り広げるマシンガントーク、聞いているだけで非常に疲れた。

話は確かに面白い。

芸人を目指せば一流の芸人になれたと思う。(前世はどうだったか知らないが)

語彙力も豊富だ。

僕は一旦、彼に味噌煮込みうどんの話をした。

彼は食べたことはないけれどそれを知っていた。

そして彼の巧みな話術でゴーディに味噌煮込みうどんの概要を話してもらった。

ゴーディはやっと理解してくれたようだ。


 ゴーディは早速絵を描き始めた。

味噌煮込みうどんの絵だ。

それは1時間もしないうちにかなりリアルに書き終えていた。

次は材料集めだ。

見てはいけないのかもしれないが食べ物とは似ても似つかぬものを集めてきた。

プラスティックの樹脂と見られるものや白くて細長いものを用意した。

ちなみにこの世界でもプラスチックは存在する。

見た目は中世のヨーロッパのような町並みだがその実は非常に近代的なのだ。

ゴーディは器用にまずは土鍋を作り、その中にホースのうどんを入れた。

材料からするとトンデモだが僕らは食べることが出来ないのでそれで充分なのだ。

そして土鍋に茶色の液体を入れた。

そしてそれに熱を入れ液体を固めた後、プラスチックで作った具材を並べ入れた。

鶏肉、ネギ、椎茸など。

卵も入れてくれて極めつけにエビ天まで入れてくれた。

僕はよくこんな知らない食べ物を正確にしかもミニチュアサイズで再現してくれるものだと感心した。

ここからが真骨頂だ。

彼はこの再現してくれた味噌煮込みうどんに香りを付けてくれるのだ。

それも忠実に。

彼は棚からいくつかの薬品を調合し始めた。

いわゆる香料の調合だ。

彼は香りの再現も超一流だ。

1時間もしないうちに香りの調合が終わり食べれないのを除いて完璧な味噌煮込みうどんを作り上げたのだ。


 僕はメチャクチャ感動した。

人間だった頃の記憶がよみがえるようだ。

そして今度から僕の好きな食べ物を順々に頼もうと思う。

しかし、この味噌煮込みうどんは何処に置いたら良いのかリャカヤと要相談である。


 

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